第102話 サクラサク
「おはよう、そうちゃん。」
「おう。」
私が唯一そうちゃんを独占できる朝のランニング。始めた頃に比べるとだいぶ体力もついたしカラダも引き締まった。いつでもウェルカムだよ?
「春休みも終わっちゃったね。」
「俺は明日までだけどな。」
「むぅ、いいもん。史華ちゃんだって出勤だし。」
今日は入学式。
一部の生徒を除いて在校生はお休みだ。
生徒会役員の私はその一部に含まれるために今日から学校に行かなければならない。
「出勤って、お前はOLか。」
ストレッチをしながら呆れ顔で返された。
そうちゃんと普通に話せるようになってもうすぐ1年になる。この1年いいことばかりではなかった。そうちゃんと同じ高校に通い、新しい友達もできた。生徒会に入り学校生活にやりがいができた。
でも私が1番望んでいるのはあなたのとなりにずっといることなんだよ?
そこには私の居場所はない。
そこにいるのは史華ちゃんだ。
現状、勝ち目はない。
わかってはいるけど諦めるわけにはいかない。
「ふふふ、まだ右側が空いてるもんね。最悪引き分けも—、いひゃい!」
思考を巡らせていると頭上に鈍い痛みが走った。
「なに不気味な笑いしてんだよ。そろそろ行くぞ。」
「あっ、待ってよそうちゃん。」
さっさと走りだしたそうちゃんの背中を追いかける。
「逃さないからね〜。」
♢♢♢♢♢
「おはよう聖川さん。」
「新婚の倉重先生おはようございます。」
朝から生徒会室で出迎えてくれたのは顧問の倉重先生。数日前に綾姉と結婚したばかりの新婚さんだ。
「さっそくいじってくるとは人が悪いね。綾音も今日が入学式だから駅まで送ってったよ。もちろんいってらっしゃいのキスもしたよ。」
大人の余裕でしょうか。
倉重先生は私のいじりに対して惚気で返してきました。年齢=彼氏いない歴の私にとっては赤面しちゃうほど甘い話だ。
「おはようございます。」
「あ、史華ちゃんおはよう。」
今日の入学式には生徒会と体育会の部活の有志が先生のお手伝いをすることになっている。
「そろそろ準備をしようか。」
事前の打ち合わせで生徒会は受付を担当することになっていたが、私は来賓の案内をすることになっていた。
みやびちゃんと先輩2人もやってきたので最終の打ち合わせをして所定の場所へと急いだ。
♢♢♢♢♢
「続きまして在校生からのお祝いの言葉。生徒会会長、聖川香澄。」
「はい。」
名前を呼ばれて壇上に上がる。
生徒会長になってから何回も経験して、いまでは変な緊張をすることはなくなった。
「ほぉ〜!」
会場から歓声が上がる。
「美人だ!」
「うぉっ!マジかよ!」
「会長さん、綺麗〜!」
あはははは。これは慣れませんね。
「新入生のみなさん、ならびに保護者の皆様。ご入学おめでとうございます。」
挨拶文は事前に倉重先生とも打ち合わせをしてきたので問題はないはず。周りを見渡しながら余裕を持って話せて……、新入生のなかにチラホラと見知った顔があった。中には冷たい視線も含まれていた。
「——在校生代表、聖川香澄。」
挨拶を終え、一礼をして壇上を下りた。
「香澄ちゃん、お疲れ様。」
舞台袖に控えていたみやびちゃんが出迎えてくれた。
「みやびちゃん。」
「ん?どうしたの?」
きっと私の顔色は悪かっただろう。
それほどに嫌な、いや、見たくないものを見てしまった。
「いた。」
「はっ?」
「いたの!」
「だから、何……、ああ。知らなかったの?」
キョトンとしたみやびちゃんに、なぜ教えてくれなかったのという恨み言でも言おうと思ったけど、いまさら事実は変えられないのでやめておきました。
「知らなかったよ。しかも3人ともいるじゃないの。」
「うん、頑張ったらしいよ。ちゃんと褒めてあげてね。」
まあ、うん。
あの子は悪い子じゃないからね。
褒めてあげてるよ?
中学の頃からじゃ考えられないくらいだもんね。
「香澄ちゃん、お疲れ様。新入生が退場したら撤去作業してって。」
「あ、史華ちゃん。了解。」
♢♢♢♢♢
「みんなお疲れ様でした。頑張ってくれたお礼に一足早くクラスを発表します。」
撤去作業を終えて生徒会室に集まった私達に倉重先生がちょっとしたサプライズを用意してくれていた。
私はA組、みやびちゃんがC組、史華ちゃんはB組だった。
「……先生。わざと私達バラバラにしましたよね?」
「あ〜、みたいだな。生徒会役員をバラしたかったみたいだ。」
「まあ予想はしてました。」
ここまでは予想の範囲内。
「それでですね、聞きたいことがあるんですけどね?」
「個人情報につきお答えできません。」
倉重先生はさっと視線を逸らして片付けをし始めました。
「まだ何も言ってないですけど?」
倉重先生に詰め寄ると私の背後にはみやびちゃんと史華ちゃんも控えていました。
「いや、さすがに他人のまでは教えられないよ?総士くんのクラスは明日まで待ってね。」
ちっ!口の固い義兄さんだ!
「仕方ないですね。明日まで待ちますよ。」
「はい、そうしてね。じゃあ今日は解散していいよ。」
「あ〜あ、やっぱりバラバラになっちゃったね。」
「ちょっと寂しいね」
生徒会室を出た私達は、そうちゃんが迎えにきているということを聞いたので、史華ちゃんに便乗することにした。
「史華。」
練習終わりにきたらしく、ジャージ姿のそうちゃん校門にもたれて待っていた。
「総士、お疲れ様。」
私の隣から小走りでそうちゃんのもとに行く史華ちゃん。私でも抱きしめたくなるほどのかわいさだ。
「恋する乙女は尊いね。」
思わず呟いた私にみやびちゃんはおかしそうに笑っていた。
「香澄ちゃんも恋する乙女でかわいいよ。」
「みやびちゃんもね。」
ほんの数メートル先に境界線があるみたいた。惹かれ合う恋人同士と片思いの私達。
決して越えられない境界線が。
「そうちゃん先輩!」
そんなことを考えていると、私の脇を抜けて軽々と境界線を越える少女の後姿があった。
思わず固まった史華ちゃんをよそにそうちゃんに飛び込んだのは、小さな身体で元気いっぱい茶髪のツインテールを跳ねさせた新入生だった。
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