第103話 3人の刺客
「そうちゃん先輩!」
懐かしい呼び方。
こんなバカっぽい呼び方をするやつを俺は1人しか知らない。
中学の後輩でサッカー部のマネージャーだった。
あの頃よりも明るい髪色。
あの頃と同じ髪型。
隣にいる史華よりも更に小さい小動物系の彼女は典型的な後輩キャラだろう。
全身でうれしさをアピールしながら飛びついてくるこのかわいい後輩を俺は優しく……、抱きしめずに右手で萌の額に当てて止めた。
「ほぇ?」
抱きとめてくれると思っていたのだろうか、萌は予想外の展開に目をパチクリさせている。
「久しぶりだな萌。」
「ふぁい!そうちゃん先輩お久しぶりです。」
両手で俺の手をどけて再び抱き着こうとする萌の頭上にチョップを落とした。
「いひゃい!にゃにをするんですか!かわいい後輩との再会ですよ!優しく抱きとめるべきです!」
鼻息を荒くして詰めよってくる萌は昔と変わらない。
男子からは総スカンを食らっていた俺にお構いなく近づいて来たうちの1人。
「お前、高校入れたんだな。どこぞの中学生が紛れ込んできたのかと思ったぞ。」
こいつと話してると自然と笑えてしまうから困る。
「失礼です!そうちゃん先輩は失礼です!お詫びを要求します!そうちゃん先輩は傷心の私を優しく抱きしめる—」
「こら〜萌!抜け駆け禁止って言ったでしょ!」
萌が詰めよってこようと背伸びをしたところで、真新しい制服に身を包んだ女子生徒が2人走りよってきた。
ポニーテールが似合う長身のこいつは
「総士先輩、お久しぶりです。なかなか道場にも遊びに来てくれないから寂しいじゃないですか!もっとも、私の家に遊びに来てくれてもいいんですよ?」
髪型以外はボーイッシュなくせして、やることは小悪魔チックな涼風は雅に頭が上がらない。
「涼風〜、私を素通りするとはいい度胸してるわね?」
姉弟子無視はだめだと思うぞ?
それに雅は後から俺に愚痴ってくるから勘弁してくれよ。
「み、雅先輩!お、お疲れ様です。」
「そうね。今日の稽古が楽しみになってきたわ。」
たしか涼風は昨年のジュニアの大会で優勝したって言ってなかったかな?着実に雅の背中を追いかけてるな。
「総士さん、ご無沙汰……、あらっ?隣にいらっしゃるのは史華さんではありませんか?」
いつの間にやら萌を押し除けて俺の前にいるのは
セミロングの黒髪に天使の輪が見える。
中学時代、クールビューティーと言われ下の学年では絶大な人気を誇っていた鏡花は東海地区が拠点の白金家具の社長令嬢だ。
「史華、鏡花と知り合いなのか?」
あまりの展開についてこれていない史華はしばらく固まったままだったが、頭をポンポンと叩くてぎこちなく見上げてきた。
「あ、うん。白金家具さんとはお父さんの会社との付き合いが長いから。鏡花ちゃん、お正月振りだね。」
なるほど、住宅メーカーと家具屋なら付き合いがあってもおかしくないか。正月の挨拶回りの時に会ってたんだな。
「しばらく見ないうちに大人っぽくなったな鏡花。」
萌を押し除けて目の前にきた鏡花をまじまじと見ながら言うと、「ありがとうございます。」と顔を赤らめて俯いてしまった。
「……もう。」
俺の袖口をひっぱりジト目で睨みつけてくる史華。
あっ、彼女の前で他の女の子を褒めるのは悪手だったな。
「俺はかわいい彼女を迎えにきたんだけど?」
そっと抱き寄せて史華に耳打ちすると、不機嫌そうな表情が一変。
「……ありがとうね。」
はにかんだ笑顔を見せてくれた。
「「「ん?」」」
そんなやりとりを見ていた後輩トリオが訝しげな眼差しをむけてきた。
「雅先輩。説明をお願いします。」
ついさっきまでペコペコ謝っていた涼風が雅に状況説明を求めていた。
「香澄先輩?私達、先輩に宣戦布告をしにきたのですけど、相手を間違えてますか?」
さっきまでの愛くるしい笑顔がなくなった萌が両手を腰に当てて香澄に詰め寄っている。
「あはははは、私にされてもねぇ。」
渇いた笑いの香澄はなぜか涙目。
「史華さん、単刀直入にお聞きします。貴女は総士さんの彼女ですか?」
鏡花を筆頭に史華に詰め寄る後輩トリオ。
「うん。」
3人をしっかりと見据えて答えた史華に怯んだ様子はない。
「そうですか。まあ1年経ちましたし、総士さんの魅力に気付く人は聖川先輩、平川先輩以外にもいるとは思いましたが、まさか史華さんが総士さんと繋がっているとは思いませんでした。」
3人は顔を見合わせて頷き合っている。
「史華さん!ついでに聖川先輩、平川先輩。私達は総士さんの寵愛を奪いにきました!彼女がいようがお構いしません。全力で奪いにいくので覚悟しておいてください!」
力強く宣言した鏡花。
「「「え〜!」」」
「なんだこの展開。」
これからの学校生活に一抹の不安を覚えた。
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