第63話 えっち
お弁当を食べ終わると、シャチのショーを見るために会場へ移動しました。さすがに濡れるの覚悟で最前列に座る勇気はなく、安全を確保できそうな場所に腰を下ろしました。
今朝は4時半起きです。
いつもなら眠たい時間だけど子供のように興奮してた私は朝から元気でした。
「まずは煮物からやろうかな。」
ここ数日、この日のためにバイトがない日の夕食は私が担当していました。
予習はバッチリ。
お母さんにも太鼓判をもらいました。
お父さんは突然料理に目覚めた私に訝しながらもおいしいと食べてくれました。
そして今日、緊張をなんとか隠しながら総士にお弁当を振る舞う。
「おお〜!めちゃくちゃうまそう!これだけ作るの大変だったろ?ありがとうな。」
喜んでくれました。
私もうれしくてたまりません。
しかも毎日食べたいって!
まるでプロポーズみたいに。
総士はいつもそう。
不安な私を安心させてくれる。
それと同時に羞恥心までくれます。
私が慣れないとだめなんだと思います。
いまさら何も言ってくれなくなるも嫌です
。
「史華。水族館なんだけど今日のところは一周だけにしないか?一通り見たら遊園地行こう。見たいところがあればまた今度こようぜ。」
当たり前のように次を約束してくれる総士にも、私との未来予想図が描かれているならうれしい。
「うん。また一緒に来ようね。」
頑張って作ったお弁当は総士が残さず食べてくれた。最後なんて物足りなさそうにお重を眺めてました。
シャチのショーを見終わった総士が、
「シャチよりもショーに夢中の史華に見惚れてた。」
なんて言うので私はうれしいやら恥ずかしいやらで俯いてしまいました。
その後は総士の提案通り館内を一回りして水族館を後にしました。
「さてさて遊園地だけど、史華は絶叫系は大丈夫か?」
「うん、結構好きだよ。でもここの遊園地に絶叫するほどのアトラクションってあった?」
事前にネットで園内のチェックをしたけど高校生が怖がりそうなものはなかったはずです。
「そうか。じゃあ夏の風物詩のお化け屋敷に行こう。」
「ちょ、ちょっと待って!お化け屋敷は乗り物じゃないから!それは断固拒否します。」
総士から距離を取り、いつでも逃げれる体制。
「あはははは。史華が嫌なら無理には行かないって。だから、ん。」
距離を取った私に両手を広げておいでと誘ってきた。
恐る恐る総士の胸に頭を預けると、いつものように頭をポンポンとしてくれた。
「もういじわるなんだから。」
そのまま顔を埋めて抗議。
私はこうしてる時が1番幸せなのかもしれない。
「とりあえずジェットコースターあたり乗ろうか。」
「うん。絶対だよ?ジェットコースターだからね?変なところに連れて行かないでよ?」
警戒感を滲ませながら総士の腕に抱きつく。
「ふにっ。」
少し力加減を間違えてしまったようで勢いよく胸を当ててしまった。
「くくく。変なことってどこだよ?このタイミングで押しつけちゃだめでしょ。」
「わざとじゃないから!」
もう、恥ずかしい。
まるで私が誘ってるって勘違いさせてもおかしくない行動をしてしまいました。
「そんなムキになって抗議しなくても。ちゃんとわかってるからいいよ。」
「私も総士がわかってくれてることをわかってるよ。今のも総士は全然悪くないもん。私が空回りしただけ。そろそろ慣れなきゃ。恥ずかしがるだけじゃだめだね。」
こんなんじゃイニシアティブどころの騒ぎじゃないね。
「そんな史華も好きだから変に考え過ぎるなよ?いまさらどんな史華見せられたって嫌いになることはあり得ないからな。ほら、そんな顔してないで遊園地楽しむぞ。」
「ん。」
総士に手を引かれてジェットコースターの列に並ぶ。
いま考えてもおかしなもので、私に彼氏がいて遊園地でデートをしています。
去年の私には想像もできないことです。
中学時代の私は特に異性を気にすることはありませんでした。公佳のように誰かに告白されたことは・・・まあ、少しはありましたけど付き合うなんてことは全く考えていませんでした。
そんな私がこんなに好きな人ができ、付き合うことになった上にすごく大事にしてもらってる。
私の右手はいつも総士の左手と繋がっています。
私の心は総士の心と繋がっています。
視線を上げれば総士が微笑んでくれます。
右手の指を絡めて身体ごと腕に抱きつく。
本当は胸が当たろうが関係ありません。
私が総士にくっつきたいんだから。
「ねぇ総士。最後は観覧車に乗ろうね。」
総士を見上げると視線が交わる。
「ん。締めは観覧車な。この後いくつアトラクション乗れるだろうな。他に乗りたいものはあるか?」
「う〜ん?正直観覧車がメインだったからこれってのはないんだけど、強いて言うならバイキングとブランコみたいなやつかな?そんなに混んでなさそうだし、すんなり乗れるんじゃないかな?」
「了解。」
ファミリー向けて侮っていたジェットコースターが思いの外怖く、降りた後はしばらく総士から離れられなかったのでベンチで休憩と言うアクシデントに見舞われ、そのまま夕暮れ時となったので観覧車に乗りました。
「海に夕陽が沈むみたいで綺麗ね。」
「だな。」
対面に座る総士との距離が遠く感じてしまいます。
隣に行きたいな。
そんなことを考えてると、総士から隣に来てくれました。
「こんばんは。」
隣に腰を下ろした総士が微笑むので、私は総士に身を任せます。
やがて観覧車は高い位置に上がると景色ではなく総士に視線が固定されていました。
左肩を抱き寄せられた勢いでキスをされました。
「んっ、ふぅん。」
舌を絡められたキスなのでクチュクチュと音が出てしまいます。
総士に身を任せていると、右手で頭を撫でられたかと思っているとその手がそのまま下に降りてきました。
「ん?」
口は塞がれたままなので言葉にはなりません。
総士の手は頭から首を経て私の胸に到達しました。
「んんんっ!」
突然のことに驚きはしましたが嫌ではありません。
総士の手は私の胸の形を確かめるかの様に優しく触れ、一通り確かめると少し形が変わるくらい揉まれました。
「んんんっ、ンツっ、んん〜!」
初めてのことで私自身、おかしくなっているとしか思えなくなっています。
恥ずかしいんですが、そこには嬉しいという気持ちも確かにあります。
やがて観覧車が降り始めると総士に塞がれていた口が解放されました。
「ちょっと強引だったかな?」
耳元で囁く総士に
「えっち。」
と囁き返し今度は私から総士の口を塞ぎました。
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