第86話 (閑話②) クリスマス香澄編

「は?クリスマス?」


そうちゃんとの朝のランニングでのこと。


「うん。史華ちゃんとデート?」


淡い期待を胸に予定を聞いてみた。


「バイト帰りに少しだけって感じだな。24、25なんてクルシミマスに決まってるだろ。去年地獄を見たわ。」


「あ、バイトか。休まないんだ。」


「休めないな。大学生が早いうちから出勤拒否を表明してるから仕方なくだな。」


普段から人気のお店だからクリスマスは予約でいっぱいなんだろうな。仕方ない、例年通りみやびちゃんとデートしようかな。


「そう言えば香澄。」


「うん、何?」


「お前に面白い噂あるの知ってるか?」


「噂?まあ、いろいろされてるみたいだからどれのことかわからないけど、面白いの?」


「会長と副会長ができてるって噂。百合ってやつ?2人とも美人なのに彼氏も作らずにいつも一緒だからな。」


まあ、彼氏は作る気ありませんけどね?

ジト目でそうちゃんを見ておこうかな。


「んな目で見るなよ。俺のせいじゃないだろ。」


「ん、だね。ちょっとだけ意地悪してみたかったの。」


そうちゃんはこういうところの勘がいいんだよね。他人をよく見てるもんね。


「で、お前クリスマスは平川とデートか?」


「うっ!ま、まあそうなるよね。」


「あまり遅くならないようにしろよ。平川がいるから危険はないだろうけど絶対はないからな。ナンパ目的のヤローも街にいるだろうしな。」


「うふふ。心配してくれるんだね。ありがとう。大好きだよそうちゃん。」


「ま、ほどほどにな。」


「ちょっと、乙女の告白に完全スルーってどういうこと?」


いつも通りだけどさ。


「わかって言ってるだろ?」


「まあ、ね。」


「んじゃ、行くか。」


「うん。早く身体温めないとね。」


♢♢♢♢♢


「どこもクリスマス一色だな。」


練習が終わりバイトまでの空き時間、迎えにきてくれていた史華と駅前をぶらぶら。クリスマス一色になった街に史華も珍しくキョロキョロしている。


「なんか小動物みたいな動きになってるぞ。」


隣を歩く史華に声を掛けると、ビクッと肩を震わせて止まった。ゆっくりと顔を上げたその顔は赤く染められていた。


「し、仕方ないでしょ。気になっちゃうんだもん。」


「まっ、そんな史華もかわいいからいいけどな。っと、ちょっと待った。」


赤い顔をでぶつぶつ言っている史華の手を引き止める。


「っと、どうしたの?」


チラッと見えた雑貨屋さんのショーケース。

店内に入りじっと眺める。


たまにはいいかな?


「なあ、史華。これなんだけど—。」


♢♢♢♢♢


「じゃあ香澄ちゃん、気をつけてね。」


みやびちゃんとのクリスマスデートも終わり、自宅に戻りぼーっとテレビを見ていた。

どの局もクリスマスの特番。

街行くカップルのインタビューなんて目の毒以外のなにものでもない。


「はぁ〜、クリスマスデートか。いつかそうちゃんとしたいなぁ。」


『ピンポーン』


「こんな時間に来客?」


不審に思いながらもインターホンの画面を見た私は、応対もせずに玄関に走った。


「そうちゃん?どうしたの?」


21時30分。


突然の来客はそうちゃんだった。


「メリークリスマス香澄。ちょっとお届け物だ。」


そう言うとそうちゃんはバイト先で買ってきてくれたと言うケーキを手渡してくれた。


「ほい。あらかじめ予約しといて良かったわ。すでに今日のケーキ完売したぞ。」


「うそ?なんで?」


「嘘ってなんだよ。ちゃんと中身入ってるからな?それとこれはおまけな。」


ポケットに手を突っ込み、その手で私の手首にブレスレットをつけてくれた。


「……えっ?」


シルバーのチェーンにいくつもの星が散りばめられたブレスレット。


「姉貴の跡ついで頑張ってるからな。俺からのご褒美兼クリスマスプレゼントだ。」


「いいの?」


「問題あるか?まあ、気に入らなきゃ無理してつけなくていいぞ。史華にも話してあるから問題ない。」


手を上げてブレスレットをまじまじと見る。


「かわいい。」


そう言うのがやっと。

そこからは言葉ではなく涙が出てきた。


「香澄?」


突然泣き出した私にそうちゃんが珍しく狼狽している。


「……うれしい。ありがとうそうちゃん。」


泣いているあいだ、そうちゃんは私の頭を撫でてくれていた。


「落ち着いたか?そんな高いものでもないからそんな感動されると対応に困るな。」


値段じゃないよ。

そうちゃんだってわかってるくせに。


「あ、私プレゼント用意してない。」


「ご褒美だって言ったろ?お返しなんていらないからな。」


「そんな訳にはいかないよ。待っててちょっとリボン探してくるから!」


「なんでそんなベタなネタに走るんだよ!自分に巻いてプレゼントなんてするなよ。」


「うっ!さすがそうちゃん。私のことよくわかってるね。」


「俺以外でもわかるっての!まあ、いいや。渡すもの渡したから帰るわ。」


「うん。ありがとうね。」


「あ、忘れるとこだった。清香〜!」


「えっ?お兄ちゃん?」


自室にいた清香がパタパタ玄関まで走ってきた。


「ほい、クリスマスプレゼント。」


「えっ?私に?ありがとう〜!お兄ちゃん大好き。」


「私だけにじゃないのね。」


ちなみに清香へのプレゼントはちょっといいボールペンだった。


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