第92話 公佳のお願い
「公佳はだめよ、か。」
わかってるよ。
お母さんにとって総くんが特別だってこと。
あれだけ史華を大事にしてくれる彼氏のこと、信頼しないわけないもんね。
史華もお母さんも大好きな総くん。
まあ、私もお仲間なんだけどね。
私の彼氏の葛城和真くんは恥ずかしがり家さん。デートをしていてもあまり手を繋いでくれない。キスも周りを気にしてるから少し触れる程度のもの。
最近覚えたホテルでの2人の時間は少しだけ大胆になってくれるけど、お金もかかるし私達が頻繁に行けるようなところではない。
「結局ダブルデートできてないしなぁ〜、うん?ダブルデート?そっか!」
私は部屋を飛び出して史華の部屋をノックした。
「史華、ちょっといい?」
返事はないけど部屋の中から史華の声が聞こえてくる。
「うん。えっ?もう去年のうちに終わってるよ?」
こっそり扉を開けて覗き込むと、バッチリ目が合ってしまった。「あっ!」と思わず声が出てしまったけど、史華は「ちょっと待って」と言いスマホの集音部分を押さえながら私の方にやってきた。
「ごめん公佳、急ぎ?」
申し訳なさそうに聞いてくる史華。こっちが突然きたのだから申し訳ないのは私の方だ。
でも相手は総くんかな?それなら都合がいい。
「ううん。急ぎってわけじゃないんだけど相手って総くんかな?」
「電話?うん、総士だよ。」
「ちょうどよかった。2人にお願いがあるんだけどスピーカーモードにしてもらえる?」
「ちょ、ちょっと待って。もしもし総士、聞こえてた?うん、そう。じゃあ、切り替えるね。」
『了解』
史華の切り替えのタイミングが早かったらしく総くんの返事がスピーカーから聞こえてきた。
「もしもし総くん?こんばんは。お邪魔してごめんね。」
『よう公佳。全くだぞ。邪魔するなよ。』
この場合、大体は冗談で済むんだけど総くんの場合は本当に邪魔されたと思っている可能性がある。
「あはははは。ごめんね総くん。なるべく早く用事済ますからはいで答えてね?」
「公佳、そういうのは総士には効かないよ?お願いがあるなら素直に言わないと。」
わかってるけど何度も断られてるからちょっと緊張してるんだよ。総くん乗り気じゃないし。
『で、なんだよ公佳。そんなに言いにくいことなのか?』
「はぁ。ふ〜、ふ〜、ふ〜。」
緊張をほぐそうと呼吸を整える。
「よし!総くん、お願いがあります。」
『おう。』
総くんがどんな顔をしているのか、史華でなくても想像がつく。
「ダブルデートしてください!」
優しい微笑みだった総くんの顔は、私のお願いにより引きつった表情になっていることだろう。
「えっ?まだ諦めてなかったの?」
隣にいる史華から呆れたような視線を向けられた。
「当たり前じゃない。私だって真剣なんだからね。総くん、お願いできないかな?」
電話だからこその緊張感。
表情がわかればこんな緊張することないのに。
しばしの沈黙の後、予想通りの答えが返ってきた。
『断る。』
はあ、やっぱりだめか。
総くんをいろいろ観察させて欲しかったんだけどね。
恥ずかしいのかな?
「ねぇ総くん。なんで頑なに拒否なのかな?理由くらい教えてくれないかな?」
そんなに史華と2人がいいのかな?
私達そんなに邪魔なの?
『いくらカズマが親友だからって史華とデートさせる気なんてねぇよ。しかもそれを間近で見なきゃならないなんてどんな罰ゲームだよ。』
「「えっ?」」
部屋の中に双子の声が響いた。
「まっ、待って総士。なんで私が葛城くんとデートって話になるの?ダブルデートだよ?4人で遊びに行こうってことだよ?」
『は?お互い相手を入れ替えるんだろ?それで一緒にデートするんじゃねぇのか?』
総くんが頑なに拒否した原因がわかった。要するにカズくんと史華、総くんと私のペアになって一緒にデートするって勘違いしていたみたいだ。
「ぷっ、あはははは。なんだ〜。それで総くんは嫌だったのね。うんうん。私は総くんとデートでも問題ないよ?と、言うかその方がわかりやすいかも。」
「公佳?」
隣で史華が嫌そうな顔で抗議してくる。
「そっか。大事な史華を誰かに貸したりしたくないもんね?うんうん。総くんは本当に史華が大好きだね。うれしいな。」
『当たり前だろ。ってか史華以外とデートしたいと思わないわ。』
電話越しの総くんの声も少し拗ねたような口調だった。
「ご、ごめんね。一応双子だから見た目はそんなに変わらないと思うんだけどね。愛しい史華とは比べものにならないもんね。ふふふ。それにしてもびっくりした。完璧っぽい総くんがそんな勘違いしてたなんて。あはははは〜!も、もうギャップがあり過ぎて我慢できない。」
「ちょっと公佳、笑い過ぎよ。誰にだって間違いくらいあるでしょ?」
それはわかってるんだけどね?総くんがそんな初歩的な勘違いしてるなんて思わなかったもん。
『プープープー。』
「総士ごめんね。公佳にはちゃんと反省させるからあまり気にしないでね。」
『……』
「ん?総くん?怒っちゃった?ごめんね、言い過ぎちゃったかな?」
全く反応のなくなったスマホを見てみると通話時間が表示されていた。
「あっ。」
「ちょっと!」
史華が慌てて電話し直すが出ないみたいだ。
「嘘!なんで?総士?」
その様子を見た私は数週間前のことを思い出し、慌てて総くんにメッセを飛ばした。
『ごめんね総くん。史華がまた心配してるから電話出てあげて。』
「もしもし?ごめんね総士。気分悪くさせちゃって。」
程なく電話に出てくれた総くんに、史華は安心した表情を見せながらも一生懸命謝ってくれていた。
「えっ?いいの?」
電話中の史華が驚いてる。
「うん、わかった。ありがとうね総士。
うん、私も大好きだよ。
うん。おやすみ。」
あ、甘い。
さっさと部屋を出て行くべきだったと反省しながらも史華に手を合わせて謝った。
「ごめん史華。調子に乗って総くん怒らせちゃった。」
横目でジロリと睨まれたが、ため息とともに許してくれた。
「総士も許してくれたから私が怒ってても仕方ないでしょ。それよりもダブルデートの件。してもいいよって。」
「えっ?本当に?」
「嘘言ってどうするのよ?日程は調整するとしてデートコースは任せるから決めといてだって。明日の練習の時にちゃんと謝っておいてよ。」
「うん。史華もありがとう。一緒にデートコース考えようね。」
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