第61話 デートに行こう!

『ピンポーン』


待望の日曜日。


史華が弁当を作ってくれると言うことだったので荷物持ちも兼ねて家まで迎えにきた。


スマホに直接連絡して呼び出しても良かったんだけど、それだとお父さんお母さんを避けてるみたいで嫌だった。


「はーい。」


ん?お母さんかな?


「朝早くにすみません。纐纈といいますが史華さんを迎えに来ました。」


「あ、総士くんね。いま準備してるからちょっと待ってね。」


「はい。」


待つこと数秒。


ガチャと音と共に玄関が開いた。


「おはよう。朝早くからお迎えありがとうね。」


史華のお母さんには中学時代からチームのイベント等で会ってはいたけど、挨拶程度で会話らしい会話をしたことはない。


「おはようございます。朝早くからお騒がせしてすみません。」


「いつも史華と仲良くしてくれてありがとうね。何日も前から準備してたのよ。よっぽど楽しみだったみたい。」


お母さんは優しく微笑んでくれた。

その笑顔は双子とそっくりであり、親子だという認識を強くした。


「素直にうれしいですね。俺も楽しみにしてました。学生のくせに中々休みが取れないので、貴重な休みを史華さんと過ごせることに幸せを感じてます。」


もう少し時間を取れるといいんだけど、中々ぬね。本当に同棲したいんだけど現実的じゃないし。


「総士くんって中学の頃からしっかりしてるわよね。いつも感心してるのよ。何より史華を大事にしてくれてるのが好印象ね。」


「好きな子を大事にするのは当たり前ですけどね。お母さんが言うほどしっかりしてないですよ。まだまだ子供だって認識してます。

なので今日は娘さんをしますね。」


お母さんは一瞬びっくりした顔をしただけで、すぐに笑いかけてくれた。


「ふふふ。公佳に聞いていた通りだね。そうね。しばらくはあげるね。ねぇ、総士くん。そのうちにきてくれるつもりなのかな?」


笑顔の中にも真剣さが伝わってくる声色でお母さんに聞かれた。


「もちろん。そのための努力は欠かしてませんよ。お父さんと一緒に待っててくださいね。」


お母さんの目をしっかりと見ながら答えた。


「総くんおはよう。お迎えありがとうね。」


玄関のドアから公佳が顔を出してる。


「公佳、おはよう。お前もデートか?」


「お昼から映画に行く予定だよ。久しぶりの休みだからね。総くん達に負けないようにラブラブしてくるね。」


あまり上手くいってないのかと勘ぐっていたけど問題なさそうだな。


「ところで総くん、さっきからここに真っ赤な顔で固まってる人がいるんですけど迎えにきてもらっていいかな?」


なんだ、史華もきてたのかと思いつつ玄関口までいくと、俯きながらプルプル震えてる史華がいた。


「なんだいたのか。おはよう史華、全然こないから心配したぞ。」


今日の史華はボリューム袖のプルオーバーブラウスにチェックのキュロットという秋らしい装いをしている。


「お、おはよう。」

史華は消え入るような声でやっと口を開いた。


俺は史華の肩にかかっていたトートバッグを受け取り、いつものように右手を握った。


「あらっ。」

「はぁ〜。」


お母さんと公佳から声が漏れてきた。


「えっ?何?」


俺が不思議に思い公佳に尋ねると、


「いや、お母さんもいる前で躊躇なく手を繋げる総くんがすごいなって思って。ほら、史華も固まって動けないし。」


お母さんは終始にこやかにしている。


「なあ、俺って変なのか?」


公佳に問いかけてみた。


「う〜ん。変とは言わないけど正直と言うか鈍感と言うか。私はいいと思うよ?史華は戸惑ってるみたいだけどね。」


はぁ〜。そんなものか。

俺は繋いだ手を離し、史華の頭をポンとして外に誘った。


「じゃあ史華さんお借りします。」


お母さんに一礼して門をくぐった。


俺の後に続いて史華が出てきたが、さっきまでとは違い焦った様子だった。


隣に並び歩き出すと史華が勢いよく手を握ってきた。


意外な行動に史華を見ると涙目になっていた。なにか必死な表情。


「嫌な訳じゃないから。だから離さないで。」


なるほど。史華が恥ずかしがってたから手を離したのを俺が機嫌を損ねたと勘違いしたのか。


「史華。今日の格好もかわいいな。史華によく似合ってる。」


♢♢♢♢♢


「はぁ〜、噂以上にラブラブね。」


必死に総くんを追いかけた史華の背中を見送りながらお母さんが呟いている。


「総くんは周りの目を全く気にしないからね。史華もしっかりと感化されてるからね。でも、あの淡白そうな総くんをあそこまでにした史華もすごいよね。」


「そうね。史華も随分と柔らかくなったわね。恋する乙女は違うわね〜。でも、公佳の時はあまり変わらなかったわね。なんで?」


私も一応恋する乙女のつもりなんだけど、お母さんの認定はもらえないのかな?


「カズくんは奥手だからかな〜。不満があるとかじゃないんだけど、史華見てるとね。正直羨ましいかな。」


カズくんはカズくんの良さがあるからね。

比べるものじゃないしね。

さあ、今日こそは恋人繋ぎで街歩きするぞ〜!


♢♢♢♢♢


はぁ〜、総士に変な気使わせちゃったかな?

まさか手を離されるとは思わなかったし、あそこまで自分が焦るとも思わなかったよ。

自分で意識してる以上に総士に依存してることにびっくりしたな。

でも、総士はそれを望んでくれてるのかな?


流れる景色を見ながら考えていたが答えが出ることはなかった。

隣に座る総士の肩に頭を預ける。

電車の中で甘えるなんていつもなら恥ずかしくてできないけど、今日はすごく甘えたい気分。

総士を見ると優しく笑いかけながら頭を撫でてくれた。


「どうした?今日はいつもにも増してかわいいな。」


「ふふふ、ありがとう。私ね、今日が楽しみで仕方なかったんだ。何日も前からお弁当の献立考えて、今日の服を選んでなんか舞い上がっちゃってるみたい。だからいつも以上に総士に甘えたい気分なのよ。」


数日前からフワフワ気持ちが落ち着ませんでした。理由はわかってました。

デートだから。夏祭りには行ったけど、あれはバイト帰りだったし。


「お〜、それは気兼ねなく史華を可愛がれるってことだな。俺も今日が楽しみで仕方なかったよ。」


さすがの総士も電車内でキスはしてこなかったのを安心したような残念なような複雑な感情を抱きました。

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