第94話 女子会をしよう

「えっ?パジャマパーティー?」


「そう、家でやろうと思うんだけどどうかな?」


お昼休み、いつものように3人でお弁当を食べていると、雅から突然提案をされました。


「お〜、久しぶりだね。ちょうど相談したいこともあったし私は大丈夫だよ。」


香澄ちゃんは自作の和風弁当のきんぴらごぼうを頬張りながら雅に肯首しました。


「いつやる?バイトがある日だと遅い時間からの参加になるけどそれでもいいかな?」


私は愛用の手帳を開きバイトのシフトを確認しながら答えました。今週末はバイトの予定が入っていますが来週以降のシフトはまだ決まっていません。


雅は虚空を眺めながら「ん〜?」と考えてから「来週末は?」と尋ねてきました。


「来週ならまだシフト決まってないから大丈夫だよ。予定空けておくね。」


予定を書き込み手帳をパタンと閉じると香澄ちゃんの視線に気付きました。


「どうしたの?」


「あ、うん。史華ちゃんは手帳派なんだなって思ったの。私もなんだけどスマホで予定管理してる人が結構いるじゃない?でも史華ちゃん見てると手帳いいなって思うんだよね。」


「あ〜、なるほどね。お父さんの影響かな?仕事の予定を確認したりするときに手帳を開いて確認するのを見て、なんか大人って感じがいいなって思って。去年から使いはじめたんだ。」


お父さんの黒い大きめの手帳は私と公佳が中学生の時に誕生日プレゼントとして贈ったものです。受け取った時、お父さん嬉し泣きしてたんですよね。


「あ、そうだ!史華ちゃんスマホ見せてくれない?」


香澄ちゃんが何かを思い出したかのようにお願いしてくるので、ブレザーの内ポケットからスマホを出して香澄ちゃんに渡そうとすると、香澄ちゃんも同じようにスマホを差し出してきました。


「ん?」


私のスマホと並べるようにした香澄ちゃんはクルッとスマホをひっくり返し、ニコッと微笑みました。


「あっ!これ?」


私も同じようにスマホをひっくり返して香澄ちゃんのスマホと並べました。


「この前そうちゃんに聞いたんだ。史華ちゃんは月のスマホケース使ってるよって。お揃いだね!」


「ビックリした、星のスマホケースもあったんだね。夏祭りだよね?」


「うん。私達が見たときは3つ置いてあったんだ。一目惚れで買っちゃった。」


ペロッと舌を出しておどけたような表情の香澄ちゃんはこの偶然が余程うれしかったみたいで、いつもより興奮気味に話していました。


「あ〜!史華と纐纈くんが残りの買ってたんだ!すごい偶然だね。」


「だよね〜。ごめんね史華ちゃん。なんたペアのところに割り込んだみたいになっちゃって。」


「えっ?そんなこと気にしないよ。それよりも星のモチーフもあったことに加えて香澄ちゃんが持ってたことにビックリだよ。」


やっぱり香澄ちゃんとも縁を感じます。

それは総士を通してというだけではなく直接私と繋がっているような縁。高校3年間だけではなくて、将来に続いているはずです。


♢♢♢♢♢


「じゃあ着替えたら行くね。」


金曜の夕方。

生徒会の仕事を片付けた私達は1度帰宅してからみやびちゃんの家に集まることにした。

と言っても私の家からは徒歩5分程度で着いてしまう。


すでに19時も過ぎてしまっているので晩御飯は宅配ピザを頼むことにしているので、比較的のんびり集まれる。


「こんばんは〜」


勝手知ったる平川家だけど、まずは道場に顔を出した。まだ練習中の人もチラホラしており、その中にはみやびちゃんの弟の忍くんの姿もあった。


「あれ?香澄さん。こっちに顔出すなんて珍しいね。」


「しーちゃん、お疲れ様。しーちゃんの勇姿でも見ておこうと思ってね。」


妹の清香と同じ歳の忍くんのことを昔はしーちゃんと呼んでいたが本人が小学校の高学年あたりから嫌がったので仕方なく忍くんに変更した。その証拠にいまも顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。


「しーちゃんって呼ぶなよ!もう恥ずかしいからさっさと行ってよ!」


お年頃なんだね。

最近は清香を苗字で呼ぶらしい。

小さい頃はきーちゃんって呼んでたくせに。

清香も何気に気にしてたぞ?


「はいはい。じゃあまた後でね。」


「香澄ちゃん。」


忍くんに手を振り、道場を後にしようとしたところで背後から史華ちゃんに声をかけられた。


「あ、いいタイミングだったね。史華ちゃん、忍くんに会ったことある?みやびちゃんの弟。」


「雅の弟くん?ううん。」


史華ちゃんを手招きして道場の中を覗き込んで忍くんに声をかけた。


「おーい!忍くん。友達紹介するからちょっとこれる?」


組み手の最中だった忍くんは相手に断りをいれてからこちらにやってきた。


「吉乃です。今日はお邪魔します。」


史華ちゃんらしい優しい笑顔にやられてしまったのか、忍くんが固まっていた。


「お〜い。しーちゃんどこ行った?戻っておいで。」


しーちゃんの呼び方にようやく反応したらしく真っ赤な顔で詰め寄ってきた。


「だから!しーちゃんって呼ぶなって!」


「はいはい。わかったから史華ちゃんに挨拶しなよ。」


恥ずかしさで周りが見えていないのか、礼節を重んじる平川家の長男の珍しい失態。


「あっ、すみません。平川忍です。いつも姉がお世話になっています。」


うんうん。さすが武道家だね。


「忍くん、雅とそっくりだね。特に口元とか似てるね。」


口元!

その言葉に思わず吹き出した。


「だ、だめだよ史華ちゃん、口元、口元って。」


そんな私の態度に困惑していた2人だが、途中で史華ちゃんが何かに気付いて笑い出した。


「ご、ごめんね。確かにタイミングが悪かったかも。でもすごく似てるんだもん。他意はないからね。」


♢♢♢♢♢


放課後の生徒会室でのこと、会計の杏香先輩が突然、


「雅ちゃんの笑顔ってエロいよね。特にその口元がエロの源泉。今までどれだけの男を手玉に取ってきたの!」


と言い出した。


「ちょっと杏香。突然なによ?まあ確かに言われてみると官能的かもしれないけど、エロいはないでしょ?もうちょっと語彙力磨きなさいよ。」


一果先輩も同意はしつつも呆れ顔。


「失礼ですね杏香先輩!私は史華と違って汚れなき乙女ですよ。香澄ちゃんみたいに男を手玉に取ったりなんてしてません!」


「「ちょっと!」」


みやびちゃんの失言?に私と史華ちゃんからのクレームが入る。


「なるほどなるほど。すでに史華ちゃんは生娘ではないと。まあ彼氏がいるからおかしくはないか。で、香澄ちゃんは所構わず男を誑かしてたぶらいると雅ちゃんは言うんだね?」


雅ちゃん失言に杏香先輩が揚げ足を取る。


「いや、えっ?私そんなこと言いましたっけ?」


みやびちゃんはしらを切ろうとするがそんなことが通用するほど甘くはない。


「雅?」


普段優しい人が怒ると無表情になるんだね。

威圧感が半端ないよ?


「ご、ごめん。」


あのみやびちゃんが後退りするほどの威圧感とは。史華ちゃん最強かも。


♢♢♢♢♢


「こんばんは〜。」

「お邪魔します。」


自宅側に周り玄関を開けるとおばさんが出迎えてくれた。


「いらっしゃい、史華ちゃんね?どうぞ上がって。」


「おばさん、私は?」


「あら香澄ちゃん。いつも通りご自由に。」


「扱いが雑じゃないかな?」


さすが勝手知ったる平川家。

おじさんもおばさんも娘のように可愛がってくれる。


「はじめまして、吉乃です。今日はお世話になります。」


「はーい。総士くんの彼女がくるって聞いて楽しみにしてたの。」


「おばさん、私は?」


「うふふ。じゃあこのスリッパ使ってね。雅は部屋でいろいろ準備してるみたいだから。」


「うぅぅ、ひとみさんがいじめる。」


「あら香澄ちゃん、いままでどこにいたの?突然いなくなるとビックリするじゃない。」


翔子さんといい瞳さんといい、アラフォーなのにおばさんと呼ばれるのが嫌みたい。


「当たり前でしょ?」


なんで心の声が聞いてるのよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る