第104話 先輩は萌の憧れなんです

「おはよう、そうちゃん。」


どんよりとした気分で朝のランニングに向かった私を、いつもと変わらない表情で迎えてくれたそうちゃん。


「よっ、どうした暗い顔して。昨日の限定パンでも買い逃したか?」


昔から通っている近所のパン屋さん。

月曜日限定で惣菜パンが販売されているんだけど、限定20個と希少価値が高い。

しかも昨日は限定パンの中でも人気ランキング上位の味噌カツバーガーだった。


「ふふ〜ん。みやびちゃんと一緒にゲットしてきた……ってパンの話じゃないもん」


食いしん坊みたいに言われたのでジト目でそうちゃんを見ると、爽やかな笑顔を見せてくれた。


「うわ〜。」


「どうした?」


つい見惚れてしまいました。


「あ、なんでもないよ。爽やかなそうちゃんに見惚れてなんていないんだから。」


「朝から何言ってんだよ。そろそろ行くぞ。」


「あ、ちょっと待ってよ〜」


♢♢♢♢♢


「よし!準備OK!」


真新しい制服に袖を通し、姿見の前でリボンをキュッと結んだ。まだ着崩す勇気はないけどスカートの裾はちょっとだけ短くした。

もともとちんまりとした身体にアンバランスな胸が強調されてしまうので、ついつい猫背になってしまう。


高校生になって髪を茶色に染めた。

少しだけだよ?あまり明るい色にするとバカっぽくなっちゃうもん。バカだけどね。


翔栄に行きたいと言ったとき、中学の先生には呆れられた。


「花巻、現実を見ろよ。」


学年最下位が定位置だった私が進学校に?

涼風ちゃんにも鏡花ちゃんにも呆れられたよ?


「でもね、そうちゃん先輩と一緒の高校に行きたいの!」


不可能を可能にする。

バカだから、限界を知らない。

バカだから、諦めることを知らない。


本来なら中総体まで部活動は続ける予定だったけど前倒しで4月に退部した。そうちゃん先輩もかすみ先輩もいないんだもん。


塾に通い、鏡花ちゃんと涼風ちゃんにも勉強を教えてもらって迎えた高校受験当日。


「ちょっと萌、大丈夫?」


頑張り過ぎた私は、体調管理を怠り39°の高熱を出してしまった。


「ひゅん、だいひょうふ、だいひょうふ。」


テストをどう乗り切ったのか記憶がなく、気づいたら自宅のベッドで寝ていた。


「あ、あれ?」


帰り道で倒れた私を涼風ちゃんがおぶって帰ってくれたらしい。


「ふ、ふえ〜ん」


事態を把握した私は自分のバカさ加減に涙した。頑張ったのに!せっかくみんなが協力してくれたのに!


「やっちゃったよ。もうだめだよ。」


発表当日。

涼風ちゃんと鏡花ちゃんが家まで迎えに来てくれた、本当は行くつもりなかったんだけどね。


「あった!あったよ!」


「ふ〜、一安心ってとこですね」


涼風ちゃんも鏡花ちゃんも危なげなく合格。

私の番号は……


「萌!あった!あったよ!」


「え?見間違えだよ?もえちゃんと確認したよ?」


「こっちよ。」


2人に手を引っ張られて行ったのは合格者一覧の最後。


「ほらっ!補欠!」


補欠合格の1番上に私の受験番号があった。


「うそっ!」


「大丈夫、例年数人は合格辞退をするらしいですから。受かったも同然よ。」


数日後、鏡花ちゃんの言ったとおり翔栄高校から合格の連絡をもらった。


「ありがとうございます。入学します!」



入学式。


壇上にはのかすみ先輩がいる。


「生徒会長。」


入学式が終わった私たちは校門に愛しい存在を見つけた。


「あっ!」


私は2人との約束を忘れて駆け出していた。


「そうちゃん先輩!」


今日は入学式だから在校生はいないはずなのに!そうちゃん先輩に優しく抱きとめられた私たちは頬ずりする……予定だったのに、突き出した両手は空を切った。それどころか額にはそうちゃん先輩の大きな手。


「ほぇ?」


「久しぶりだな萌。」


変わらない先輩の優しい笑顔。


からのチョップ。


そして変わらない愛情いっぱいのいじり。


誰が中学生ですか!

これでも身長伸びたんですからね!

……5ミリほど


そして私の後ろにはライバルのかすみ先輩がいました。


「ごくっ!」


思わず生唾を飲み込むくらい綺麗になってます。私が勝てそうなのは若さとおっぱいくらいです。


「かすみ先輩!」


「どうしたの萌?」


「私、負けませんからね。覚悟しといてくださいね!」

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