第99話 史華の部屋で
「2人ともごめんね。準備にもう少し時間がかかるから待っててもらえる?」
予定より早く帰ってきてしまったために、晩御飯の準備が終わっていませんでした。
「こちらこそ早く来すぎてすみません。」
「いいのよ。史華、公佳、お部屋にでも案内したら?リビングより落ち着くでしょ」
一応、昨日のうちに部屋の片付けはしておいたので問題はありません。お母さんの言葉に総士も反応してその気になっているみたいですし。
「せっかくだからみんなでリビングで話ししない?」
公佳としては総士とお母さんのやりとりなんかを観察したいみたいでソファーに腰掛けました。自分の隣をポンポンと叩き葛城くんに座るように促しています。
総士の眉がピクッと動いて表情が崩れましたが、すぐに笑顔に変わりました。
私は公佳に目配せだけをした後に、総士の背中を押して私の部屋に案内しました。
「おい」
「行くよ」
「どこに?」
「私の部屋」
珍しいキョトンとした顔。かわいい。
階段を上がる途中で「いいのか?」と聞いてきたので「いいのよ」と答えました。
「どうぞ」
「おおっ!」
総士は大袈裟に驚いたけど、女子高生の部屋とは思えないほどシンプルです。
「驚いくことないでしょ?」
「いや、本の数。頑張ってるのがよくわかるよ。」
本棚にびっしりと並んだ建築関係の書籍。お父さんにもらったものや自分で買ったものもあります。
「少しずつ増えてったからね。」
「へぇ〜、インテリアや照明関係もあるのか。」
「建物ができればいいってわけじゃないからね。そこでずっと暮らしていくんだもん。トータルプロデュースよ。」
「なるほどな。で、イタリア語も勉強してるんだな。」
「あっ!それは……」
こっそりと置いといたのにばれてしまいました。
「ずっと暮らしていくんだもんな。一緒に。」
私をからかうようにニヤニヤとしている総士はやっと楽しそうにしてくれました。
「約束よ?」
「一緒にな。」
総士が部屋をじっくりと見渡し始めたので少し牽制しておきます。
そっと背後に回り両手ごと身体を抱きしめて拘束。
「あまりじっくり見られると恥ずかしいから捕まえておくね。」
私が力いっぱい抱きしめても総士の動きを止めることができるわけもなく、そのままくるっと向きを変て正面から抱きしめられてしまいました。
「はい拘束。ちょっと座ろうぜ」
正面から抱きしめ合っていたので私は総士の膝の上にまたがるように座ってしまい、目の前に総士の顔がある。
「んっ。」
こんな至近距離になれば自然と唇が重なる。
さっきまで公佳達と一緒にいて我慢してくれてた影響でしょうか。いつもよりも濃厚なキスで言葉通り息つく暇もありません。
そろそろ苦しくなってきたので総士の胸をトントンとタップすると、すっと唇を解放してくれました。
「激しすぎだから」
「そうか?」
「息できないよ」
そのまま総士の胸に顔を埋めると、両手で私を包み込んでくれました。
「なんかやらしい格好になってるな。」
「気付いてたけど言わないで。」
別に誰かに見られてるわけじゃないからいいんですけどね。
「ダブルデートはもう勘弁な。普通に4人で遊ぶってことなら違ったのかもしれないけど、デートって言われるとな。なんか変に気遣うし、史華も余所余所しいし。」
「あ〜、ごめんね。やっぱり公佳がいると気になっちゃって。」
お詫びとばかりに総士の首に両手を回してキスをしました。軽く重ねるだけのキス……のつもりだったのに、総士の舌に捕まってしまいいつもの絡み合うようなキスに変わってしまいました。
「ごちそうさま。」
「もう。下にお母さん達いるの覚えてる?」
「もちろん。史華の衣服に乱れは?」
「……ありませんねぇ。」
総士も一応気にはしてくれてるらしく、線引きはそこだったみたいです。
「史華ちょっと向き変えて。」
総士に促されて一度立ち上がって反転し、総士に背中を預けて座り直しました。
お腹を抱えられて深く座らされたので、すっぽりと総士に包み込まれました。
「あったかい。」
「だろ?なんか甘い匂いがするな。」
「なんだろ?コンディショナーの匂いかな?」
「ん〜?史華の匂いでいいんじゃない?」
「なにそれ?いいのか悪いのかわからないよ。」
お腹に回された総士の手を握るとしっかりと握り返してくれました。
お互い顔をは見えないんだけど穏やかな表情をしてるんだろうなって感じます。
「なあ史華、あれって自分で作ったの?」
総士が指差した先には夏から作り始めて、つい先日出来上がったばかりの建築模型があった。
「うん、デザインから私が作ったオリジナルだよ。」
「へ〜、見ていい?」
「うん。いいよ、ってきゃっ!」
私を横抱きにして立ち上がった総士が模型をまじまじと見ている。
「すげぇな。これってひょっとして史華の考えてる理想の家か?」
「あははは。う〜んとね。実はこれ作り始めたのって夏祭り以降なんだ。」
総士との未来を思い描いてね。
「そっか。これって実際に建てると結構でかいよな?」
「だね。理想詰め込みすぎちゃった」
「子供何人の予定だよ。」
総士がクスクスと笑いながらキスをしてきました。
「う〜ん。3人くらいかな?」
「よし!頑張って活躍しないとな。」
「お願いね、大黒柱さん。」
「おう」
『コンコン』
「はい。」
「開けても大丈夫?」
「いいぞ」
「総士?」
総士が了承したので公佳がドアを開けたのですが、私はお姫様抱っこされたままの状態。
「へっ?」
私達を見た公佳が目を丸くして固まっています。
「どうした?」
「あ、いやいや。どうしたって私の台詞だよね?どんな状況?」
「お姫様抱っこ?」
「あ〜、うん。これは総くんにとって普通なのよね?うん、理解した。」
「いや、理解しないでよ。普通じゃないよ?」
無理矢理納得しようとしている公佳を引き止めました。
「まあ、それはいいとして。お父さん緊急の仕事が入って帰り遅くなりそうだから、もう食べようって。」
「まじか。お父さんに会うの楽しみにしてたのに。」
心底悔しがっている総士ですが、それは少数派だと思うよ?
「とりあえずおりてきてね。」
「じゃあ行くか。」
「待って!先に下ろしてよ」
抱っこのまま階段をおりようとした総士を引き止めてやっとおろしてもらえました。
「お待たせ。お母さんなに手伝えばいい?」
「もう配膳終わってるから座りなさい。」
「史華の席どこだ?」
総士が私の背後に立って耳元で囁いてきました。ちょっとゾクゾクしちゃいます。
「ん?右端の席よ。総士は隣に座ってね。」
「了解。」
総士は私の席の椅子を引き座るのを促してくるので「ありがとう」とお礼を言って座りました。
「総くん英国紳士みたいだね。」
公佳がはぁ〜とため息混じりで驚いています。
「さすがに今のは冗談だけどな。でもカズマ。プレミア狙ってるならこれくらいはできた方がいいんじゃないか?」
「あ〜、まあいずれな。さすがにそこまでは頭回らんぞ。」
「あら、和真くんはイギリスに行きたいの?」
食事の準備が終わりお母さんも席に座りました。
「いまはそうでもないんですけど伝統的なキック&ラッシュっていう戦術が好きなんですよ。自分が攻撃の起点になれるっていうか。」
「悪かったな。いつも俺がこねくり回して。」
葛城くんの正面で総士が冗談ぽく抗議すると、真に受けたようで慌ててました。
「いや!悪い意味じゃなくてな!」
「カズくん、カズくん。慌てなくても冗談だから大丈夫よ。」
総士の口角が上がり笑いを堪えてるみたいです。
「お前な〜、真顔で冗談ってキツいぞ。」
「ふふふ、2人とも仲良いのね。」
お母さんがうれしそうに笑っていました。
葛城くんは苦笑い。総士はしたり顔ですね。
「こうみえてカズマって頼りになるんですよ、いまのチームに入ったときに人見知りの俺に声かけてくれたのがカズマでしたからね。」
「あら、そうなの。小さい頃から和真くんは優しい子だったものね。それにしても総士くんがし人見知りってのは意外ね。全然見えないわよ。」
「まあ、挨拶は小さい頃から親にうるさく言われてましたからね。」
「ふふふ。2人とも末長く娘達と仲良くしてね。」
♢♢♢♢♢
「総くん、今日は無理聞いてもらってありがとうね。」
「今回限りな。普通にみんなで遊びに行くならいいけどダブルデートってのは楽しめない。」
「あはははは。ごめんね邪魔しちゃって。」
「まあ、報酬は史華からもらったからいいよ。」
「えっ?私なにかあげたかな?」
「じゃあ、追加でもらう。」
「えっ?ちょ、ここで⁈ま、待って、んっ。」
「あ〜、私達完全に蚊帳の外だね。」
「だな。まあいいんじゃないか?」
「えっ?カズく、んっ。」
「たまにはいいよな?」
「……うん、あっ!いつもでもうれしいよ?」
「さすがにあんなのはハードルが高いわ。」
「だね。」
「ねぇ、カズくん。」
「ん?」
「史華達には負けないようにしようね。」
「ま、俺達のペースでな。」
♢♢♢♢♢
お読みいただきありがとうございます。
本作の今後につきまして近況ノートにてご案内がありますのでご一読いただければ幸いです。
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