第58話 体育祭実行委員

「まじか。」


体育祭が近づいた9月のある朝、実行委員を決めると言うことで話し合いが持たれた。クラスから男女1人づつ選出しろと。


誰が言い出したのかスポーツができ、時間に余裕がある人だそうだ。


学校行事であるが故に運動部所属の奴らは免罪符が与えられた。


「葛城か纐纈じゃね?」


無責任なやつの発言により俺かソウのどちらかがやらなければいけない雰囲気になっている。


『やれやれ。部活がなくてもクラブでの練習も英会話もあってそこそこ忙しいんだがな。それでもバイトで忙しいソウよりかはマシか。』


ソウの方を見ると呑気に欠伸をしてやがる。


「仕方ねぇ。やってもいいぜ。」


無駄に時間をかけるのも馬鹿らしいと思い渋々引き受けた。


「おっ!さすが葛城くん男前。さあ、この男前と一緒に実行委員をやってくれる美少女はぜひ立候補して!」


そう言うのは担任の鈴木晴子すずきはるこ


「はるさん、そんな言い方だと誰も手上げないっす。逆効果っすよ。」


俺はため息混じりで抗議した。


「ん?お前の目は節穴か?ほれっ、そこ。」


はるさんは顎をクイクイっと動かして視線を誘導する。


俺の斜め後ろの席に座っている増田留衣ますだるいだ。

数少ない同中のクラスメイトだが、中学時代は同じクラスになったことがないため、これまでにあまり話したことはない。


たしか史華と同じテニス部だったよな?他にわかることは・・・。

いろいろ思い巡らせていると視線に気付いた増田がビクッと体を震わせた後、小さな声てで「よろしくね。」と言ってきたのを辛うじて確認した。


「カズマ。」


呼ばれた方に視線を送るとソウが両手を合わせている。


「わりぃ、気使わせちまった。」


さすがは親友バレバレだ。

俺は前に向き直り左手をヒラヒラさせてソウに返事をした。


放課後、さっそく委員会が行われるということで、増田と一緒に視聴覚室に向かった。


「増田って同中なのに話したことなかったな。確か中学の時はテニス部じゃなかったっけ?今はやってないのか?」


俺の隣を歩く増田は、たぶんキミよりは背が高いだろうけど身体が縮こまってるのか小さく見える。


「えっ?あ、うん。テニス部だった。いまは文芸部。元々スポーツは得意じゃないんだけど中学の時は友達に誘われて。」


うちの高校に文芸部なんてあったのか。と言うか部活自体に興味がないからどんな部活があるのかも知らないけど。


「葛城くんはサッカーやってるんだよね?部活じゃないんでしょ?委員会出て大丈夫?」


「まあ、期間限定だから。事前に連絡しておけば多少の融通は効くから。」


そんな他愛のないやり取りをしながら視聴覚室までくると、室内の席は半分くらいが埋まっていた。


「フミちゃん。」


クラス順の席に座るため隣にはA組。どうやら史華が委員に選ばれたようだ。


「ソウじゃなくて悪いな。」


席に座りながら史華に言うと、


「総士は忙しいから。な葛城くんが引き受けてくれて助かったわ。」


デートする暇すらないってボヤいてたからな。まあ同情はするさ。


「そうか、フミちゃんは纐纈くんと付き合ってたんだっけ。フミちゃんと纐纈くん。葛城くんと纐纈くん。うん。どっちもありね。」

ん?増田は何を言っているんだ?史華は引きつった顔してるし。


「は〜い。とりあえずみなさん、席に座ってください。」


だいぶ人が集まってきたので、委員会進行役の生徒会役員が開始の準備を始めた。

新役員の聖川さんがせっせと働いている。


「聖川さん、手伝えることがあれば言ってくれ。ちゃちゃっと終わらせよう。」


「おー、B組は葛城くんか。うん、アテにしてるからよろしくね。」

聖川さんが微笑みながら言うと室内からはため息が聞こえてきた。

どうやら聖川スマイルは男女を骨抜きにしてしまうらしい。


「はいはい。早く帰りたいと思ってるなら協力してくれるかな。まずは席に座ろうか。」


ソウの姉さんである副会長がみんなを座らせると、自然の流れで委員会が始まった。


まずは委員会の組織作り。


これはほとんどが3年生だけで話は終わった。


それからはプリントが配られ、競技の参加者リストの作成。準備の役割が決められた。

今後2週間は委員会で拘束されそうだ。

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