第57話 庶務に香澄

翔栄高校の月曜日は全校集会から始まる。


「ここで生徒会からお知らせです。」


司会の先生に促されて私は壇上に上がる。

副会長ながら生徒会の代表は私なので、お知らせなどがあれば私が伝える役割となっている。


「おはようございます。生徒会からのお知らせです。本日付けで生徒会に1名加入いたします。」


私はマイクから離れ、その人物を招き入れる。


「みなさん、おはようございます。

この度、生徒会庶務に任命されました1-Aの聖川香澄です。これから覚えていくことばかりで戸惑うことも多いかと思いますが、みなさんと一緒に高校生活が楽しくなるように頑張りますので、ご協力お願いします。」


『お〜!』と地鳴りのような歓声が生徒から上がる。首席入学、人を惹きつける美貌、明るい生活。学年を越えて知られている私の妹分は壇上で堂々と自己紹介をした。


「はい、ありがとう。」


香澄からマイクを奪い取りその他の連絡事項を伝える。


「では、その他の連絡事項です。先日サッカー部の部室の不適切な使用が発覚しました。それによりサッカー部は年度内の活動停止。部室の没収処分となりました。他の部活のみなさんも今一度活動内容を見直し、充実した部活動を送って下さい。」


壇上から親友が項垂れている姿が見える。

冴子は今日に至るまで罰則の軽減を訴えてきたが私をはじめ、先生方も拒否した。

事前にあれだけ注意勧告をしたのに手を打たなかった冴子に同情の余地はない。加えてサッカー部員に向けられる目は厳しくなるので些細なことでも注目されることになるだろう。


ん?ここで生徒達の視線が私に向けられてないことに気付いた。


「香澄?あんたなんでまだいるの?」


隣を見ると香澄が極上の笑顔で愛想を振り撒いている。


「えっ?私降りて良かったの?綾姉と一緒に降りるんだと思ってたよ。」


なんであんたはここで天然かましてるのよ。

生徒達からクスクスと笑い声が聞こえくる。

私達のやり取りをマイクが拾っていた。


「香澄ちゃん、かわいい〜。」

「天然系だったんだ。」

「綾姉って副会長と仲良しなんだ〜。」


やれやれ、このミスのせいで香澄人気に拍車が掛かったかも。

女は少し隙がある方がモテると言うけど、こんなところで披露してしまうとは思わなかった。


「生徒会からは以上になります。」


「ほら、香澄降りるよ。」


未だにニコニコ愛想を振り撒いている香澄を連れて舞台袖に消える。


「はあ〜、緊張した。」


舞台袖に着くと香澄が安心したように呟いた。壇上では堂々としていたのに。

今の香澄をみんなが見ると、また人気に火がついちゃうんだろうな。


「香澄、とりあえず終わりだからクラス戻っていいよ。放課後生徒会室集合ね。」

「了解。」

かわいく敬礼した後、足早にクラスメイトの列に戻って行った。


♢♢♢♢♢


「失礼します。」


放課後、召集の掛かっていた生徒会室に行くと、中には綾姉が机に座り作業をしていた。


「今日はちゃんと来たね。香澄の席はちょうどあんたの目の前の席ね。とりあえずは座ってみんなが来るの待ってて。」


視線を書類に戻し、作業をしながら私を席に誘う。グラウンドからどこかの部活の掛け声が聞こえてくる。


室内は綾姉が書類にペンを走らす音が聞こえるのみ。


スマホを弄るわけにもいかないので、席に座り綾姉の作業姿を見つめている。


俯いた状態で作業をしているので表情はわかりにくいが、真剣な表情でペンを走らす綾姉は昔から憧れてやまないの姿だ。


私は長女で妹もいるんだけど、綾姉とそうちゃんと一緒に育ってきたために姉の意識があまりない。


たぶん清香に聞いても綾姉の方がお姉ちゃんという印象が強いと思う。


両親が多忙で纐纈家で幼少期を過ごしたと言ってもおかしくない私達だけど、翔子さん纐纈母だって四六時中私達の側にいた訳じゃない。

だからお世話係は長女の綾姉だった。


「ねぇ綾姉。」


「ん?」


「こうしてるとね、小さい頃思い出すね。みんなで宿題してたはずなのに気付いたらそうちゃんと清香はどこかに遊びに行っちゃって残ってるのは私の綾姉だけ。」


その光景を思い出すと自然と笑みがこぼれた。


「なに感傷に浸ってるのよ。そんなこと考えれないくらいこき使ってあげるからね。」

綾姉の表情は悪巧みをしているときのようだった。


「お疲れ様〜。」


扉が開かれ他の役員の生徒達が入ってきた。


「とりあえずみんな座って。新人が入ってきたから軽く挨拶しましょうか。」


綾姉がみんなに着席と自己紹介を促した。


「じゃあ私から。2年会計の森本杏香もりもときょうかです。香澄ちゃんよろしくね。」


「杏香さん、よろしくお願いします。」

ショートボブの真面目そうな先輩だ。


「じゃあ次は俺だな。3年書記の鈴本誠すずもとまことだ。期待してるぞ。」


「鈴本先輩よろしくお願いします。確か同じ中学でしたよね?またお世話になります。」

中学時代、確か体育祭の実行委員が一緒だったはず。


「会長の古橋拓真ふるはしたくまです。頑張って下さいね。」


「よろしくお願いします。」


顔馴染みの会長さんは手短に挨拶終了。


「今日からお世話になります、1年の聖川香澄です。学校のこともまだわからないことばかりなのでいろいろ教えて下さい。よろしくお願いします。」


『パチパチパチ』


「さ、それじゃああまり時間もないから要領良くいくよ。まずは間近に迫った体育祭のことから。」

綾姉が議事を仕切っていく。

綾姉が与えてくれた新しい環境。

私なりに頑張ろう!


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