第107話 突撃!新婚宅

「いらっしゃい。」


とある土曜日、俺は史華と香澄と一緒に姉貴の新居に来ていた。


「綾姉、お邪魔しま〜す。」


香澄が我先にと玄関を上がる。

もちろん、靴はちゃんと揃えている。親しき中にも礼儀ありだな。


「お姉さん、遅くなりましたがお引越しおめでとうございます。これお土産です。」


史華はくる途中でバイト先に寄りケーキを買ってきてくれたみたいだ。


「ありがとうね、史華ちゃん。実家ね、私がいなくなって部屋が空いたからいつでも同棲できるわよ。姑はいるけどね。」


まあ、姉貴が引越したのは確かなんだけど、


「姉貴、荷物だいぶ残ってるんだよな?」


「さ、史華ちゃん、狭い家だけど案内するわ。」


姉貴は俺を残して史華の背中を押して行く。

さっさと片付けろよ。


「さあ、ここがリビングよ。」


「「「……」」」


「こっちがキッチン、リノベーションしてアイランドキッチンにしてもらったの。」


「「へ〜」」


「で、ここが寝室。中は恥ずかしくって見せれないんだけどね。」


姉貴に羞恥心が残ってるとは思わなかったわ。


「で、ここが—」


「綾姉、いつまでやるのよ。」


とりあえず話を合わせていた香澄が付き合いきれずに口を開いた。


「せっかくの新居なんだから自慢くらいさせなさいよ。」


姉貴はその香澄の姿に堪えきれなくなり「クククッ」と笑い出した。


「どの部屋もレイアウト一緒なんだなら自慢にもならないでしょ!せいぜいリノベーションされたこのアイランドキッチンくらいだよ!」


そう、この部屋のレイアウトは俺も香澄もよく知っている。

なぜならこの部屋、姉貴の実家つまり俺の家の真下の部屋なのだ。


「香澄ちゃん。もうちょっと乗っても良かったんじゃないかな?」


姉貴をフォローしている史華でさえも笑いを堪えるのに必死だ。


結婚を機に一軒家を建てることも考えてたようなんだが、姉貴がまだ学生だということも考慮した結果、空いていた下の部屋に決めたそうだ。


「義兄さんは?」


「新学期が始まったばかりでいろいろ忙しいみたい。15時くらいまで仕事みたいよ。」


倉重先生は今年度は1年の担任だ。新入生は提出の書類も多いだろうから大変なんだろうな。でも、


「確か副担任の新任の先生、大卒の女だったよな。今頃2人っきりでいろいろ準備してるんだろうな。」


姉貴相手にマウントを取ってみたいだなんてそんなことは少ししか思ってない。

でも、珍しく取り乱した姿とか見たいと思うわけでね?


「ああ。そうらしいわね。」


「へっ?綾姉それだけ?」


香澄もあっさりとした反応にびっくりしている。


「あのねあんたたち。去年までだって誠さんの周りには若い女性がいっぱいいたのよ?いまさら焦ることなんてないわよ?」


テーブルに飲み物を置きながらため息をついた姉貴が香澄の隣に座った。


「そ・れ・に。誠さんを信じてるからね。それが一番じゃない?」


結局は惚気たかっただけかよ!


♢♢♢♢♢


そうちゃんと史華ちゃんはバイトがあるということで一足先に帰ったので、部屋には綾姉と私だけになってしまった。


「香澄、生徒会はどう?」


飲んでいた紅茶をテーブルに置きながら綾姉が聞いてきた。


「どうって、先生に聞いてるんでしょ?」


わかってるくせにという意味をこめて天井を仰ぎ見る。


「あんたの口から聞きたいのよ。」


まあ、綾姉ならそう言うよね。


「1年生が志願入りしたよ。中学時代の後輩の白金鏡花ちゃん。今年の総代だよ。」


綾姉は面識なかったよね?

学年的には入れ替わりだから接点はないはずなんだけどなぁ。


「知ってるわよ。」


「あれ?なんで?」


綾姉の交友関係だとそんなに知り合いは多くないはず。


「あんた今、失礼なこと考えたわね?」


ピクッと綾姉の眉が動いたので、しれっと視線を逸らした。人の心を勝手に読まないで欲しい。


「で、なんで知ってる?」


とりあえず話題を逸らそうと話を元に戻した。


「まあ、いいわ。白金さんとは去年のオープンキャンパスで会ったのよ。ちゃんと名乗ったし生徒会のことを質問されたからね。」


納得。それなら交友関係の広くない綾姉でも会う機会があるよね。


『ゴンっ!』


いきなり頭に痛みが走り思わず手で押さえた。顔を上げると綾姉が右手におぼんを持ちながらため息をついている。


「口は災いのもとよ」


「だからっておぼんは痛いからね!」


「そう?今度から手刀にするわ」


綾姉が右手を振り上げて私の頭に振りかざすフリをする。


「わかった!わかりました!私が全面的に悪いです!」


「わかればよろしい」


凶暴なところは結婚しても変わらないみたいだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る