第101話 ブーケ

「お〜お!」


司会の合図で2階に現れた主役は義兄さんが姉貴の手を取りゆっくりと階段を降りてくる。

さっきまでの純白のウェディングドレスからカクテルドレスって言うんだっけ?

イエローからピンクのグラデーションの綺麗なドレスに着替えていた。


「素敵なドレス」


感慨深く見つめる母さんと、羨望の眼差しの三人娘。


「そうちゃん、私には何色のドレスが似合うと思う?」


幼馴染みの問い掛けに思案する。

香澄か……。

基本的になんでも似合うとは思うけど?


「強いて言えば赤じゃないか?ピンクに近いようなパステルカラー。」


うん。いいんじゃないかな?


「えへへへ。そうちゃんのイメージは赤なんだ。うんうん、ありだよね。」


納得できたらしく満面の笑みを浮かべながらご機嫌になった幼馴染みにさっきまでの号泣はなんだったのかと苦笑した。


「はいはい、じゃあ私は?」


それに便乗した幼馴染みその2。


「雅か?青系じゃないか?お前の場合はパステルカラーよりも濃い目の色合いがいいかもな。」


「なるほどなるほど。私は青ね。で、本命の史華は?」


まあ流れ的にそうくるよな。


「史華が着ればなんでも似合うと思うんだけど、黄色とかオレンジ系の色かな?もちろん純白のウェディングドレスは外せないぞ。」


やっぱり史華に1番似合うのは純白のウェディングドレスだと思う。姉貴は肩がガッツリ出ているが史華にはなるべく露出の少ないものを薦めるつもりだ。


「ちょっとそうちゃん。私はも純白のウェディングドレス似合うと思うよ?ほら、アナタ色に染まりますって。」


俺が言うのもなんだけど、お前ガッツリ染まってるよな?いまさら俺色とか言われてもなぁ。こいつ俺以外に目向けるつもりないのか?


「あ〜、史華一択でお願いします。」


史華の肩を抱いて引き寄せると、幼馴染みコンビにジト目を向けられた。


「史華も大変よね。」と雅が言う。


「贅沢な悩みだけどね。」と香澄が言う。


「あはははは。」と史華は苦笑い。


「自重しないわね。」おまけの母さんは呆れ顔。


「んだよ。」


不本意な扱いを受けた俺は近くにあった飲み物を一気飲み。


「まずっ!」


どうやら母さんのワインだったらしい。


「こらこら未成年。お酒はハタチになってから。」


いつの間にか俺たちのテーブルに姉貴と義兄さんが挨拶回りにきていた。


「姉貴だってまだ未成年だろ。」


「あら、結婚したら成人扱いされることもあるのよ?」


そう言いながらワインを口にしようとした姉貴の手を義兄さんが止めた。


「それでもお酒はハタチからだからね。」


「さすが先生、ナイスタイミング。」


香澄が親指を立て義兄さんを褒め称える。


「全く油断も隙もあったもんじゃないね。さてさて、みなさん本日はお祝いいただきありがとうございます。ささやかではありますが楽しんで行ってくださいね。」


みんなの顔を見渡しながら爽やかに挨拶する義兄さんの隣で姉貴はずっと一点を見つめてる。


「綾音?」


姉貴の瞳が潤み出し、滴が一滴零れ落ちた。


「幸せになるからね。」


俺たちに向けた言葉はその一言だけ。

十分に気持ちが伝わる言葉だった。

その証拠にまた香澄の涙腺が決壊してしまった。



「ん〜!おいしい。ネットで事前にチェックしてたんだけど、京野菜使ったり料理にも抜かりなしで評判もすごくいいみたいなの。」


泣きはらした顔を綻ばせながら料理を味わっている香澄に、みんな思わず吹き出してしまう。


「へっ?私おかしなこと言った?」


「いや、おかしいのはお前の顔だな。」


怪訝な顔でみんなを見渡している香澄に、隣の席の雅が人参を差し出した。


「うんうん、おいしいよね。はい香澄ちゃん。あーん。」


「ん?あ〜ん。ん〜あま〜い!」


「餌付けされてるなぁ。」


雅の香澄操舵術はいつ見ても見事だ。


「かわいいね。香澄ちゃん。」


そんな2人のやりとりを史華は控え目に笑いながら眺めている。


「ん〜!2人してバカにしてるでしょ〜!」


「「そんなことないですよ?」」


♢♢♢♢♢


披露宴も無事に終わり、俺たちは式場の外なで待機している。

この式場はヨーロッパの街並みを再現されていて中央の大階段の左右にチャペルと披露宴会場が建っている。


いまいるのはその大階段の下。

俺の目の前には着飾った独身女性達が前へ前へと歩を進めていた。


無論三人娘もその中にいるのだが、最前列には義兄さんの同僚、つまり俺たちの先生たちが陣取っているのだ。

みなさん殺気だってて怖いのですが、最も存在感を表しているのが義兄さんの大学の同級生でもある英語教師の杉本先生。

完全に目が血走っていて、史華なんかは威圧感に耐えかねて1番後ろにきてしまっていた。


そこに主役が登場するとボルテージは最高潮になった。

階段の1番上で姉貴は後ろを向くと「ワー、キャー」とおしくらまんじゅう状態に。

姉貴はそのまま両手でブーケを投げるとあろうことか風に煽られてしまい女性陣を遥かに飛び越えて道路まで飛び出す勢いだ。


「あっ!」


そんなブーケを諦めず追いかける香澄は周りが見えてないらしく、道路に飛び出してささまいそうだ。


「バカ!」


俺は間一髪、左手で香澄を抱きとめ右手でブーケを掴んだ。


「あっ!」


みんなの視線が俺の右手に集まる。


「大丈夫か香澄?」


ほんのり頬を赤くした香澄に確認すると「う、うん。」と小さな声で頷いた。


「そ、それよりもそうちゃん、それちょうだい!」


気を取り直した香澄の視線は俺の右手に注がれていた。左手でお前の胸鷲掴みしてるのは気にならないのか?


「これか?う〜ん?どうしようかな?」


そのまま香澄に渡してしまっていいものか?

史華に渡したいのはやまやまなんだが、必死に追いかけてた香澄もかわいそうだしなぁ?考えた挙句に俺は史華と雅を呼んだ。


「お〜い、史華、雅ちょっとちょっと。」


「どうしたの?」


2人がきたところで、ブーケを三等分してそれぞれに手渡した。


「はいOK!史華は俺がいただくのでお2人はそれぞれ頑張ってください。」


史華は恥ずかしそうに俯き、香澄と雅は不満げに頬を膨らませていた。



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