第91話大吉だよ
「お兄ちゃん、初詣連れてってよ。」
お父さんが酔い潰れ、倉重先生がお母さんコンビに絡まれた新年会の最中、清香があざとくそうちゃんの袖を引っ張りながらお願いしている。
「あ〜、まだ3時か。」
「うん。私の合格祈願も兼ねてデートしようよ!」
あんたの受験は来年よね?それにナチュラルにハブるのやめてくれる?お姉ちゃん泣くよ?
「合格祈願は気が早いだろ。香澄はどうする?」
「もちろん、行くよ。他の選択肢があるわけないじゃない。」
「え〜?たまには遠慮してよ。せっかく史華さんいなくてチャンスなんだから。」
頬を膨らませながら抗議する妹を無視してお出かけの準備をはじめる。
「そうちゃん、どこ行く?少し遠いけど熱田神宮にする?」
「却下、元旦になんて行きたくないぞ。近所の神社で十分だろ。屋台だって出てるし。」
「それもそうだね。じゃあ清香、行ってくるね。」
私はそうちゃんの手を握り部屋から出ようとするが、そうちゃんが動かない。
「私が誘ったんだけど?オマケだってこと自覚してよねお姉ちゃん。」
反対側で清香がそうちゃんの手を握っていたからだ。
「ほらほら、清香受験勉強大変なんでしょ?家に帰って勉強しなよ。お土産くらい買ってきてあげるからさ。」
そうちゃんを中心に姉妹が火花を散らします。
「何あなた達、初詣行くの?」
お母さんコンビが手招きをしてくるので、渋々そうちゃんの手を離すと自宅に連れて行かれた。
「総士、30分待ってなさい。大和撫子七変化よ。」
「なんだよそれ。あまり遅くなるようなら行くのやめるからな。」
「任せなさい。美女2人にしてくるから。」
「今さら感半端ないけどな。」
何気ないそうちゃんの一言に清香が顔が綻ぶ。
「えへへへ〜。お兄ちゃん、清香のこと美女だって思ってくれてるんだ。」
「ん?まあ今さらだけどな。2人とも美人だと思うぞ。」
「史華さんより?」
清香が少し踏み込んでみた。
「比べる必要ないだろ?史華も美人だけどお前たちとはまた違ったタイプだしな。」
「む〜!そこは清香が1番だよでいいんだよ。」
口では文句を言いながらも表情は緩みっぱなしである。
「ほらほら清香ちゃん。ナンパ男はほっといてさっさと準備に行くわよ。」
翔子さんに背中を押されて清香と私は自宅に戻り着物を着付けてもらいました。
「よし!さすが私の自信作。2人とも綺麗よ。」
お母さんが娘を前に満足気な顔をしています。
「本当にね。2人ともナンパされないように総士にくっついてなさいよ。人払いくらいはできるだろうからね。」
翔子さんの言質もいただいちゃいましたので、そうちゃんから離れることはできないね。
「お兄ちゃんお待たせ〜。」
纐纈家に戻った清香はパタパタと早足でリビングに向かい、両手をかわいく広げながら着物姿を見せていた。
清香は真っ赤な生地に色とりどりの花の柄の着物を着ている。
「お〜、華やかだな。さすが俺の妹分。」
そうちゃんもまじまじと清香を見ながら満足そうに笑った。
「えへへ。お兄ちゃんに褒められるとうれしいよぉ。」
「お〜、香澄は大人っぽいな。」
そうちゃんが清香の肩越しから私を覗き込んできた。私が着てるのは黒の生地に星が散りばめられている着物。
そうか、と思いスマホを出してそうちゃんに見せた。
「ふふん、孫にも衣装でしょ?ちょっとスマホケースとお揃いだよ。」
胸元にスマホを持ってそうちゃんに見せると、じ〜っと胸を見つめてきた。
「そ、そんなに見ても透けてないよ。そうちゃんってばエッチなんだから。」
胸を凝視しているそうちゃんを咎めると無表情で見られた。
「いや、俺が見てるのはスマホだぞ。」
「ふぇ?私のおっぱいが見たかったんじゃないの?」
「お前なぁ、まあいいや。俺のと似てるな。」
そう言うとポケットからスマホを出して私に見せてくれた。それはお祭りの出店で見た太陽のモチーフのスマホケースだった。
「そうちゃん、ひょっとしてこれって夏祭りの出店で買った?私これ見たよ。」
「おう。じゃあ香澄のも柄違いなんだな。」
のも?
「ってことはひょっとして……」
「史華が月のモチーフのスマホケースを使ってるぞ。」
「やっぱり。私が見た時は3種類あったからそうちゃん達は後からきたんだね。」
なんだか運命めいたものを感じてきた。
史華ちゃんは一緒に買ったんだろうからお揃いなのは必然。
私はただの偶然。
ちょっとくらい特別に思ってもいいよね?
「お姉ちゃんがニタニタしてキモいよ。お兄ちゃん変態は置いといてさっさと行こうよ。」
「ちょっと清香、誰が変態よ!こんなんでもさっきそうちゃんに褒められたんだからね!」
そう、他の人がどれだけ褒めてくれても関係ない。そうちゃんが少しでもいいと思ってくれたらそれだけで満足できるんだもん。
「お姉ちゃん、それ私もだからね?しかも社交辞令なもんだったじゃない。相変わらず痛いなぁ。」
「何よぉ、そうちゃん以外の評価なんてどうでもいいわよ。好きな人がいいって言ってくれればいいんだから。」
私は小さい子供のように口を尖らせて拗ねていました。
「なんであざとく上目遣いなんだよ。とりあえずさっさと行くぞ。」
結局、神社に着いた頃には神社の境内の提灯に火が灯りはじめていた。
「あ、お兄ちゃん。タコ焼き食べたい。」
「はいはい。お参りしてからな。」
「そうちゃん、リング焼きがあるよ。買ってくるね。」
「まてまて香澄。お参りが先だって。」
屋台に目移りしている私と清香にすれ違い人達が振り返る。
「お前ら注目されてるんだから食い気に走りすぎるなよ。」
普段から周りの注目を集めることには慣れているけど、今日は着物姿ということも相まって注目度は通常の3割ましというところだろう。
「お兄ちゃんと一緒だからテンション上がってるんだよ。」
清香がそうちゃんの服の裾を掴んで上目遣いで見ている。そんなかわいい妹分の頭を優しく撫でるとうれしそうに微笑んだ。
「あ〜!清香だけずるい!そうちゃん、私にも頭撫で撫でしてよ。」
私も同じように服の裾を引っ張った。
「妹扱いは嫌なんじゃなかったか?」
「べ、別に頭を撫でるのは年下にだけじゃないでしょ?」
「まあ確かにな。」
ジト目で睨らむと頭を撫でてくれたのでうれしくなった。
「えへへへへ。新年から役得だね。」
「安上がりだな。」
「史華ちゃんオンリーのそうちゃんが甘やかしてくれる機会なんて私からすればレアなんだよ?それこそおみくじで大吉引く以上の価値はあるからね。」
占いなんかよりもそうちゃんの言葉の方がよっぽど信じられるよ?
「わかったから。じゃあ参拝してからおみくじな。」
賽銭箱にお賽銭を入れて鈴を鳴らして二拝二拍手一拝。
『そうちゃんのお嫁さんになれますように』
そうちゃんに恋心を抱いてから私のお願いは変わってない。変わらない。
例え強力なライバルがいても私がすることは変わらない。可能性が低いことは承知の上。
一夫一妻の現実世界だもん。
「何お願いしたんだ?」
「お兄ちゃんと同じ高校に入って史華さんからお兄ちゃんを奪えますようにだよ。」
清香が清々しいくらいの笑顔でそうちゃんに答えると「叶わないな〜。」と清香に負けないくらいの笑顔でそうちゃんが返した。
「も〜!高校生になったらもっと綺麗になるんだからね?」
拗ねたように清香はそうちゃんから顔を背ける。
「まあ、そうだろうな。清香も綺麗になると思うぞ。香澄みたいにな。」
そうちゃんの何気ない言葉に私達姉妹はやられてしまった。
「も、もうお兄ちゃん。不意打ちにそういうのは恥ずかしいから!」
清香には珍しく真っ赤な顔で俯いている。
「えへへへ。私のこと綺麗だって思ってくれてるんだ。」
緩みっぱなしの表情は直る見込みがなく、この日はおみくじを引くのも忘れるくらい幸せでした。
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