第72話 幼馴染
小鳥のさえずり
カブのエンジン音
外はまだ薄暗いけど夜明けを迎えようとしている
「寝れなかったや」
体育祭の後、生徒会の反省会は長引くことが予想されたので後日に変更された。
「今度こそ愛想尽かされちゃったよね。」
昨晩からずっとネガティブなことしか頭に浮かんでこない。
『ブブブ、ブブブ』
スマホのアラームが鳴る
そうちゃんとランニングに行くために起きる時間だ。
きっと鏡を見るのがこわいくらいの表情になっていると思う。
軽くシャワーを浴びたが、ロクに乾かさずにタオルで水分を拭き取っただけ。お肌の手入れなんて考えてもいなかった。
「そうちゃん待ってくれてるかな?」
「ないか。」
自問自答をして苦笑いをしてしまう。
『ブーブー、ブーブー。』
着信を知らせるバイブ。
スマホをみるとそうちゃんの名前。
「はい。」
『気分でも悪いのか?』
そうちゃんの声は穏やかな口調で私の緊張をほぐしてくれた。
「そうちゃん、ごめんね。いつもいつもごめんね。」
枯れるほど泣いたはずなのに涙が取りどめなく溢れてくる。
『なんだよ、手繋がれたくらいで怒るほど短気じゃねえよ。』
「うん。」
よく知ってるよ。
小さい頃からこんなめんどくさい私と一緒にいてくれたんだもん。
『今日は走らないか?』
「ごめん、準備できてないや。」
『まだスケスケのネグリジェ姿か?』
「紫のね。このまま行こうか?」
いつもならこんな話しないくせに。
『ピンクの時にな。』
くだらない話で和ごましてくれる。
「持ってないよ。」
『そうか。じゃあ俺は走ってくるから。少しくらい寝とけよ。』
寝てないこともお見通し。
「そうちゃん。」
『ん?』
「大好き。」
『11回目か?』
「忘れちゃった。」
『じゃあ、また明日な。』
「うん。明日ね。」
近いようで遠い存在。
幼馴染じゃなかったら?
「相手にされてないかもね。」
じゃあ幼馴染で良かった?
「うん。やっぱり生まれ変わっても幼馴染になりたいよ。」
♢♢♢♢♢
「休みのところ集まってもらって申し訳ない。」
体育祭翌日、私は生徒会役員として生徒会室に呼び出されていた。
「昨日の紅白対抗リレー後のいざこざについて少し問題になっています。とりあえずは生徒会預かりにしてもらっているので事実確認をしたいと思います。」
進行役の綾姉から本日の議題が発表された。
学校への道中で綾姉から説明を受けていた。
数人の生徒が1人の生徒を罵倒していた。
その生徒に慌てて駆け寄った生徒がいた。
それを先生方が見ていた。
体育祭終了後、職員室に呼び出された綾姉は被害にあっていたのが弟だということで事件の扱いをどうしたいかを確認され、生徒会で対処させて欲しいと伝えて私達を集めるに至ったらしい。
「ほんとに面倒なことしてくれて!」
こんなに感情をあらわにする綾姉も珍しい。
「ごめんね綾姉。私がもっとしっかりしてればこんなことにならなかったのに。」
「あんたもそのネガティブ思考、大概にしなさいよ。私は昨日から何回もあんたのせいじゃないって言ったでしょ。あんたのそれは私の気持ちも欺く行為だよ。」
呆れ顔の綾姉は踵を返してさっさと先に行ってしまった。
「総士とは話せた?」
「うん。今朝電話してきてくれた。」
「あの子は怒ってた?」
「ううん。スケスケのネグリジェ着てるのかって聞かれた。」
「何それ?まあ、おバカな話はいいとして香澄が気にすることはないってこと。昨日の夜に史華ちゃんとに電話して総士の様子聞いたけどあまり気にしてないって言ってたし。問題は生徒会長が主犯だってことよ。先生もそのことは把握してるから。」
♢♢♢♢♢
『コンコン』
「入るぞ。」
生徒会室の扉が開かれ、顧問の倉重先生が入ってきた。
「おう、みんなお疲れさん。纐纈どこまで話した?」
先生は空いてる椅子に腰掛けると綾姉に確認した。
「まだ問題提起のみです。昨日古橋くんと聖川さんから話は聞いてますので、その際確認を今からするところです。」
倉重先生は32歳の現国の教諭。
清涼感があり優しい大人の男性って感じなので女子からの人気ナンバーワンの先生。
みやびちゃん情報によると、倉重先生目当てで生徒会入りを狙ってる人もいるとか。
「ーーーと言うことで、僕の軽率な行動が今回の騒ぎの原因です。お騒がせして申し訳ありません。」
古橋会長が倉重先生に深々と頭を下げて謝罪した。
「うん、謝る相手は俺じゃないだろ?纐纈、今回の相手は君の弟だろ?今日は呼んでないのか?」
先生は周りを見渡した後、綾姉を見た。
「はい、一応弟含めて関係者から話は聞いたのと、弟が外せない用事がありますので呼んでいません。先生自身が弟から話を聞きたいということでしたら月曜日に先生を訪ねるように伝えますが?」
倉重先生は少し考えた後、軽く手を振って不要だと伝えた。
「君が確認したならいい。身内びいきなんてこともしないだろう。さて問題は主犯が生徒会のよりにもよって会長だと言うことだ。」
先生は古橋会長をじっと見つめて出方を伺ってるみたいだ。古橋会長は緊張の面持ちで視線を彷徨わせている。
「先生、任命責任は私にあります。」
「いま、君には聞いてないよ。少し待ちなさい。」
「すみません。」
倉重先生に戒められた綾姉が大人しく引いた。
「先生、俺は会長を辞任すべきだと思っています。もちろんそれで全て解決するわけではないですがケジメとして辞任します。」
古橋会長は先生に意思表明した後、綾姉に向き合った。
「纐纈。あと少しだって言うのにこんな形で終わって申し訳ない。」
綾姉は苦々しい表情で話を聞いていた。
「全く。約束一つ守れないなんて男としてどうなのよ。まあ、今更だからいいわ。先生、任期まで残り1カ月ですが会長不在というわけにはいかないので代理で庶務の聖川にさせようと思います。1年なので経験を積ませるにはいい機会ですから。」
本人を無視して話が進んでいく。
「まあ、いまの代表は君だから好きにしなさい。じゃあ聖川さん、頑張ってね。」
先生はそう言うと足早に出て行った。
「じゃあ、今度の生徒総会でこのことを発表します。みんなそのつもりでよろしくお願いします。じゃあ今日は解散します。」
「えっ?ちょっと綾姉?そんなあっさりでいいの?私が会長?」
「代理ね。まあ1カ月だから気楽にね。その間に文化祭の準備があるけど気にしないでね。」
綾姉の表情からは嫌な予感しかしない。
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