第88話 許可してください
「クリスマスにありがとう、助かったよ。」
地獄の様なクリスマスディナーのバイトが終わり(お店は営業してます)、私と総士は事務所でオーナーからケーキを差し入れていただきました。
「試作品だからまた今度感想聞かせて。」
そう言うとオーナーは
「うん。甘さ控えめでいいんじゃないか?」
隣の席で総士がフォークで大きめにカットしながら口に運んでいます。
「う〜ん。私はもう少し甘くてもいいかも。」
栗と梨をペーストにしたタルトの評価は好みの差程度の問題で味に関してはとてもおいしかったです。
「私お皿片付けてくるから帰り支度しておいて。」
キッチンに下り、お皿をサッと洗って食洗機にセットしておきました。
「お待たせ、帰ろう。」
事務所に戻るとダウンコートを着た総士が出迎えてくれました。私の隣までくるといつものように左手を差し出してくれたので、私はしっかりと握りました。
「総士とのクリスマス、あっという間に終わっちゃったね。カップルばかりになると思ってたけど、家族連れの方が多いくらいだったよね?」
「そうだな。うちも小さい頃はここにきてたからな。」
「そっか。」
空を見上げた総士の横顔を見つめました。
きっとお父さんのことを思い出しているんだと思います。繋いだ右手を少し強めに握ります。
"私はずっと一緒にいるからね"
そんなメッセージを込めて。
「なあ史華。せっかくだからクリスマス気分味わいに駅前のイルミくらい見ていこうか?」
「うん。」
繋いだ手を離し、総士の腕に抱きつき直しました。コートを着ているのでどこが当たろうと気にする必要がないので、いつも以上にくっつきました。
駅前の通りはイルミネーションがおこなわれていることもあり、混雑していました。
「うわっ、史華離れるなよ?」
腰に手を回され抱き寄せられると、私をかばうように雑踏の中に入っていきました。
「すごい人だね。私の身長だと全然見えないよ。総士どう?」
「辛うじて見えるかな。肩車しようか?」
「嫌だよ。小さい子供じゃないんだからね。」
近くで見ることを諦めて雑踏を抜け出しました。
「残念。まあ、ここからでも見えるからいいかな?全体がわかるしね。」
駅前の商業施設の2階の窓から見下ろしています。お店も閉店間近のところが多いので人はまばら。総士は後ろから私を抱きしめながら外を眺めています。
「史華、ちょっと電話していい?」
「えっ?あ、うん。」
私といるときに電話をかけるなんて初めてのことなんでちょっとびっくりしました。
でも本当のびっくりがこの後に待っていました。
「あ、もしもし纐纈です。こんな時間にすみません。」
話し方からいって年上でしょうか?
「……はい、少しお話しがあったんですがお父さんはご帰宅されましたか?」
え?お父さん?
つい気になってしまい総士の袖を引っ張りました。
総士はニッコリと微笑みながら私の頭を撫でました。
♢♢♢♢♢
『旦那?今日は出張で戻らないわよ。どうしたの?』
意を決して史華の家に連絡をしてみたが肩透かしを食らってしまった。
「え〜っと、こんなことお願いするのはおかしいかもしれませんけど、今晩史華をお借りしたいなと思ってます。」
『総士くん?それはお泊まりの許可が欲しいってこと?』
「まあ、そうっす。今日はずっと一緒にいたいなって思ってます。っともちろんそういうこと込みです。」
『……ふ〜ん。普通はそういうのはこっそりとやるものよ。その許可を求めてきたのはなぜ?』
お母さんの言い分はもっともだった。
自分でもばかだと思う。
でも、
「史華との将来を真剣に考えてるんで。お母さん達とも嘘のない付き合いがしたいです。後ろめたい気持ちを持ったままこの先付き合うのは嫌なんですよ。」
史華が心配そうに見上げている。
『本当に総士くんは史華のことが大好きなのね。うん、君の言い分はわかったわ。ちょっと史華に代わってくれる?』
♢♢♢♢♢
「もしもし?」
『史華?本当に総士くんっておもしろい子ね。で、あなたはどうしたいの?高校1年生、まだ早いんじゃないかなってお母さんは思うよ?』
「ちょ、ちょっと待ってね。」
総士とお母さんがどんな話をしていたのかわからないので総士に説明を促しました。
「ちょっとお泊りの許可をもらおうと思ってさ。」
「はい??お母さんに?」
「そう。もちろん行為こみでな。」
「ふぇ???お母さんに??」
「お父さんにももらいたかったんだけど留守みたいだから。あ、史華。お父さんの連絡先わかるか?ちょっと連絡してみる—」
「やめてっ!必要ないから!お母さんだけで十分!」
私は首を左右にぶんぶん振り拒否しました。
『史華?ちょっとどうしたの?』
電話の向こうから待たせっぱなしだったお母さんの声が聞こえてきました。
「ごめんなさい。総士がお父さんに連絡するって言い出したから止めてたの。」
『それはやめよう。お父さん倒れるわよ。それはそれと史華。あなたはどうしたいの?』
答えなんて一つしかないよ?
「私も総士と同じ。ずっと一緒にいたい。将来的にもね。だから私からもお願いします。今日は総士と一緒にいさせて。」
『あなたが泣くことに—、はならないわね。お父さんには内緒よ。』
「お母さん、ありがとう。」
総士を見上げて微笑みました。
『それはそうと史華。』
「何?」
『ちゃんと避妊しなさいよ。』
「大丈夫だから!……たぶん。」
早期結婚のために既成事実をってことはないはずです。
♢♢♢♢♢
「……だよな。」
「……だよね。」
ここはホテルのロビー。
部屋の案内板を見ると全室入室中。
「クリスマスだからな。」
「クリスマスだもんね。」
予想はしていましたがやっぱりクリスマス。
この界隈にホテルは2件しかありません。
もう1件も先程満室であることを確認してきました。
「お母さんの許可もらっといてただいまって恥ずかしいな。」
総士が苦笑いしてますが、そうなる可能性が高そうです。電車に乗って他のホテルを見に行ってもクリスマスである以上どこも似たようなものでしょう。
「ま、しゃーないな。」
諦めて帰ろうとした瞬間、ランプが一つ消えました。
「あっ、総士消えたよ。」
私は慌ててボタンを押しました。
「おお!ナイスタイミング。」
総士がカウンターでチェックインをしているときにたまたまホテルの入り口を横切って行くカップルが目に入りましたが、妙な既視感がありました。向こうはきっと今日中にただいまと言うのでしょう。まあ、とっくに門限は過ぎていますけどね。
「史華、行くぞ。」
総士に手を引かれてエレベーターに乗ると、だんだん緊張してきました。くるのは2度目ですが制限付きだった前回とは違い無制限。しかも時間はたっぷりとあります。
『ガチャ』
カードキーを差し込みドアを開けると間接照明のみが点けられた部屋へと誘われました。
部屋に入ると総士はベッドに座り隣をポンポンと叩きました。緊張しながらも隣に座り身体を預けました。
緊張はしていますが気持ちはできています。
だけど、
「総士。」
「ん?」
「シャワー浴びてくるね。」
「別にそのままでも—」
そう言われると思ってました。
けど!絶対に嫌!
さっきまでバイトしてました。
汗かいてるんです。
初めてなんですから少しでも綺麗にしたいじゃないですか?
総士がなんと言おうと今回は譲れません。
「絶対に入るから!そこは譲れません!」
「え〜、まあしょうがないか。」
「うん。じゃあちょっと待って—」
「一緒に入るか。」
「……そうきましたか。」
すでに上半身裸の総士が先行してシャワールームへと歩き出していました。
「もう諦めてたよ。」
私も総士の後に続きシャワールームへと向かいました。
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