第56話 ピッチのDIVAとビッチのDカップ
最近、小鳥さんがやたら絡んできます。
内容は総士とのことを冷やかしたものばかり。しかも内容は下品だから聞くに耐えない。大抵は無視しているか、雅が追い払ってくれます。
「吉乃ちゃん、おはよう。今日も朝から纐纈くんとラブラブだったの?」
「おはよう。」
軽く会釈をしながら挨拶し、本に視線を落としました。軽くあしらわれたのが気に入らなかったのか今日はしつこい。
「もう公然の仲だもんね〜。しかもあの聖川ちゃんから奪い取ったんだから。大人しそうな顔してやることやってるね〜。」
わざとだ。みんなに聞こえるように大きな声で話しています。
幸いなことに、まだ香澄ちゃんも雅も教室にきていませんでした。
「ねぇねぇ。どうやって纐纈くん落としたの?そのロリボディを活かして迫っちゃった?吉乃ちゃん、見かけによらずテクニシャンだったんだね。今度私にも伝授してよ。」
さすがにこんな貶められて黙ってはいられません。
『ガタっ!』
私は勢いよく立ち上がり小鳥さんに詰め寄ります。
つもりだったのに、誰かに後ろから止められた。いや、止められたじゃなく抱きしめられた。誰?なんて確認する必要もありません。
「総士!」
振り返ると総士が小鳥さんを睨みつけています。
「おはよう史華。」
私を見る総士はいつもの柔らかい笑顔になっていました。
「おはよう纐纈くん。今日もラブラブだね。後からが好きなんだね。」
小鳥さんは総士に対してもいつも通りの口調で話しかけてきました。
「あんた、随分そっちの話題が好きなんだな。やっぱり噂通りなのか?」
「どうだろうね?纐纈くん、試してみる?吉乃ちゃんより満足させてあげれるよ?」
クスクスと笑いながら総士を見る目付きはいやらしいものでした。
「あんたなんかじゃ前座にもならんな。精々部内を漁ってろよ。」
さっきまで薄笑いを浮かべていた小鳥さんの表情が険しくなってきました。
「おはよう〜。」
その時、香澄ちゃんと雅が登校してきました。
「あれ、そうちゃんだ。朝から珍しいね。
って、なんで堂々と史華ちゃん抱きしめてるの!うらやましいでしょ!」
香澄ちゃんは今日も通常運転らしいです。
「おはよう平川。例のやつどうだ?」
「纐纈くん、おはよう。予定通りでOKだよ。詳細は後でね。」
例のやつ?総士と雅で何をしてるの?
「史華、そろそろ行くな。」
私を離し、小鳥さんの横をすり抜けて教室を出て行こうとした総士は横切る際に小鳥さんに呟いた、
「そうそう。サッカー部の部室について面白い噂があるらしいけどマネージャーさんは知ってるか?ソースはうちの姉貴なんだがな。」
小鳥さんから表情が消えた。
♢♢♢♢♢
「はぁ〜、正直気乗りしないな。」
「・・・まあ、気持ちはわかるけどな。気の
抜けたプレーすると外されるからな。」
今日はため息ばかりのカズマに注意を促す。
まあ、かく言う俺も同じ気持ちだけどな。
みんな疑問だらけだよ。
「ほらほら。カズくんも総くんもシャキッとしなよ。」
「「お〜。」」
まあ、いつもの練習と同じだな。
身体をしっかりほぐしながら気持ちを作っているとクラブハウスの前に28才独身のクラブマネージャーがいた。
「樋山さん。」
「お〜、纐纈。お前、今日の相手学校だったな。知り合いもいるんだろ。」
「樋山さん、俺も付き添いますから早く自首しましょう。」
間違いないだろう。俺達には練習試合を受ける理由がない。だとしたら冴子さんがあの作戦を実行したんだろう。
「おいおい。自首ってなんだよ。俺の罪状を教えてくれよ。」
まだシラを切るんですか樋山さん。
「わかりました。あなたの罪状はずばり児童売春です。この練習試合を受けるために女子マネの身体を要求したんですよね?たしかに見た目はロリですけど胸はそこそこありますからね。」
確か冴子さんはDカップだったはず。彼女からいない歴◯年の樋山さんには・・・。
「こら纐纈!なんで冴子ちゃんの身体要求するんだ!兄貴の方に頼まれたんだよ。監督にな。」
「樋山さん、まさかそっちの人だったなんて知りませんでした。」
「はぁ〜、頼むぜ纐纈。あの兄貴とは大学時代のチームメイトなんだ。で、当時やつに借りを作っちまってな。今回その借りを返せって。で、仕方なく話を受けたんだよ。」
なるほど。そうきましたか。
「じゃあ、そういうことで。」
ことの成り行きがわかったのでアップに戻ることにした。
「じゃあ今朝話した通りな。とりあえず怪我だけはするなよ。」
監督の指示らしい指示はなく、自己判断で動けということだ。
「カズマ。」
俺はいつもの試合同様、カズマと拳を合わせた。
♢♢♢♢♢
「予定通りだね。」
前半20分で5-0。
「吉乃、予定通り行くぞ。」
監督から招集がかかる。
「キミ、ボディコンタクトだけは気をつけて。」
飛鳥が声をかけてくれる。観客席では史華が観戦している。ごめんね。総くんの出番終了だよ。
「まさか公佳と交代する日がくるなんてな。」
総くんと両手でタッチをすると、
「間違えて、いつもの癖で抱きしめちゃいそうだ。」
と笑った。
本当に総くんと史華は仲良いよね。
「う〜ん。総くんならいいけど、カズくんも史華もみてるよ?」
「やめとこか。後が怖い。」
2人で笑いあいピッチに入る。
カズくんが笑顔で迎えてくれている。
♢♢♢♢♢
「DIVAのお出ましまだ。」
「今日は周りが男子だからいつもより軽快なリズム刻んでくるぞ。」
DIVA?たしか女神とか歌姫って意味だったよね?
「総士、公佳はDIVAなんて呼ばれてるの?」出番が終わり、私の側で観戦している総士に
尋ねました。
「ま、見てればわかると思うけどな。あいつも俺と同じでボールに触ってリズムとるタイプだからな。しかも公佳は玉離れがすごくいいからボールタッチの音が軽快に聞こえるんだ。」
ピッチに入ったばかりの公佳にみんながボールを集めてます。
「吉乃。」
「ソノさん。」
「キミ。」
「遠藤くん。」
公佳はワンタッチでボールを捌きながら相手陣内へゆっくりと進入していきます。
「相手が女子だからって遠慮するな。そこから潰せ。」
相手ベンチから公佳を狙えと指示が出ています。そこで私は違和感を覚えました。
「ねえ総士。小鳥さんってマネージャーだったよね。ベンチにいないみたい。白石くんもレギュラーって聞いてたのになぁ。」
散々、私に絡んできていた小鳥さんが総士のいるチームの練習試合にこないのはおかしい。
「ん?忙しいんじゃないかいろいろと。まあ、明日になればわかるんじゃないか?」
総士は私の手を握り少し悪い笑みを浮かべています。
「小鳥さんが気になるってわけじゃないけど、総士のその態度は大いに気になるんだけど。」
「とりあえず明日だな。ほら、公佳頑張ってるぞ。応援してやれよ。」
ピッチ内を見てみると、相手のファールが取られたて公佳がボールをセットしていました。
「公佳が蹴るの?」
男子ばかりの状況なのにキッカーを任されるなんて。
「あの距離なら公佳がファーストチョイスだな。しっかり見てろよ。」
総士はうれしそうに試合の行方を見守ってます。このファールが取られたことでベンチには女子が集まってきていました。
公佳はボールから距離を取り、しっかりと相手ゴールを見つめています。
ゆっくりとした助走から公佳がボールを蹴ると、壁の頭を越えた瞬間に総士が、「決まったな。」と呟きました。
総士の言葉通りボールはゴールキーパーの動いた逆方向に決まりました。
「キミ!」
葛城くんが公佳とハイタッチ。公佳は次々とタッチを交わしていきます。
「選手交代。」
ここで総士のチームがメンバー交代。
なんと公佳以外の選手が全員交代。
まるっと女子チームに代わっていました。
相手チームからは不満の声が聞こえてきます。
「おい!バカにしてるのか!女子に俺達の相手が務まると思ってるのか!」
この前のナンパ男が叫んでいますが、試合は続いています。
公佳は先程同様、短いパス交換で試合を優位に進めていきます。
「で、結果は女子チームだけのスコアだと3-0か。もうちょっと点取れる場面があったんだけどな。」
総士が飛鳥をチラッと見ると、飛鳥はバツが悪そうに目を背けました。
「し、仕方ないでしょ。なるべくボディコンタクトしたくなかったんだから。みんなそこだけは注意してたのよ。」
相手は男子だからドサクサに紛れて何かしてくる可能性があると監督さんから注意があったみたいです。
「ま、これで冴子さんも大人しくなるだろ。現に言葉も出ないって感じだし。あとはあいつだな。」
相手ベンチで項垂れている先輩。
相手チームはみんなが押し黙っています。
「じゃあ史華。練習戻るわ。もう少し待っててな。」
私の頭をひと撫でして総士は練習に戻っていきました。
♢♢♢♢♢
朝、また小鳥さんが絡んできました。
私は彼女の言葉には耳を貸さずに昨日の総士の言葉を思い出していました。
『今日何か起こるのかな?』
「史華ちゃん、おはよう。」
考えごとをしていたせいで反応ができませんでしたが目の前にお姉さんが立っていました。
「あ、お姉さんおはようございます。」
その後ろには雅もいた。
「小鳥さん、ちょっといいかしら。」
お姉さんに話しかけられると小鳥さんはビクッと身体を震わせています。
「な、なんですか?」
明らかに狼狽した態度。
「最近、サッカー部の部室が不適切な使用をされてるって情報があってね。昨日調べさせてもらってたわ。とりあえず証拠の動画があるとだけ言っておくわ。生活指導室からお呼びがかかってるから行きなさい。」
「ま、まさか。動画って?」
小鳥さんが激しく動揺している。
「何?ここで再生してあげましょうか?それとお相手の白石くん。あなたはサッカー部顧問がお呼びよ。まあ、その後に生活指導室だけどね。」
白石くんも激しく動揺。
「史華、おはよう。」
後ろから声をかけられた。振り返ると総士が頭を撫でてきた。
「ま、これで大人しくなるだろう。というかいなくなるかもな。」
「知ってたの?」
私の疑問に総士は笑って頷く。
「バカだなあいつ。史華にちょっかい出さなきゃ姉貴に目つけられなかったかもしれないのにな。」
結局、2人は3週間の停学処分になりました。
噂が学校中に広まったことから復学後は2人とも大人しくなり、小鳥さんが私に絡んでくることもなくなりました。
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