第87話 聖しこの夜
「うふふ。」
胸に薄っすらと残っているキスマークを見るたびについニヤけてしまいます。アクシデントがあったにも関わらず、私は総士と濃い1日を過ごすことができました。しかし、この前みたいなタイミングはなかなかありません。
「もうすぐクリスマス。冬休みになれば多少時間が取れるはずです。次こそは総士と……。」
女の子がこんなこと思うのおかしいかもしれないけど総士が望んで—、違うね。私が総士との仲を進展させたいんです。
「ちょっと史華、まだ上がってないの?」
「あ、ごめん。もうちょっと待ってて。」
私は慌てて服を着て扉を開けた。
「ごめん公佳。お待たせ。」
扉の前には呆れたような表情の妹が着替えを持って立っていました。
「もう、浴室の扉が開いた音がしたからもうすぐだろうと思ってたら全然出てこないんだもん。何してたのよ?」
キスマークを見てニヤけてました、なんて言えません。
「ん?スキンケアを—」
「してないじゃん。まあ、総くんに付けられたキスマークでも見ながらニヤニヤしてたってとこでしょ?」
「な⁈なんで……。」
いくら双子だからってそれではプライバシーもあったもんじゃないです。
「ふ〜ん。当たったんだ。」
公佳はニヤニヤしながら私の顔を覗き込んできました。
「カマかけたね。」
「ふふ〜ん。さすが双子でしょ?」
得意げな表情の妹がウザいです。
「もう、経験者はよくわかってるね。」
途端に公佳の顔をが赤く変色しました。
「やっぱりね。」
「やってくれたね。」
考えることは同じ様です。
飛鳥ならば「さすが双子!」ってよろこぶところです。
「ふふふ。ところで公佳。」
「何?」
服を脱ぎかけていた公佳がそのまま振り返ると、ブラの下辺りが赤くなっていました。
「あっ?現在進行形だったのね。」
「う、うるさいなぁ。で、何よ?」
服を着直しながら公佳が顔を上げました。
「あ、そうそう。クリスマスはどうするの?練習はあるんでしょ?」
「午前中だけね。午後からカズくんとデートだよ。まあ、普通のデートだろうけどね。」
ため息混じりの言葉にクリスマスという特別なイベントとは無縁な葛城くんの顔を思い出しました。
「あ〜、なんかごめんね。」
「まあ、そういうのは諦めてるから。普通でいいよ。」
「進展あったしね。」
「うるさいなぁ。お互い様のくせに。」
赤い顔で反論する妹はかわいいもんです。
「史華はバイトだよね?」
「21時までね。クリスマスデートはなしかな?いつも通り総士と一緒に上りだから帰りに駅前のイルミネーション見るくらいかな?」
時間はあまりないけど、少しくらいは雰囲気味わいたいもんね。
「そっか。ちなみにお父さん出張でいないらしいよ。」
「へぇ〜。相変わらず忙しいね。」
「それだけ?」
「どういうこと?」
「お母さんは史華の味方で総くんをお気に入りってことかな?」
♢♢♢♢♢
「はぁ〜、何もクリスマスイブまで練習しなくてもいいのにな。俺みたいタイトなスケジュールなヤツは時間調整が難しいんだぞ。」
練習終わりにソノさんが愚痴ってきた。
「ソノさん、おひとりさまですよね?」
飛鳥の慈悲のない言葉が突き刺さる。
「は、ははは、飛鳥ちゃん。何を言ってるのかな?俺はこの後—」
「予定がないんですよね?」
こいつ悪魔だ。
カズマも公佳もソノさんに哀れみな眼差しを向けている。
「お前、容赦ないな。見てみろよ。ソノさん廃人になってるぞ。」
ソノさんをみると両手両膝をついて真っ白な廃人となっていた。
「見栄張らなければいいのに。普通にしてれば代表のエースなんだしモテるんだろうけど、言動が残念だもんね。」
「……飛鳥。」
公佳が呆れた表情で飛鳥とソノさんを交互に見た。依然とソノさんはフリーズしたままだ。
「総士!」
声のした方に目を向けると、史華が手を振っていた。
「おのれリア充!」
いつの間にか俺の背後にきていたソノさんが毒を吐いてくる。
「すでにここにカップルがいるんすけど。」
カズマと公佳に目を向けるが巻き込まれるのを恐れて視線を逸らす。
「どうしたの?」
史華が小首を傾げている。
かわいい。
「かわいいな。」
素直な言葉が口から出てきた。
「あ、ありがと。」
ニッコリと微笑む史華。
耐性ができたのか、最近はあまり照れなくなってきた。
『ギュッ』
そのかわりに積極的になっており、みんなの前でもこうして手を繋いぐようになった。
「お疲れ様。バイトまでの時間、お茶しない?」
「おう。んじゃみんなまた明日。」
史華の手を引きクラブハウスを後にした。
♢♢♢♢♢
「ねぇキミ。あの子どうしたの?」
前を見ながら飛鳥が言った。
「ごめんね。ちょっと訳ありなんだ。」
肩を竦めながら軽い感じで答えた。
いつもの史華なら総くんを迎えにきたからと言っても私達にも声をかけてくる。
それだけに飛鳥も違和感を覚えたのかもしれない。
「訳ありか。私にも話せない?」
「ごめんね。私が勝手に言うわけにもいかないしね。治ったときには教えるから。」
飛鳥は少し寂しそうな表情を見せたが黙って頷いた。
♢♢♢♢♢
「はぁ、あったまる。やっぱり抹茶ラテにして正解だったよ。」
ソファーに浅く座って両手でカップを持つ史華はいつもにも増して綺麗だった。
それにしても
さっきの史華の態度には違和感を覚えた。
喧嘩してる訳じゃないし、嫌がってる感じでもなかった。悪い言い方をすると眼中にないってとこか?
「ん?総士どうしたの?」
俺が何も言わないことに違和感を覚えたのだろう。史華が顔を覗き込んできた。
「あ、わりぃ。あまりにもかわいいから見惚れてた。」
「……もう。」
史華は照れて俯いてしまう。
周りを見渡しても自分の彼女ということを除いても史華のかわいさは際だっていると思う。
「ん?そうだ。」
俺は鞄を膝の上にやり、中から紫のリボンのついたプレゼントを史華に渡した。
「Merry Xmas史華。来年も一緒に祝おうな。」
プレゼントを見た史華は、顔を綻ばせて喜んでくれた。
「ありがとう総士。ねぇ、開けてもいい?」
「どうぞ。」
高校生にしては少しだけ奮発したプレゼントかもしれない。
「えっ?腕時計?」
「そう。なんとなく一目惚れ。」
「でも、高かったでしょ?」
「バイトしてるし。それほどでもないぞ。ちょっと重いプレゼントだった?」
「そんなことないけど、無理して欲しくないから。プレゼントは素直にうれしいよ。ありがとうね。」
少し戸惑っているみたいだけれど、よろこんでくれたみたいだ。ゴールドのメタリックバンドに黒い文字盤が大人っぽくて、史華に似合うと思ったら即決だった。
「じゃあ私からも。メリークリスマス総士。これからもずっと一緒にいてね。」
史華から手渡されたのはクリスマスカラーの袋だった。
「サンキュー。開けていい?」
「どうぞ。」
緑のリボンを外して中身をだすと、サックスブルーのマフラーだった。
「手あみ?」
「うん。文化祭の後から頑張ってたんだ。間に合って良かったよ。」
「それで最近、眠たそうだったのか。文化祭の疲れを引きずってるのかと思ってたぞ。史華こそ無理するなよ。」
マフラーを首に巻いてみると史華が満足げな顔をしてくれた。
「良かった。最近編み物にハマってるの。今は手袋作ってるんだ。初めてだから赤ちゃん用の小さいやつだけどね。」
「まだ気が早いだろ?もう少し後で—。」
「私達のってわけじゃなくてね。あ、それはそのうち作るんだけど、練習用だからってことね。」
「そのうちね。家族でお揃いにしような。」
「……うん。頑張るね。」
頬を赤く染めた史華が微笑んだ。
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