第83話 前夜

史華が俺の袖口を掴んで離さない。

ずっと不安な表情をしたままだ。

右手で手を離させて繋ぐと安心したかのように微笑んでくれた。


「離さないでね?」


文化祭以降、史華はずっと不安な表情をする。


「なあ公佳。最近史華の様子おかしくないか?」


『まだ気にしてるみたいだね。家でもスマホ気にしてばかりって感じだね。総くんも怒ってたわけじゃないんでしょ?』


「ああ、ちゃんと史華にも言ったんだけどな。そんなに信用ないのかと心配になる。」


『ああ、総くんが責任感じることはないと思うよ。史華が自分を許せないだけだよ。だから総くんは今まで通りで接してあげてよ。』


「今まで通り……か、そうだな。変わったことしても史華は不安がりそうだしな。」


『だね。あ、一つだけ安心できそうなこと思いついた。』


さすが双子だな。有効な解決策を思いつくとは!


『あのね……』


「おい!そこで止まるなよ。」


『ちょっと恥ずかしいことなんだけどね?』


公佳が言い淀んでなかなか先に進まない。


「お〜い、公佳?」


『よし!言うよ?……抱いてあげたらどうかな?』


「は?」


『聞きなおさないでよ!だから総くんのものにしてあげてって言ってるの。もう!』


「あ〜、なるほど。でも弱ってるところつけ込むみたいで卑怯じゃないか?」


『でも、きっかけがないと難しくない?』


ふと考えてみる。

練習とバイトでなかなか時間はない。

お互い実家暮らし。

まあ、実行するならホテルってことになるしな。さすがに外はないしな。


「まあ、な。ところで公佳。」


『ん?』


「お前はどうだった?」


『んん?』


公佳の声に焦りが滲んでる


「だから、お前はどうだったかを—」


『セクハラ!総くん、それはセクハラ案件だよ!女の子に普通聞かないよね!』


「いや待て、お前が言い出したことだからな。最後まで責任持てよ。」


『うぅぅうぅ〜、鬼畜だよ総くん。』


「言いがかりはやめてくれ。でどうだったんだよ。」


『……ばか。』


『もう、仕方ないなぁ。……は、初めて同士だからうまくできなかったけど、ホテルにビデオがあったから、それを参考に—』


「おい待て!そんな生々しい話し聞いてないぞ?気持ち的にどうだったかを聞いてるんだけど?」


『……い、、、いや〜!ばかばかばか!そういうことはちゃんと言ってよ!』


「話の流れでわかれよ。まあ、せっかくだから続きも聞こうか?」


『話すわけないじゃない!もう!信じられない!』


顔が見れないのが残念なくらい自爆した公佳が面白い。


「なあ公佳。一応悩み相談だったんだけどおお前と話してたらなんとかなりそうな気がしてきたよ。」


なんだろう?くだらない話をしてたら肩の力が抜けた感じがする。


「やっぱり公佳は癒し系だな。」


『ふぇ?なんでそうなるなかな?総くん、またからかってるでしょ〜!』


この双子は自分たちの良さを理解していない。公佳の癒しは見た目だけじゃなく心遣いがとにかく細かい。振った相手に気を遣わせないようなさりげなさは俺以外の相手にも発揮していた。


「まぁいいよ。もうちょっと史華の様子見ながら考えるわ。サンキューな。」



♢♢♢♢♢


「デート?うん、もちろん行く!どこ行こうね?」


生徒会に入ってすぐに文化祭の準備が始まったためになかなか総士と会えなかっただけでなく、連絡すらできてなかった私は総士からのお誘いに喜びと安心感を覚えました。


『どこか行きたいところはあるか?』


「今回はあまり時間ないから近場だよね?2人でゆっくりできるところがいいな。」


ショッピングかな?ピクニックかな?


『なあ史華。できれば2人でゆっくりしたいんだけど。』


どちらかの家とか?お家デートってやつだよね?総士とならそれでも—。


『ホテル行かないか?』


「ふぇ?」


『誰にも邪魔されずにイチャイチャできるぞ。』


それはすでにイチャイチャを通り越しちゃうよね?でも、


「うん、行く。」


『いいのか?』


「断る理由ないよ?さすがにどこにデート行くの?って聞かれても正直には言えないけどね。」


公佳くらいになら言ってもいいけどね。いずれにせよ総士と一緒にいられるんですから。


『じゃ明日8時に迎えに行くからどこかでモーニングしてこうぜ。』


「せっかくだからホテルのルームサービスにしようよ?」


結構充実してるって聞くし、その分2人っきりの時間ぎ作れるから。


『ん。じゃあ明日な。』


「うん。おやすみ。」


はああああああ〜!


びっくりしました。


いきなりホテル行こうって!


もちろんそういうことするためだよね?


総士らしいっていうのか、デートにホテルって選ばないよね?


まあ、普段なら総士だってそんな選択はしないと思いますけどね。


きっと私が不安に思ってることを気にしてくれてるからだとは思います。


思いますけどホテル行こうって!

そりゃ、私だってを想像したことはありました。

けど、こんな誘われ方は想定外です。


「ちゃんと心と身体の準備しなきゃ。」


明日は朝早くに起きてシャワー浴びなきゃ。

それにしても一日中って。

まさか一日中するってこと?

はじめてなのに?

さすがにハードルが高い気がすんるですけど—。

でも、総士がそうしたいなら頑張らなきゃ!

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