第3話 再会


 ドーンさんとラキルと一緒に家を出た。


 カシワ村は、ヨーロッパの田舎のような雰囲気だ。……行った事はないけど。

 木造の家。石垣。井戸の横で猫が寝てる。小さな畑。どこかでニワトリが鳴いた。

 僕がキョロキョロしていると、ラキルが「後で村の中を案内してやるよ!……服も買わないとな」と言って……笑うのを我慢してる顔だ。


 ラキルは、腰に大きな剣をさげている。

 ドーンさんは、さらに大きな剣を背中に背負っていた。

 本当に、この剣で魔物って言うのと戦うんだろうか……。魔物って、どんなのだろう?妖怪?怪獣?もしゾンビみたいなのだったら……。ゾッとする。

 でも……この人達が戦うところを見たいな。ちょっとワクワクしてしまう。


 村は、木で出来た頑丈そうな高い柵で囲まれていた。村から歩いて出ると、真っ直ぐ続く道がある。街道と言っても、道幅は広いが地面は土だ。左右には麦畑が広がっている。ずっと遠くに山が見える。空気が美味しいな、と思った。

 麦畑が途切れると林になった。なんだかハイキングをしてる気分だ。

「……お前、戦えそうにないのに、余裕だな」

 ドーンさんに睨まれた。

 普通はもっとビクビクするものなのかもしれない。気を付けよう。

「タロの国は魔物が少ないのかもな?ま、大丈夫だよ、この辺にはフォンマウスとか小物しか出ないし……万が一大物が出て来ても、俺とマスターは強いからな!」

「おい、ラキル。慢心は死の一歩手前だ、といつも言ってるだろうが」

「へーい」

 ドーンさんは本当に強そうだし……大丈夫なんだろう。でも、こんなに自然が豊かでのどかなところに、魔物なんて出るんだろうか……。


 

「あそこだ」

 二十分くらい歩いた頃、ドーンさんが少し先を指差した。


「ここにお前が倒れてたらしい……何か思い出さないか?」

 そう言われても……。思い出したのは、全身の信じられない痛みだけだ。

 僕は首を振った。

「マスター、タロを誰かがここまで運んで来たなら、馬車か荷車を使ったはずだよな?」

「そうだろうな。だが、担いで森の中を歩いて来た可能性もあるな」

「誰か、見た人が居るかもしれない」

「ああ、ナーラのギルドにも報告しておこう……ん、あれは何だ?」

 ドーンさんが林の中に入って行った。

 僕達もついて行く。

「……なんだ?コレは。死んでるが……魔物じゃ、ないな……犬?」


 !!!

「ジロー!!!」

 間違いない、ジローだ!

 僕はジローに飛びつき、その白い体をぎゅっと抱きしめた。ジローは……冷たくなっていた。

「ジロー!ジロー!!死ぬな、ジロー……!!」

「タロ、声……」

「おかしいな、昨日はこんなモンなかったぞ。大体、なんで犬が……?」


 ジロー……死なないで……!!


「……おい、お前──」

「!? タロ、蘇生が出来るのか!?」


 一瞬、ジローが動いた気がした。

「ジロー!?」

 ジローの顔を見る。うっすら目を開けた!

「生きてる!!お願い、ジローを助けて!!!」

 僕は必死で二人を見た。

「タロ、落ち着け。回復魔法が使えるんじゃないのか?」

「なんだよそれ!魔法なんて使えないよ!!」

「落ち着けって。その犬、助けたいんだな?……よし、俺の言う通りにやってみろ」


 ─── 集中しろ。……魔力は、お前の中のエネルギーのようなものだ。自分のエネルギーを分けてやるイメージだ。魔力を送り込むんだ。必ず治る、と信じろ……そうだ、いいぞ!──魔力を送り込むんだ。必ず出来る───送り込め───信じろ───


「ジロー……」

「ワン!」

 !?

 目を開けると、目の前にジローの顔があった。

「ジロー!!良かった……!助かったんだね!」

 ベロベロと顔を舐められる。しっぽが千切れそうなほどバタバタと振られて……なんか、大きくなってる気がするけど……でも、ああ、ジローだ!

「良かったな、タロ」

「タロウ、お主、蘇生したそうじゃな!?」

「おかしい……死んでると思ったんだがな……」

 あれ?そう言えば、ここは部屋の中だ。僕は……

「なあなあ、コイツ、ジローっての?タロの国の犬か?」

「タロウや、ワシの弟子になれ!いや、ウチの子にならんか!?」

「で、記憶は戻ったのか?何があったんだ?」

 みんなが一度に話かけてくる。ジローに顔を舐められ続けていたので、ひとまず……

「ジロー、ちょっと待って……お座り!」

「ワッフ」

 ジローはちゃんと座って僕を見る。

「おお……」

 みんなが黙った。


「あ、あの、ありがとうございました」

「ん?……ああ、タロを運んだ事か?」

「色々、全部……。僕とジローを助けて貰って……」

「犬はお前が助けたんだろ」

 え?僕?……あ、そう言えば、あの時……。

「まさか、と思ったけどな〜!じいちゃんに言われ続けた事、そのまま伝えたんだ、俺」

 そうだ、ラキルに言われるままに、ジローを助けたくて夢中で……。

「タロウ!凄いぞ!お主には素質がある!鍛練すべきじゃ!!」

 ……なんか、さっきからお爺さんが興奮してる?

「おい、お前らいい加減にしろ!」

 ドーンさんの大きな声が部屋に響く。

 ……なにしろ、今この部屋の中はぎゅうぎゅうだ。僕の居るベッドの周りにジロー、ラキル、お爺さん……その後ろにどーんと大きなドーンさん。

「ラキル、先生、後にしてくれ……坊主、何か思い出したか?」

「えっと……ごめんなさい……」

「その犬は?」

「ジローは僕が子供の頃から一緒で……でも何であそこに居たのかは……」

 ジローも、僕と一緒にこの世界に飛ばされたのだろうか。

「……結局、謎が増えただけだな……また話を聞かせてもらうぞ」

 ドーンさんは僕とジッをじっと見てから部屋を出て行った。

 もの凄く怪しまれてるな、僕……。


「さあ次はワシの番じゃ!タロウ、回復魔法は前から使えたのかの?習った事は!?」

「い、いえ……」

「ほうほう、ならば突然、秘められた能力が開花したのか!」

「……じいちゃん、興奮しすぎ。タロが引いてるぞ」

「これが興奮せずに居れるか!!……まぁそうじゃの、少し落ち着こうかの」


 お爺さんの話をまとめると、どうやらこう言う事だ。

 僕があの時、ラキルの言う通りにやった事が、回復魔法らしい。現にジローが元気になっているんだから、そうなんだろう……実感ないけど。

 僕は魔力をほとんど使い切ってしまって意識を失ってしまった。

 回復魔法の最高レベルが蘇生と言われていて、普通は長年修行しなければ習得できないし、そもそも素質と適性がなければ使えない。

 エルフはもともと魔法の適性が高く、その中でもお爺さんは『最高の回復魔術師』と呼ばれている程の腕の持ち主だそうだ。だが、お爺さんの娘……ラキルのお母さんは魔力は高いが攻撃魔法の方に進んでしまい、孫のラキルは魔法の勉強よりも剣の修行に夢中で、魔力もあまり高くない。お爺さんは後継者を探していて……僕にそれを望んでいるっぽい。


「タロウがこの家に来たのは、きっと神のお導きだったんじゃ!」

 小さな瞳をキラキラさせてるお爺さんの、僕を助けてくれたお爺さんの頼みを断るなんてもちろん出来ない!……それでお爺さんが喜んでくれるなら僕も嬉しい。

「ご期待に沿えるか分かりませんが……宜しくお願いします」

「おお!そうか!タロウ、ワシの全ての知識をお主に渡そう!」


 お爺さんが熱く語っている間、ラキルはジローと遊んでくれていた。

「……ラキルもワシの血を引いているんじゃから、ちゃんと勉強してくれればのう」

「回復師って……地味なんだよなぁ。タロ、俺と一緒に剣の修行もしようぜ!」

 剣の修行……!

 うう、それも捨てがたい……!剣で魔物をバッサバッサと切り捨て……

「……ラキル、邪魔をしたらこの家から追い出すからの」

 お爺さん、目が本気だ。

「おっと、そろそろ昼だな!タロ、昼飯の買い出しに行こうぜ!……じいちゃん、タロの服も買うから、かねくれ!」

「まったくお主は……ほれ……タロウも、コレで必要なモノを買って来なさい」

 お爺さんは金貨を三枚、小さい巾着袋に入れて、僕にくれた。

 どれくらいの価値か分からないけど……本物のきんだったら凄い価値なんじゃないか?そんなに甘えてしまうのは気がひける……。

「遠慮はいらんよ。ワシはこう見えて金持ちじゃ」

 ……僕も仕事を探して、ちゃんとお金を稼いで、返そう。

「……お爺さん、ありがとうございます……あっ、ラキル待って!ジローも連れて行っていい!?……ジロー、行こう!」

「ワン!」





















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