第78話 生徒会代表選挙 継承編

「さて香澄、ここに来てもらった本当の目的なんだけど。あ、誠さんは戻っていいよ。委員長が一緒だと不正を疑われちゃうから。」


「そうだね。戸締りだけはしっかりね。」


「誠さん。」


綾姉はさっさと出て行こうとする先生の手を強めに引っ張り、倒れかけたところで唇を奪った。


「お仕事頑張ってね、あ・な・た。」


「全く。もうちょっと自制するように。終わったらそっちの家行くから。じゃあ聖川さん、あとはよろしくね。」


固まった私の横をすり抜けて先生は仕事に戻って行った。


「うっわ〜、やっぱり姉弟だね。大胆と言うか羞恥心がないと言うか。」


「もう、いいから座りなさいよ。」

「はいはい。で綾姉の話って言うのは代表選のこと?」

「もちろんよ、出るよね?」


「ん〜、正直悩んでる。綾姉がやってきたことも理解してるつもりだよ。だからこそ悩んでる。私がやるとすると綾姉の模倣になっちゃうと思うんだよね。だって私、綾姉のこと尊敬してるもん。そうするといま以上のことなんてできないと思うんだよね。」


短期間とは言え綾姉の生徒会での取り組みを見てきたからこそ、そのすごさを理解している。私に綾姉以上の情熱で取り組めるか。

綾姉が生徒会に入ったきっかけは中学時代のそうちゃんへの嫉妬による嫌がらせを受けてたこと。すでに高校に進学していた綾姉が直接できることはほとんどなく悔しい思いをしていたらしい。弟おもいブラコンの綾姉はそうちゃんに高校では同じ思いをさせないように生徒会に入り、環境を整えて翔栄にくるように誘導してたみたい。


そんな綾姉の思いを古橋さんは打ち砕いてしまった。


「ねぇ香澄。あんた学校楽しい?」


楽しいか?


楽しいと言えば楽しいのかな?

勉強は嫌いじゃない、知らなかったことが身につくことで自分の自信にも繋がる。

友達も増えた。

人それぞれに個性があって、自分の思ってなかった解釈をすり人がいる。みんなでディスカッションするのも刺激があって私は好き。私の意見ご全て正しい訳じゃない。それを教えてくれる人がいるのは素敵なことだと思う。

それになんてったってそうちゃんがいる。

中学のときには半ば諦めてたそうちゃんとの高校生活。

彼女じゃないのはちょっと残念だけど、そうちゃんがいるって思うとしぜんと頑張れる気がする。


そう考えると学校って楽しいのかな?


「楽しいって思えるよ。うん。楽しい。いろんな人がいて刺激をもらえるもん。」


私を見ながら微笑んでいる綾姉の表情には少し憂いが滲んでいる。


「そうね。香澄のように楽しめている人がいる。その反面、学校にくるのが苦痛って人もいる。人間関係や学力の問題とかね。その全部を解決することなんて私達にはできない。だって先生たちにだってできてないんだよ?だからってそれを放っておきたくないの。これは私の自己満足。香澄はどう過ごしたい?学校で何がしたい?理想の学校生活を想像してみて。それが香澄のやりたいことだと思うよ。」


♢♢♢♢♢


「やりたいことか〜。」


私は湯船に浸かりながら考えていた。

例えば学校行事。

中学までは先生たちがほとんど準備をしてくれていた。でも高校はある程度は生徒に任せてくれる。生徒会に入ってわかったんだけど翔栄うちは結構、生徒の意見を尊重してくれる学校だ。生徒の意見を生徒会が集約して学校生活に反映させている。

年度末に先生方と生徒会で校則の見直しが行われるらしい。


「やりたいこととできること。理想と現実。



う〜ん!難しい!」


『ザバァ』


勢いよくお風呂から出てパジャマを着る。


「そうちゃんと話したいなぁ。明日走りながら相談してみよう。」


髪を乾かし、お肌のケアをしっかりしてからベッドに潜り込んだ。


♢♢♢♢♢


「学校楽しいか?なんだよ突然。」


朝のランニング。

そうちゃんに昨日の話をした上で聞いてみた。


「うん。そうちゃんの意見も聞いてみたいなって思って。あ、史華ちゃんの存在はとりあえず置いといてね。」


そうちゃんはこの前の事件の当事者。

中学時代のこともあるので、嫌な思いをしたのは間違いないだろう。だからこそ、今どう思ってるのかを聞いてみたかった。


「史華のことは考えずにか。でも出会いの場ではあるよな。恋人じゃなくても先生、先輩

、後輩も。今の友達関係がそのまま継続するわけじゃないけど、特に高校時代の友人関係って大人になってからも続くことが多いらしいからな。そういう意味ではいろんな人がいるから面白いのかもな。」


「出会いかぁ。たしかに高校時代の友達関係が続くのはよく聞くね。そう考えると学年を越えた交流って大事なのかもね。」


「だな。俺達みたいに部活やってないと特に繋がりないもんな。」


「それは生徒会入るときに綾姉にも言われた。他の学年にも繋がりを持ちなさいって。そうか、そうだね。もうすぐうってつけのイベントもあるしね。」


「だな。交流するにはいい機会だな。まあ、俺は史華とのデートの場くらいにしか考えて無かったけど、お前なら面白いこと考えつくだろ。」


それはどうなのよと恨みがましく睨んでおく。でも私が生徒会でやりたいことがなんとなく見えてきた気がする。


「そうちゃんありがとう。なんとなく方向性が見えてきたよ。史華ちゃんとイチャイチャできないくらい忙しい文化祭にしてあげるからね。」


ちょっとだけ、意地悪させてね。

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