第97話 公佳は攻める
「定番の遊園地とか動物園あたりでどう?」
夕食後、リビングのソファーに腰掛けながら史華と一緒にPCの画面を眺めていた。
「動物園はまだ一緒に行ってないかな。」
総くんの誤解(?)も解けて、晴れてダブルデートの了承を得た私は史華と一緒に作戦会議を展開していた。
「じゃあ動物園にしようか。日程は史華と総くんに任せるよ。」
「わかった。一日中動物園?」
「う〜ん、時間にもよるけど晩御飯はうちに招待しない?お母さんからも何回も言われてるし、せっかくだから一緒にきて貰えばいいんじゃないかなって。」
2人一緒の方がカズくんも安心できそうだしね。
「でも一緒でいいの?」
史華が困ったような表情で聞いてきた。
一緒だと困ることってあったかな?
「直接、総士と葛城くん比較されるよ?」
「あ〜、そうか。でもそれが狙いでもあるからね。」
「そう?じゃあお母さんには公佳から話しておいてね。総士には明日話ししておくから。」
「うん、あ、お昼はお弁当作りたい。一緒に作ろうよ。」
史華はデートのたびにお弁当を作っている印象がある。総くんと付き合う前もお母さんの手伝いはしてたけど、最近はお弁当作りでかなり腕を上げているだろうなぁ。
「晩御飯と被らないようにお母さんとも相談しないとね。」
「だね。う〜ん、楽しみになってきた!しっかりと観察させてもらうからね。」
念願のダブルデート。
しっかりと総くんの行動をチェックしてカズくんにフィードバックしないとね!
「純粋に楽しもうよ。葛城くんにも失礼よ?」
「うっ、で、でも結構真剣に悩んでるんだからね。お母さんの総くんに対する高感度は天井知らずよ?そんな総くんとカズくんは比較されてるの。カズくんだって決して悪い人じゃないのに総くんと比較されると下に見らちゃう。やっぱりちょっと悔しいじゃない?彼女としてはお母さんに総くんと同じように見て欲しいもん。」
「う〜ん?意識しすぎのようか気もするけど、総士に迷惑かけるのだけはやめてね。」
「うん、そこは約束する。」
「じゃあ、まずはお母さんも交えてお弁当の作戦会議でもしようか?」
「さんせ〜い。」
♢♢♢♢♢
ダブルデート当日。
9時に駅前のロータリーで待ち合わせ……だったんだけど、8時30分現在玄関で仲良くお話しをしている姉カップルがいる。
昨日の夜から下ごしらえをして今朝は5時30分からお弁当作りを始めた。
手慣れた史華を司令塔にテキパキと動く私。
たぶん私1人だと2時間はかかったんじゃないかな?
とにかく史華の手際の良さに舌を巻いた。
「史華、いつでもお嫁にいけるね。」
思わずそう言ってしまうほどお見事だった。
「まだ総士が結婚できないもん。」
「まあ、その通りなんだけど躊躇なく言えるほど惚気られてもねぇ。」
史華はすでに総くんのお嫁さんになることを疑っていない。
それほどに真剣なお付き合いをしているってことだろうね。
「それはいいから公佳、さっきから手が止まってるよ。早く油から上げないと焦げちゃうよ?」
「あっ!それはまずい!さすがに焦げてるのは一発で失敗だってバレちゃうもんね。そして失敗は私だってこともバレちゃうもんね。」
「それはどうかわからないけど、葛城くんも公佳のお弁当楽しみにしてるんでしょ?おいしいの食べさせてあげようよ。」
「ん?カズくんにはお弁当のこと言ってないよ?着いてからのお楽しみだからね。」
なんて姉妹でわいわいお弁当を作ってから身支度を整え終わったところでチャイムが鳴った。
「おはよう史華。」
一応駅前で待ち合わせの約束してたんだけどね。デートの日に総くんが史華を迎えにくるのはいつものことだったね。
出迎えた史華はうれしそうに微笑んでいる。
総くんといるときの史華は時折私の知らない表情を見せる。恋人にしか見せない特別な笑顔。私もあんな表情ができてるのかな?
「公佳、行くぞ。」
「あ、ごめん。」
玄関では靴を履いて準備万端の史華と、お弁当の入ったトートバッグを肩に掛けている総くんが私を待ってくれていた。
「お母さん、いってきます。」
2人を追いかけるように私も玄関を飛び出して行った。
♢♢♢♢♢
「おはよう、みんなお揃いだな。」
「おせ〜よ。」
待ち合わせ時間ちょうどに姿を表したカズくんに総くんが呆れ顔で対応した。
「ん?時間ちょうどだろ?」
「そうね。」
史華は興味なさげに総くんと向き合ったまま答えてる。相変わらずラブラブカップルなことで。
ロータリーの中央にある時計を見ると、いま9時になったばかりだった。
「とりあえず電車乗ろうよ。」
私はみんなを駅へと促していった。
♢♢♢♢♢
本日は晴天なり。
とは言っても1月なので寒いことには変わりなく、史華と総くんは当たり前のように手を繋いで歩いている。
「相変わらず仲良いな。」
学校でもこの光景を目の当たりにしているだろうカズくんも半ば呆れたように呟く。
私はそんな彼に「私も手を繋ぎたい」オーラを出しているのに気づいてもらえない。
いや、実は気づいてるのにスルーされてる可能性もある。
2人きりの時でさえ人目をはばかるように繋ぐので、知り合いのいる状況では不可能に近いのかもしれない。
「さっきから公佳がうらやましそうな目で見てるのに気づいてやれよ。」
「本当に。うちの妹を寂しがらせないでくれる?」
カズくんの口撃に対するカウンターは鮮やかに決まり、カズくんは苦笑いで誤魔化した。
「私達もいつも通りよ。そのうちバカップルぶりを見せつけてあげるから覚悟しといてね?」
史華に視線を向けながらカズくんに軽く体当たりをして返事を促す。
「お、おう。ってバカップルじゃねぇだろう。」
「言葉のあやってやつよ。今日は史華達に負けないようにラブラブしようね?」
「えっ?」
カズくんは顔を引きつらせているが今日の私は譲らない。総くんにならってカズくんの手を取り指を絡めて繋ぐ。逃げられないように腕ごと身体で抱きしめる。
さすがにここまでやれば逃げられないだろう。仮に逃げられるとしたら全力で振り解かれたとき。
私の決意が伝わったのかカズくんは観念したように右手で私の頭を撫でてくれた。
「しかたねぇな。逃げないからもう少し歩きやすくしてくれ。さすがにこの距離はいろいろと都合が悪い。」
若干顔が赤いように思うけどそれはたぶんお互いさま。
「お〜い、バカップル。置いてくぞ。」
「お前に言われたくねぇよ!」
私達同様恋人繋ぎをしている史華達は照れた様子もなく、ごく自然な感じで私達を待ってくれている。
「行くよ、カズくん。」
私は2人に追いつくためにカズくんの手を引いて追いかけた。
「置いてかないでよ!」
今日はしっかり学ばせてもらうからね!
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