第95話 裸の付き合いをしよう

「お待たせ〜。」


部屋の扉を開けるとピンクのラグの上に置かれた丸い天板のセンターテーブルを拭いているみやびちゃんがいた。


「いらっしゃい。史華迷わずこれた?」


「うん、以前総士に教えてもらったしね。」


史華ちゃんが目を背けながら答えるがみやびちゃんは気づきもせずにテーブルを拭いている。


「みやびちゃん。」


「ん?何?」


「真っ赤な勝負パンツで私を襲うつもりだったのかな?」


タイトミニのスカートを履いたみやびちゃんはしゃがんでスカートの裾が捲れ上がっていることに気づいてなかったみたい。


「えっ?ああっ!自分の部屋だから油断してた。でもこんな大人しいパンツじゃ勝負できないよ。」


みやびちゃんの勝負パンツがとても気になる。

というか、みやびちゃんを矯正しなければいけないほどエロに目覚めてしまっているのかも!私は訳の分からない使命感を抱いてしまった。


「雅、とりあえずスカート直そうよ。同性とはいえ目のやり場に困るんだけど。」


「あはははは。ごめんごめん。よいしょっと。」


上半身を起こして腰をクネクネしながらスカートの裾を直すみやびちゃん。


「ま、仕切り直しまして。2人ともいらっしゃい。女子会楽しもうね。」


「うん、よろしくね。」


「私、お泊まり会ってはじめてだからすごく楽しみにしてたんだ。」


「へぇ〜、纐纈くんとはお泊まり会したのにねぇ。」


テーブルに頬杖をつきながらニヤニヤと史華を見つめるみやびちゃん。

顔を赤くして俯く史華ちゃん。

私はどんな反応をすればいいんだろうねぇ。


「も、もう茶化さないでよ。それで、ピザ何頼む?」


「あっ!露骨に話題変えてきたね。」


スマホを取り出してピザ屋さんのサイトを開けた史華ちゃん。


「その前に銭湯いこうよ。」


そう、我が街には今時のスーパー銭湯ではなくいわゆる昔ながらの銭湯がある。


「そだね。美女3人で行くんだから夜遅いと危険だからね。」


「あっ、雅自分で美女って言っちゃったね。」


「史華や香澄ちゃんと違って誰も言ってくれないんだもん。」


史華ちゃんと私の差はだいぶ大きいんだけどね。大好きなそうちゃんに言ってもらえる史華ちゃんと、付き合いもない人に言われるだけの私。


「雅は美人だって総士は言ってるけどね。」


口を尖らせて不貞腐れたように愚痴っていたみやびちゃんの表情が一瞬緩んで、ハッとしたように元の表情に戻る。



「忙しい表情筋だね。」


みやびちゃんだってそうちゃんに言われるのが1番うれしいんだよね。親友なんだからちゃんとわかってるからね?


「も、もう!遅くなっちゃうから早く行こう。」


私達から顔を見えないように部屋から逃げて行ったみやびちゃんの姿を見ながら、私と史華ちゃんは顔を見合わせて笑った。


♢♢♢♢♢


「すごい!富士山だね。」


浴場に入ると正面のタイルに描かれた赤富士に史華ちゃんが感動していた。


「ザ・銭湯だよね。」


ご近所に住んでいる私達は月一で訪れているのですでに感動はない。

3人横並びで椅子に腰掛けて身体を洗う。


「ちょっと史華。胸大きくなってない?」


頭を洗いつつもみやびちゃんは隣の史華のボディチェックをしていたみたい。その声に反応してしまい私も史華ちゃんの胸を見るとあるものに気がついた。


「ん〜?んんん?」


「どうしたの香澄ちゃん?」


「みやびちゃん、史華ちゃんの右のおっぱいの下をチェックしてみて。」


史華ちゃんの左に座っていたみやびちゃんが前のめりになって覗き込む。頭を洗っているため手で隠すことができなかった史華ちゃんの反応が遅れたために、チェックは滞りなく実施されたみたいだ。



「あ〜!キ、キ、キスマークだ!ちょっと香澄ちゃん、キスマークだよ!しかもこれだけ濃いってことは最近つけられたものだよ!」


「ちょ、雅、声大きい!」


史華ちゃんが両手でおっぱいを隠しながら奇声を制した。


「キャー、やっぱりキスマーク!ずるい!ずるいよ史華ちゃん。私だってそうちゃんにキスマーク付けて欲しいよ!」


うらやましい!私だってそうちゃんとキスそたいしキスマーク付けて欲しいし、それ以上のことだって!


「はっ!みやびちゃん、私いいことに気がついた。」


「何?」


「このキスマークはそうちゃんが付けたもの。ということは—」


「と、いうことは?」


2人とも固唾を飲んで私の言葉を待っている。


「と、いうことはね?私も史華ちゃんのキスマークにキスすることでそうちゃんと間接キスをしたことに—」


「ならないから!」


史華ちゃんがみやびちゃんを盾にして私との距離を開けていく。


「はっ!そうか!」


「今度は何?」


恐る恐る聞いてくる史華ちゃん。

呆れ顔のみやびちゃん。

そんな2人に私は得意げに言った。


「史華ちゃんとキスをすればそうちゃんと間接キスをしたことに—」


「もう間接キスは忘れて!」


「さすがに私もドン引きだよ。」


「ひどいよ、みやびちゃん!」



身体を洗った私達は電気風呂と泡風呂を経由して美肌の効能があるとお婆様方に人気の湯船にゆっくり浸かり、お風呂上がりのコーヒー牛乳を飲んでいた。


「やっぱり銭湯の後はコーヒー牛乳よね。」


私とみやびちゃんは当たり前のように飲んでいると、フルーツ牛乳を飲んでいる史華ちゃんが不思議そうに聞いてきた。


「なんでコーヒー牛乳なの?」


「ん?そうちゃんが小さい頃からうるさかったからかな?銭湯の後はコーヒー牛乳だって。史華ちゃんはフルーツ牛乳だって知ったら説教されるかもよ?」


「ちょっと、そういうことは買う前に教えてよ。」


史華ちゃんは口を尖らせてぶーぶー言っているがフルーツ牛乳もおいしいらしい。私は小さい頃からコーヒー牛乳しか買わせてもらえなかったからな〜。


♢♢♢♢♢


みやびちゃんの部屋に戻りスマホからピザを注文し、待つこと10分。玄関のチャイムが鳴りみやびちゃんが財布を持って出て行った。


「随分早かったね。」


「だよね。さすがに10分は早すぎだよね。」


みやびちゃんが戻ってくるのを待っていたが中々帰ってこない。おかしいなと思っていると下からみやびちゃんが呼ぶ声がした。


「香澄ちゃん、史華、ちょっと来て。」


急いで玄関に向かうと、手土産片手にそうちゃんが立っていた。


「総士?」


「お待たせしました宅配ケーキです。」


箱をみやびちゃんに手渡して笑顔のそうちゃんに史華ちゃんが駆け寄った。


「バイトお疲れ様、来るなら連絡くれれば良かったのに。」


そうちゃんの袖にそっと手を添えた史華ちゃんをうらやましいと思いつつ、私も階段を下りた。


「あらっ、総士くん久しぶりね。」


声が聞こえたのか、おばさんも顔を出してきた。


「ご無沙汰してます。」


「やっぱり総士くんいい男になったわね。ボサボサしてるからいい男逃すのよ。」


おばさんがみやびちゃんを横目でチラッと見ながら呟くので、みやびちゃんは明後日の方向を見ながら素知らぬ顔でスルーした。


「みなさんの分もあるので食べてくださいね。遅い時間なのでそろそろ失礼しますね。」


そうちゃんは史華の頭を軽く撫でながら玄関を出て行った。


「そうちゃん、ありがとうね。」


そうちゃんの背中にお礼を言うと軽く手を上げてくれた。

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