第89話 (閑話③) 纐纈家、聖川家のお正月
「新年あけましておめでとうございます。」
2年ぶりに纐纈家と聖川家の新年会が行われました。会場は隆司おじちゃんが寂しがるといけないからということで纐纈家です。
「なによ香澄。気合いが足りないんじゃないの?」
朝一の綾姉の挨拶がわりの言葉は楽をして着物をスルーした私への皮肉でした。
「なによ綾姉だって洋服じゃないの。婚約者がいるのに気合いが足りないんじゃないの?」
ソファーでうちのお母さんの尋問を受けていた倉重先生が気付いて苦笑いしている。
「僕もいつも以上に綺麗な綾音を見たかったんだけどね。ご馳走が食べれなくなるって拒否されてしまったよ。」
ご馳走に負けた
「いいのよ誠さんは。後でとっておきのデザートを用意してあるから。」
綾姉が倉重先生に視線を送ると、それを受けた倉重先生は「ははははは。」と渇いた笑いでごまかしていた。
「何がデザートよ、変態。」
言葉を意味に気づいた私は仕返しと言わんばかりにジト目で睨んだ。
「ふん!お子さまにはわかるまい。」
「変態の思考はわかりたくないですよ〜っだ!」
倉重先生、まだ引き返せますよ!
本当なら声に出して言いたいところだけど、身の危険を感じるのでやめておきます。
『ガチャ』
「あら、総士お帰り。」
「そうちゃん、おかえ—」
「お兄ちゃん、お帰り!」
練習帰りのそうちゃんにドサクサに紛れて抱きつく予定だったのに、清香が先に反応していた。
「おっ!清香おめでとう。今日は大人っぽい格好してるな。綺麗だぞ。」
「やだお兄ちゃんてば!お嫁さんにしたいなんて気が早すぎるよ〜。」
「ちょっとちょっと清香。言われてないからね。」
「何よお姉ちゃん。嫉妬は見苦しいからやめた方がいいよ。」
「くだらないことで新年から言い争いするなよ。」
呆れ顔でそうちゃんが仲裁に入ってくれた。
新年の挨拶はすでに早朝ランニングの時に済ませてあります。
「おっ、香澄。きょうはなんていうかエロい格好だな。」
「……エロいって。」
今日は白のニットのワンピースに太めの皮のベルトを巻いき、ニーハイで絶対領域を形成していた。
「お前、座ると見えちゃうからずっと立ってろよ。」
「え〜、疲れるから座るよ?」
私はわざとらしくそうちゃんの前に座りました。
「えへへへ。そうちゃんのぞいてもいいよ?」
小悪魔チックにそうちゃんを見ると、呆れ顔で見返された。
「よっと。」
そうちゃんは手を伸ばすと躊躇なくスカートをめくった。
「きゃああああああ〜!そうちゃんのエッチ!」
「うるせぇな、短パン履いてるじゃんか。態度でバレバレなんだよ。」
「はい、ごめんなさい。」
さすがそうちゃん。彼女持ちは違うね。
……声に出すと寂しくなりそうだから言えないけど。
「短パン履いてるからってスカートめくらないの。あんたは小学生か!」
そうちゃんがご馳走を運んできた翔子さんに頭を叩かれる。
「イテッ!香澄相手に欲情しないから問題ねぇだろ?」
「いやいや。そうちゃんいろいろ問題あるからね?というかその扱いはひどくない?そんなに色気ないかな?短パン脱げばいい?」
私は中腰になり短パンを脱ぎにかかると、後ろから頭を叩かれた。
「やめなさいバカ。史華ちゃんオンリーの総士には無駄に恥かくだけよ。」
「はい。取り乱しましてごめんなさい。」
反省中です。
「ところでお兄ちゃん。今日史華さんはこないの?」
いつの間にか私とそうちゃんの間に座っている清香がキッチンを覗き込みながら聞いていた。
「親父さんの会社の新年会に強制参加らしい。まあ後継者候補らしいからな。」
そう言うそうちゃんの表情は少し曇りがちだった。
史華ちゃんがお父さんの後継いだらどうするんだろ?そうちゃんだってプロになる夢を諦めるわけないし。
♢♢♢♢♢
「それでは皆さん、新年あけましておめでとうございます!」
お父さんがグラスを高々と上げながら声高に挨拶をする。
……何回やるのよ酔っ払い。
すでに誰も相手をしないのでエンドレスになりそうな雰囲気です。
倉重先生はお母さんと翔子さんに捕まり根掘り葉掘り聞かれています。
そうちゃんはと言うと清香に……、あれ?
「清香、そうちゃんは?」
さっきまで酔ったフリをしていた清香に捕まっていたそうちゃんの姿がみえません。
「史華さんから電話よ。」
清香はムスっとしながら答えるとジュースを一気に飲み干した。
「あと1年とちょっと。負けないんだからね。」
なんだかんだで清香も真剣なんだよね。
ベランダに目を向けるとそうちゃんが手すりに寄り掛かりながら電話をしていた。
しあわせそうな顔をして。
私はフリースを持ってベランダに行き、そうちゃんの肩にかけた。
"かぜひくよ"
口パクだけど伝わったかな?
"大好きだよ"
私の思いも一緒に伝わってるよね?
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