第105話 始業式
「はぁ」
「朝からため息?珍しいね」
始業式の朝、これからの学校生活のことを考えて少し憂鬱になっていました。まさか総士に想いを寄せる後輩が入学してくるなんて。
しかも3人ともかわいい上に積極的です。
「ちょっとね」
「どうせ総くん絡みでしょ?何か知らないけど悩むだけ無駄だと思うよ」
公佳がため息混じりで言ってきますがどれだけ信じていても悩みは尽きないもの。
"ブルブル"
スマホが震えたのでフリックで画面を開くと総士からのメッセージでした
総士
おはよう、まだ家か?
吉乃史華
おはよう、もうすぐ出るよ
何か用事かな?と思っていましたがそれ以降はメッセージはきませんでした。
「行ってきます」
登校する時間になったのでローファーを履き玄関を出ると道路の反対側に見たことない自転車にまたがった総士が待っていました。
「おはよう」
笑顔で挨拶してくれた総士に駆け寄り「おはよう」と返しました。
「こんな時間にどうしたの?急ぎの用事?」
「いや。これからは一緒に行こうかなって思ってさ。サプライズにしたくて黙ってた。」
「えっ?でも私も自転車だと遅くなっちゃうよ?」
「はい。」
総士は背中に背負っていたデイパックから長方形に折り畳まれたクッションを差し出してきました。
「2ケツしてこうぜ。青春みたいでいいだろ?」
「……本当はだめだけどね?」
「固いこと言うなよ。遅くなるから早く乗れよ」
さっきまでの憂鬱はどこに行ったのでしょうね。両手でしっかりと総士に抱きつき背中に耳をくっつけました。トクトクと総士の心音が聞こえて安心します。
「おっと、忘れてた。」
突然総士が振り返ったかと思うと私の顔を上げさせて軽くキスをされました。
「おはようの挨拶。」
「さっきしたのに。」
不意打ちに恥ずかしくなり顔を隠すと人が近づいてくる気配がしました。
「朝からご馳走さま。」
「そこはおはようだろ公佳。」
「おはよう総くん。朝から見せつけないでよ。」
「朝から覗き見するなよ。」
「天下の往来で堂々とキスしておいて覗き見はないよね?」
公佳の言う通りですね。
私も最近じゃ総士に毒されたようであまり人目をはばからなくなってしまったようです。
「朝から元気がなかったのに総くんに会ったら鬱も飛んで行ったみたいね。自転車気をつけてね」
「お前も気をつけて行けよ」
「ありがとう。」
公佳が手を振りながら駅へと歩いて行きました。
「さ、こっちも行くぞ。」
「うん、よろしくね。」
♢♢♢♢♢
「やった〜!そうちゃんと同じクラスだ〜!」
昨日、自分のクラスは倉重先生に聞いていたけど、そうちゃんのクラスが気になりいつもより早い時間に登校した私は、1番にクラス発表がされている掲示板を見に行った。ちなみにそうちゃんの親友の葛城くんは史華ちゃんと同じB組でした。
「げっ!香澄と同じクラスかよ。」
えっ?その声に反応して後ろを見るとそうちゃんと史華ちゃんが仲良く並んでいた。
「香澄ちゃんおはよう。B組は〜、葛城くんかぁ。」
史華ちゃんは残念そうにそうちゃんの顔を見上げると、その頭に自然な動作でそうちゃんの手が添えられた。
「これからは毎朝一緒だからそれで我慢してくれ。」
「毎朝?そうちゃん電車に変えたの?」
「いや、2ケツ。」
「迎えに行ってるの?いいな〜、私も自転車で迎えに来てもらいたい。」
「いや、自転車置き場よりお前の家の方が近いだろう。」
ですよね。物理的にも叶わぬ願いでした。
「香澄ちゃん、早めに体育館に行かないと。」
いつの間にか目の前にきていた史華ちゃんに促されて急いで教室に行った私は自分の席に荷物を置いて体育館へと急いだ。
「倉重先生おはようございます。」
すでに体育館にきていた倉重先生と始業式の打ち合わせをしていたところにみやびちゃんがやってきた。
「香澄ちゃんおはよう。」
「おはよう。みやびちゃん。」
「聖川先輩おはようございます。」
なぜかみやびちゃんの背後に鏡花ちゃんがいる?
「おはよう鏡花ちゃん。どうしたの?」
「お話したいことがありますので、今日お時間作っていただけませんか?」
話し?そうちゃんのことではなさそうだなぁ。
「いいよ。お昼で終わりだし、放課後に生徒会室に来てもらえる?」
「わかりました。それでは放課後。」
それだけ言うと鏡花ちゃんは自分のクラスのところに向かって行った。
「みやびちゃん何か聞いてる?」
「ううん。さっきたまたま会っただけだから。」
なるほど、たまたま会ったみやびちゃんに私の居場所を聞いたってことね。それにしても鏡花ちゃんからの呼び出し。正直に言って告白されるよりも緊張するかも。
何を言われるのか検討もつかないもんな〜。
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