第106話 new power

「ようこそ生徒会室へ。私が生徒会長の聖川香澄です。」


「……知ってますけど?」


鏡花ちゃんに空いてる席に座ってもらい、私は自分の席に座って威厳を込めて自己紹介した。


「あ、うん。だよね。」


鏡花ちゃんは真面目すぎてノリがイマイチよくない。


「突然の訪問申し訳ありません。」


深々と頭を下げてる鏡花ちゃんに多少面食らいながらも、生徒会長としての……まあいいや。


「問題ないよ。で、どうしたの?生徒会に入りたいとか?」


わかりやすく鏡花ちゃんがビクッと身体を震わせた。


「さすが聖川先輩ですね、話が早いです。昨日入学した若輩者でありながら生意気言って申し訳ありません。」


「新入生総代が何言ってるのよ。元々勧誘するつもりだったからこちらとしては都合が良かったよ。」


慣例として、その年の新入生総代には声を掛けることになっている。去年、私も綾姉に捕まった。


「では入れていただけるという解釈でよろしいですか?」


「ん?その前に一つ確認。鏡花ちゃんは生徒会に入って何がしたいの?」


和かな表情が引き締まり、私の目を真っ直ぐに見つめてくる。うん、もちろんわかってるよ?でもね、確認しなきゃね。


「……中学入学したてのころ、人見知りな性格の私はクラスに馴染めませんでした。」


入学当初は私達の学年でも噂されてたもんね。白金家具の社長令嬢は容姿端麗、成績優秀のお嬢様だって。


「そんな私を助けてくれたのは涼風であり、萌でした。」


2人との出会いを思い出したのか、鏡花ちゃんの表情が綻ぶ。


「面倒見の良い涼風と人懐っこい萌と一緒にいることによって少しづつ周囲とも馴染んでいけるようになりました。私自身、コミュニケーションが得意でないことは承知しております。そんな私でもできることがある。」


鏡花ちゃんの視線は史華ちゃんに注がれている。


「史華さん、私は涼風と萌と同様。いえ、それ以上に総士さんに感謝しているんです。」


「総士に?」


鏡花ちゃんは中学時代、萌ちゃんの仲介でそうちゃんと知り合ったそうだ。


「小さい頃から人付き合いは苦手だったんですよ。」


そう言う鏡花ちゃんは苦笑いを浮かべる。


「史華さんもご存知の通り、うちの父は私にすごく甘く、あまり人前にも連れてってもらえなかったんです。ですので周りにいるのは大人ばかり。兄と弟がいるんですが男兄弟だけで遊びに行ってしまい、同年代の子たちと遊ぶ機会もありませんでした。ですので学校でも1人でいることが多くて。」


良くも悪くも人を寄せ付けないオーラを出しちゃってるからな〜。側から見ると孤高の〜って言われがちだよね。


「あの子たちくらいだったんですよ。普通に話しかけてきてくれたのは。」


壁を無視する萌とぶち壊す涼風ちゃんだからね。


「全然違うタイプなのに仲がいいのはそういう理由があったのね。」


「2人には頭が上がらないんですよ。」


「うん?それはないかな?」


「聖川先輩なにか?」


「ひっ!い、いえ。なんでもないですよ」


射殺すような視線!

相変わらず私には容赦ないなぁ。

まあ、そこがこの子のかわいいところだけどね。


「全く、話の腰を折らないで下さい。」


「えっ?え〜。」


私何か悪いことしたかな〜?


「では、改めてまして。いつまでも2人に甘えてちゃだめだって思い、私も頑張ってみんなの輪に飛び込んで行こうと思い、考えて考えていろいろ試してみたんです。でも……ダメでした。無理してストレス溜めて。そんな時に萌が紹介してくれたのが総士さんだったんです。」


いやいや、待って!厳密に言うと萌が紹介したのは私だよ? 


「聖川先輩?」


「香澄ちゃん」


不思議そうに私を見つめる2人。


「えっ?何?」


「本当に聖川先輩が会長で大丈夫なのですか?」


訝し目で見てくる鏡花ちゃん。史華ちゃんも苦笑い。みやびちゃんに至っては後ろを向きながらも必死に笑いを堪えている。


「うん、基本総士絡みでなければ頼りがいあるからね。今は……どうしたんだろうね?」


「小説のヒロインにでもなったつもりなんでしょうか?聖川先輩。さっきから心の声がだだ漏れです。言われてる私の身にもなって下さい。」


「嘘!私、口に出してたの?」


「ぷっ、くっくっくっ。だ、だめだよ香澄ちゃん。本人よりも先に説明しちゃうんだもん。なかなか2人がツッコンでくれないから私も我慢するしたなかったよ。」


机に手をついて笑い出したみやびちゃんにジト目を向けながら八つ当たりをする。


「みやびちゃん、なんで教えてくれなかったのよ!」


「はっはははは。無理言わないでよ。私にだってフォローできる時と出来ない時があるんだから」


今は笑い過ぎて無理ってことね。

私は席を立ち呆れ顔の鏡花ちゃんに素直に頭を下げた。


「うぅぅ、話の腰を折ってごめんね?続きをどうぞ。」


右手を出して話の先を促す。


「はぁっ」とため息を漏らしながらも鏡花ちゃんは話を続けてくれた。


「えっと、総士さんとの運命的な出会いでしたね。その日もなんとか周りに馴染もうと人の輪に入っていこうと思ったんですが、立ち竦んでしまって動けなくなっていたんです。」


♢♢♢♢♢


「さあ、鏡花ちゃん行くよ?」


「あっ」


私の悩みを知っていた萌は私がまわりと関われるように、クラスの子たちが集まっているのを見つけると私もその中に入れるようにしてくれていました。その時はたまたま萌と少し離れた場所にいたので、萌が先に行ってしまう形になってしまいました。


「も、萌。」


躊躇してしまったためにタイミングを逃してしまい立ち竦んでいると、後ろから声をかけられました。


「どうした?」


その声になんとか反応すると、総士さんが心配そうに覗き込んでくれていました。


「大丈夫か?顔真っ青だぞ。汗もすごいな。熱あるじゃないか?」


自分でも息苦しさは感じていたんです。


「ちょっと座りな。」


私がそのまま地面に座り込みと総士さんがタオルで汗を拭っりながら優しく話しかけてくれたんです。


「話くらいは聞いてやれるぞ?」


迷いながらも私は自分の抱えていた悩みを打ち明けたんです。


「そっか。お前、頑張り屋なんだな。」


総士さんは萌達を見ながら私に言ってくれたんです。


「無理しなくてもいいんじゃないか?」


「えっ?」


「そこまで自分を追い込まなきゃいけないことなのか?別にみんなに好かれる必要はないだろ?」


「はい。」


「萌も涼風も友達だろ?」


「……はい。」


「素のままのお前と友達になったんだ。他にもそういうやつもいるはずだ。無理なく付き合えるやつと友達になれよ。」


嬉しかったんです。無理していることに気づいてくれたことが。無理しなくていいと言ってくれたことが。


「俺は素のままのお前も悪くないと思うぞ。」


素のままの私を好きだと言ってくれたことが。


♢♢♢♢♢


「だから私は生徒会に入りたいんです。」


席を立ち両手で拳を作り力説する鏡花ちゃん。この子も大概にポンコツかも。


「鏡花ちゃんの今の説明って、そうちゃんを好きになった理由だよね?」


問題ある?とでも言いたげな表情の鏡花ちゃん。私がお願いしたのは生徒会に入りたい理由だったんだけどなぁ。


「と、言うわけで私は学校に馴染めない子たちの手助けをしたいのです。」


あ、それそれ。

わざわざ溜めたのかな?


「理由は了解。史華ちゃん、みやびちゃんどうかな?」


先輩達には後で説明しよう。

2人は顔を見合わせて頷き合う。


「白金鏡花さん。あなたを生徒会役員に任命します。役職に関しては先生と相談してからね。」


緊張していたらしく、ホッとした表情を浮かべる。


「ありがとうございます。これからお世話になります。」


「こちらこそよろしくね。」


頼もしい後輩が仲間になって……くれたかな?

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