第82話 翔栄高校文化祭 2
「え〜!それステージでやるわけ?私晒し者じゃない!いやだ!綾姉代わってよ!誰が考え、、、って綾姉が犯人でしょ!」
文化祭ラストを飾るステージイベント
生徒会プレゼンツ「甘いひととき"香澄の告白"」
「すでに告知済み。参加者も厳正なる抽選により20人が当選。事後問題にならないように私が面接したから大丈夫。シチュエーション一覧はこのプリントにまとめてあるからしっかりと覚えなさい。」
20人ぶんのシチュエーションと台詞がまとめられたプリントにざっと目を通す。
「あの〜、この水着とかは流石にNGだよ?そもそも着替える時間なんてないよね?」
シチュエーションを確認すると部活終わりに水着のまま告白されるとか、テニスウェアでとか衣装の指定がされているものが多い。
「コスプレは必要でしょ?それを踏まえた雰囲気を出さな、、、」
「却下!パワハラ!セクハラ!綾姉、わかってやってるよね?早く本当の資料ちょうだいよ。わざわざ私の反応みて楽しむためにフェイク仕込まなくてもいいでしょ。暇人じゃあるまいし。」
私が綾姉に資料の交換を催促すると、大人しく資料を渡してくれた。
「やることには否定しないでくれてありがとう。」
楽しそうに笑う綾姉を見て、いたずらじゃなく作戦だったことに気付かされた。
「はぁ〜、もういいよ。これ読む時間少しもらうからその間はここにいてよね。」
「香澄は甘えん坊だねぇ。」
どうあっても逆らえないので大人しく資料を読む。
「失礼します。」
扉が開かれ史華ちゃんが戻ってきのを確認すると、すかさず綾姉が抱きしめた。
「うちの愚弟が不安がらせてごめんね。」
びっくりして固まっていた史華ちゃんが意図を理解したように、綾姉の胸に顔を埋めた。
「違うんです!不安がらせたのは私なんです!悪いのは私なんです、総士は何も悪くないんです。」
最後は消え入りそうな声になりながらも綾姉に訴えていた。
「そう?でもね、私は常々言ってることなんだけど男と女では男が悪いと思いなさい。浮気や犯罪以外なら甲斐性でなんとかしなさいってね。うちの弟にはそれくらいの甲斐性はあるわよ?実際にあの子怒ってないでしょ?」
史華ちゃんは小さく頷いた。
「ね?そんなことで狼狽えるような育て方してないわよ。」
「お姉さん。」
再び綾姉の胸に顔を埋めた史華ちゃんは綾姉をしっかりと抱きしめ返していた。
「はいはい。総士が帰ってきたら笑顔で迎えてあげてね。あの子には史華ちゃんの笑顔が1番の元気の源なんだから。」
♢♢♢♢♢
「吉乃さん、ステージ5分おしだから調整お願いね。」
「はい。」
「吉乃さん、さっき興奮した生徒がステージ上がってきたんだけど、捕まえたやつどうしか
「警備担当呼んでありますからしばらくお待ちください。」
「行く先々で小さな問題が起こってるわね。これは休む暇もないわね。」
結局、総士がいても一緒に回ることはできなかったんだと思うと暗い気持ちになります。
今日寂しかった分、次のデートではいっぱい甘えよう。
なんとか気持ちを切り替えて仕事をこなしていく、そう言えばうちのクラスの喫茶店はどうなってるんだろう?
ただでさえ生徒会に3人も取られて人手不足なのに、香澄ちゃん目当てで外部からもお客さんが来てるみたいなのです。
「雅が上手いことやってくれるはずだけど大丈夫かな?」
「うん?史華呼んだ?」
「ひゃぁ!」
「なによ、その大げさな驚き方。
そろそろ生徒会イベントはじまるから行こうよ。」
「突然後ろから話しかけないでよ!びっくりするじゃないの!」
雅がすぐそばにいるなんて考えてなかったので尚更大袈裟に驚いてしまいました。
「ふふふ。実は平川家は代々忍びの家系で、、、」
「空手家でしょ。」
「……ツッコミに愛が感じられない。」
「何よそれ、愛情たっぷりだったと思うけど?」
「史華の愛情は纐纈くん以外には注がれないのね。」
「はいはい。」
「だから愛情がね?」
「行くよ?」
「はいはい。」
「はいは1回。」
♢♢♢♢♢
ステージの袖から観客席を見るとなぜか超満員。なぜ?こんなイベントが面白いのだろうか?百歩譲って男子はわかる。
抽選に漏れた人が自分に立場を置き換えて妄想するのだろう。
しかし、女子はなぜ?
「ねぇ綾姉、女子は何目的で見にきてるんだろうね?」
不思議に思い綾姉に問いかけてみた。
「そりゃあんたの痴態を見に来たに決まってるでしょ?」
「痴態って何よ!綾姉プレゼンツでしょ!」
あまりの言い草に思わずツッコんだ。
「まあ、それは半分冗談だけど男子の願望でも見て参考にするんじゃない?こんなシチュエーションで告白されたいんだってね。みんな乙女なのよ。」
ああ、なるほど。
納得納得。
選考漏れしたシチュエーションには裸にエプロンでとかメイド服でとか訳の分からないものが多かったけど、選ばれたのは服装の指定とかは元からないソフトと言うか常識的なものばかりだったもんね。
「聖川さん、そろそろ準備お願いします。」
実行委員に呼ばれて最終打ち合わせをする。
「一回一回確認してもらって大丈夫だから、妄想男子の願いを叶えてあげてね。」
「あははは。まあ頑張りますね。」
これがそうちゃん相手ならよろこんでするんだけどなぁ。
「聖川さん!」
背後から呼ばれて振り返ると緊張した面持ちの男子が立っていた。
「イベントに参加する2-Cの佐渡です。今日はよろしくお願いします。」
丁寧なお辞儀をされて思わず苦笑い。
「こちらこそよろしくお願いします。」
なんか嘘の告白って心苦しいなぁ。
みんなこんな嘘でよろこんでくれるのかな?
「5分前です。スタンバイお願いします。」
綾姉のナレーションでシチュエーションは展開されていく。
『放課後、1人教室に残っているところに後輩がやってくる』
「先輩!お1人ですか?」
後ろで手を組んで上目遣いでニッコリと微笑む。
「あ、ああ。ちょっとね。」
「ふ〜ん。ちょうど良かったです。私、先輩にお話があるんです。」
身体の前で手を組み意を決したような表情を見せる。
「先輩、ずっと先輩のことを見てました。先輩のことが大好きなんです。私を彼女にしてください!」
『きゃ〜!』
『うぉお〜!香澄ちゃ〜ん!俺にも言っくれ〜!』
観客席から悲鳴のような歓声が上がる。
演技でも恥ずかしいものは恥ずかしいね。
ってこれあと19回もするの⁈
♢♢♢♢♢
「ううぅ〜、酷い目にあった。明日から学校これないよ〜。セクハラにパワハラだ〜。綾姉のバカ〜!私1人晒し者にして〜!」
ウケた。
たしかにウケたよ?
ステージは大成功だったよ。
みんな満足してるよ。
私以外ね。
「うるさいわね。成功だったんだから文句言わないの。恥ずかしい?有名税だと思って受け取っておきなさい。」
「横暴だ〜!暴君だ〜!もういいもん、史華ちゃん癒して。」
史華ちゃんに抱きつくと頭を撫で撫でしてくれた。
「はぁ〜、癒される。史華ちゃん大好き。」
「はいはい、ありがとうね。」
「もう史華ちゃんと結婚するよ。」
「ごめんなさい。」
「早くない?もうちょっとのっ、、、ん?校門にいるのってそうちゃん?」
身体を起こし確認しようとすると、史華ちゃんがすでに走り出していた。
「総士!」
真っ直ぐに総士ちゃんに飛び込んだ史華ちゃんは顔を埋めて嗚咽を漏らし出した。
「ごめんね、ごめんね。」
何度も何度も謝る史華ちゃんをそうちゃんはギュッと抱きしめていた。
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