第64話 未来予想図
「えっち。」
初めて女の子の胸を触った。
柔らかかった。
史華は小さいと気にしているけど、揉んでも十分のサイズだと思った。
大きければいいってもんじゃないしな。
ひょっとして嫌な思いをさせたかなって心配したが、その後史華からキスをしてくれたくらいだから問題ないだろう。
観覧車を降りてからも史華は顔を赤くしたまま俯いて歩いてる。
「史華?」
「ん?」
俺の問いかけに俯いたまま答える。
手はしっかりと握ったまま、指も絡めたまま。
「ずっと俯いてると突然キスされて危ないぞ。」
史華に顔を近づけて言うと身体をびくつかせて俺のを潤んだ瞳で見つめてくる。
「今日の史華が可愛すぎてついついやり過ぎちゃったかも。でも謝らないからな、将来的には俺の子供産んでもらうんだから、そのためのステップだ。」
とりあえず今日はこれ以上はしないけど、近い将来次のステップに進むつもりだ。
「ばか。」
相変わらず史華は俺の左腕に抱きついている。
出会った頃はクールな印象もあったのに、今では皆無だ。
コロコロ表情が変わってかわいい。
「ね、総士。この後はどうするの?最後の予定だった観覧車には乗ったしご飯食べて帰る?」
不安な表情で史華が聞いてくる。
まだ帰りたくないようだ。
「今日は帰さないぞ?」
「えっ?」
「って訳にはいかないんだけどな。朝お母さんと約束したし。今日はお借りしますって。せっかくだからポートタワーで夜景観てから晩飯にしようぜ。」
遊園地の隣にあるポートタワーからは街並みのみならず、工場夜景までも楽しめるので最近は人気のスポットになっている。
「な〜んだ。私はお泊まりでも良かったのにお母さんとそんな約束してたのね。残念。」
史華は上目遣いで俺を見ながらおちょくるように言ってきた。さっきから俺にやられっぱなしなので隙を見つけたと思ったのだろう。
「ん?いいのか?じゃあお母さんに許可取るから連絡先教えてくれ。」
おもむろにスマホを出して電話をする準備をすると、史華がワタワタと慌て出した。
「えっ?いや、でもお母さんが良くてもお父さんが。」
俺からの視線を外して所在なさげにしている。
「じゃあ両方に許可取ればいいんだろ。で、番号は?」
「さ、さすがにお父さんがいいって言うわけないよ。」
「聞いてみなければわからないだろ。ほら、教えろよ。」
「あ、お父さん今日は仕事だから連絡つかないと思うよ。だから今日は無理だよ。」
「どうあっても教えない気だな?それなら公佳に聞けばいいか。デートの邪魔しちゃ悪いけど連絡してみるか。」
そのまま公佳のトーク画面を開いて耳に当てようとすると、史華の手が邪魔をした。
「ごめん。調子に乗りました。謝るから今日は普通に帰ろうね。」
「さすがにそこまで必死に拒否されると傷つくわ。」
冗談のつもりで言い出したことだけど、あまりに史華が必死になるもんだから俺としても傷ついてしまう。
かと言ってせっかくの初デートで楽しい雰囲気をぶち壊したくもない。結論。
「ちゅっ。」
俯く史華の顔を上げさせ、行き交う人の目を無視してキスをした。濃厚にね。
「さ、夜景観に行くぞ。混んでからだと夜景観ながらイチャつけないだろ。」
唇を解放すると史華は目をパチクリさせている。
「あ、うん。」
イチャつくことに関しては拒否しないみたいだ。というか聞き逃したな。
♢♢♢♢♢
近年、工場夜景なるものが人気を博していてツアーまで組まれていることは知っていたが、ここまですごいとは思わなかった。
ポートタワーの展望室に着くとすでに混雑していた。
「あー、出遅れてたか。」
「本当すごい人だね。」
とりあえず夜景が見える位置まで移動しスペースを確保する。
小さい史華が埋もれてしまわないように、後ろから抱きかかえるようにして夜景を観ていた。
「ねぇ、総士。」
「ん?」
「今日はありがとうね。2人でいるだけでも充分なのに、こいやってお出掛けすることで特別な思い出にすることができるよ。」
「そうだな。」
史華の顔を覗き込みながら答える。
すると史華はニッコリと微笑む。
「将来、子供に今日のこと教えてあげなきゃね。『お父さんとここでデートしたのよ』ってね。」
両肩にかけられた俺の腕を抱きかかえながら顔を埋めている。史華も俺との未来予想図を描いてくれている。
「子供は男女の双子がいいな〜。」
「それ、香澄ちゃんも言ってた。」
史華は不満そうに頬を膨らませている。
「それ言い出したの俺だからな。あいつが真似してるだけだから。双子って遺伝しやすいんだろ?史華との子供なら可能性高いかもな。」
あくまで理想。
確かに子供は欲しいけど史華と2人でも全然問題ない。ずっと恋人のように歳を重ねるのもいいと思う。
「あの光のひとつひとつに家庭があったりするんだよね。私達も早くあの仲間に入りたいね。」
「だな。」
お互いの視線を合わせて笑い合った。
♢♢♢♢♢
「さて晩ご飯どうしようか?この辺で食べるか地元戻ってから食べるか。史華お腹空いてるか?」
「あまり空いてないかも。時間も遅いし軽めでもいいかも。そうすると総士が足りないかな?」
お腹と言うよりも胸いっぱいと言うべきかな?とりあえず一緒にいられる時間を有効に使いたい。
「俺も夜は軽めでいいよ。遅くならないようにこの辺で軽く食べようか。」
とりあえず駅まで歩いていく途中で気になるお店があれば入ることにしました。
辺りもすっかり暗くなっているが、史華と2人手を繋いでぶらぶらと散策。
「こんなに長い時間一緒にいたの初めてだな。学校じゃあクラス違うし、バイト中は忙しくてそれどころじゃないし。こうやって2人でゆっくりできるっていいな。」
「私も総士と一緒にいられる時間は大切にしてるよ。限られた時間しかないんだもん。でも今は仕方ないって割り切ってる。まだ高校生だもんね。」
そう。今は我慢するしかありません。
お互いに足を引っ張り合うのだけはしたくない。総士は将来有望な選手。当然、プロの道に進むつもりでしょう。
「ねぇ、総士は高卒でプロになるの?」
「いや、ちょっと迷うところだな。将来的なことを考えると選手生命って精々30代半ばだろ?そう考えると若いうちに仕事を経験しておきたいって考えもあってさ。もちろん海外からのオファーがあればそんなこと言ってられないけどな。実際のところ今も正式なオファーじゃなくて打診だけは数チームからもらってる。どちらにしろ高校は卒業するつもりだからあと2年は悩むさ。」
びっくりした。
総士の将来はすでに現在進行形でした。
なれればいいなという段階をすでに越えていたなんて。
「そっか。初めて聞いたからびっくりしちゃった。」
「打診なんてのは来る気があるかどうかだけだから確実性なんてないぞ。それより史華は卒業後のことは考えてるのか?卒業と同時に嫁入りでもいいぞ。」
イタズラな笑顔をする総士だが私がそれを望めば必ず叶えてくれると思います。
でも、私にも小さい頃からの夢があります。
「とても魅力的なオファーだけど、すぐにというのは現実的に無理かな?私にも夢があってね。」
「うん。」
「お父さんの仕事を手伝って過疎化してる地域の活性化をしたいの。」
総士は真剣な顔でじっと聞いてくれています。
「うちは代々大工の家系だったらしいんだけど、おじいちゃんが事業を拡大して住宅メーカーになったの。それで宅地造成をして団地を作ったの。その当日は若い人が集まって周りには商店街ができたりして地域が活性化したんだって。でも、お父さんの代になった今は空き家が目立ち、商店街もシャッター街になっているんだって。そういう地域って全国にいっぱいあって、今も増え続けてるの。だからね、またみんなが住みたくなるような街にするお仕事を私はしたいの。」
そう、これは私が小さい頃から働く父の背中を見ながら抱くようになった夢。
もちろん公佳も同じ思いでいます。
「それは大変な仕事だな。史華がやりがいを感じるのもわかる気がする。もちろん応援するぞ。」
総士の手が私の頭の上にポンと置かれる。
「その夢は俺の側で叶えてな。」
もちろんそのつもりだよ?
だからね。
「もう一つの夢は総士が叶えてね?」
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