第55話 冴子再び

纐纈総士

FCステッラ所属

MF

代表歴

U-15


なんか、知ってる人が検索できるって怖いね。


「ねえ、綾音。」


私の部屋で本を読んでいる親友に話しかける。普段はみんなから少し恐れられている副会長さんが、今は私の前で恋愛小説を熱心に読んでいる。あの本、何回読み返してるんだろう。


「ちょっと今いいところだから待って。」


右手で私が話しかけるのを制する。

ちょっと。内容わかってるよね?

そこまで真剣に読まなくてもいいじゃない!


「ん、どうぞ。」


「いや、どうぞって。綾音見かけによらず恋愛もの大好きだよね。自分は恋愛してないくせに。」


「ほっといてくれる?冴子だってシングルのくせに。モテるんだから彼氏の1人や2人作ればいいじゃない。どんだけなのよ。」


親友は呆れ顔で私に反撃。


「う、うるさいわね。別にブラコンじゃないもん。チームのためにいろいろやってるだけだからね。」


「ふ〜ん。チームのためにね。チームの為なら親友の不興を買うのもいとわないわけね。」


「そ、それはもう何回も謝ったし反省してるよ。でも折角そばに全国レベルの選手がいるんだから協力して欲しいと思っても仕方ないと思わない?」


ソウくんをなんとか勧誘できないか模索していたがあえなく撃沈。ソウくんには厄介がられ綾音には怒られた。

綾音とは小学生の頃からの親友。

ソウくんのことも小学生の頃から知っている。

中学ではサッカー部のマネージャーに慣れたのでソウくんのプレーは少しの期間だったけど、間近で見ることができた。

中1の頃からトレセンにも呼ばれていたソウくんはすぐにチームの中心メンバーになった。

私が1、2年生の頃は2回戦止まりだった大会も3年生の時は準優勝できた。


人を活かすプレーが得意なソウくんはみんなの長所を引き出して実力以上の結果を出すことができた。


特に変わったのが木下くんだった。それまで控えだった彼は、ソウくんと相性が良かったらしくスペースをつくプレーでチームに貢献するようになりホットラインを築くことによりエースにまで昇格した。


「あんたの気持ちはわかるけど、ただでさえ忙しい総士にはデメリットしかないからね。」


「ぐっ!親友相手に容赦ないね。」


「仕方ないでしょ。それよりも冴子。最近サッカー部の良からぬ噂が聞こえてくるんだけど。噂通りだと活動停止もしくは廃部だからね。マネージャーなんだからしっかり歯止めかけなさいよ。」


噂?はてなんのことだろう?


「ねぇ綾音。」


「何よ?」


「そこのとこ詳しく!」


「は、はぁ?あんた何も知らない訳じゃないよね?」


「てへっ。」


『ゴン!』

少しおちゃらけたら頭の上に拳骨が振り落とされた。


「冴子、冗談抜きでヤバいわよ。あんたちゃんと部室の管理してるでしょうね?」


「部室?してると思うけどなぁ。最近は引き継ぎしてるから鍵の返却は1年生にお願いしてるけどね。」


冬の選手権予選までは続けるつもりだけど後輩に仕事覚えてもらわないといけない。


「ちなみにその1年生の名前は?」


「えっ?小鳥まどかちゃんだよ。」


♢♢♢♢♢


「ソウくん。」


昼休み、廊下を歩いていると不意に後ろから呼ばれた。

振り返ると小柄でかわいい先輩が立っていた。


「冴子さん。」


「この前はごめんね。彼女さんも怖がらせちゃって。」


「まあ別に冴子さんが史華に何かした訳じゃないんで。」


あれは木下がやらかしたこと。

別に冴子さんに謝ってもらうことじゃない。

この人のこういうところは変わらないな。

どうせやつが問題起こしたら部活がって思ってるんだろう?


「うん。ソウくん相変わらず優しいね。彼女さんが羨ましいよ。」

「よく言いますね。あれだけデートの誘い断っておきながら。」


まあ、半分ノリみたいな感じで誘ってはいたけど、全く脈なしだったもんな。


「・・・デートね。」

背後から聴き慣れた声がした。

いつもと違うのはそこに感情がこもってないといいこと。


恐る恐る振り向いて見ると、項垂れた史華が立っていた。

その後ろにはあらまという台詞が聞こえてきそうな香澄と平川がいる。


「史華?」


声をかけると涙目で見上げてきた。


「・・・。」


「史華と知り合う前の話だからな。」


史華のそばに行き顔を覗き込む。

ジト目でじっと何かを訴えかけてくる表情が愛おしくなり、思わずキスをする・・・がすんでのところで両手で塞がれた。


「みんな見てるから!」


さっきまでの表情とは一転。

真っ赤な顔で怒っているような表情がかわいい。


「嫌だった?」


史華の両手を外して抱き寄せる。


「だ、だから!恥ずかしいだけだって何度も言ってるじゃない。」

言葉の後半にいくに従って弱くなっていく。


「う、うらやましいよ〜。」

後で物欲し気に香澄がこちらを見ている。

平川は呆れ顔だな。

いつも通りだ。


「ちょっとソウくん?仲良いところ見せつけられた挙句放置プレイはないんじゃないかな?」


振り返るとこちらも赤い顔した冴子さん。


「史華の顔を見たら忘れてました。冴子さん、風邪ぎみですか?顔赤いですよ?」


「わ、私はお姉さんだからそれくらいのことで照れたりしないから。うん、付き合ってれば普通よね?どこでもイチャイチャ。

・・・いいな〜。」


この人もかわいい顔してるのに厄介な性格してるからな。


「じゃあ冴子さん、また。」

史華の手を握り教室に戻る。

「戻るんだろ?」

途中で平川に声を掛けると、


「ちょっと、ソウくん。全然話できてないけど!すぐ終わるから聞いて。」

「どうぞ。」

たぶん面倒なことだとわかっているので、淡々と相手をする。


「ありがとう。じゃあ単刀直入に。」

「ごめんなさい。」

「まだ言ってないから!茶化すと時間かかるよ?」

ため息を漏らし冴子さんに向き直す。


「早く。」

少しイラついてきたので先輩ということはとりあえず忘れておく。


「じゃあ。ソウくんのいるチームと練習試合がしたい。後輩たちにとっていい経験になると思うんだ。だから、」


「クラブに連絡してください。僕がどうこうできる問題じゃないんで。」


「連絡はした。でも即答で断られた。だからソウくん仲介してもらえないかな?」


この人は本当にブレないな。利用できるものはなんでも使う。さっきの謝罪はなんだ?


「断られたなら仕方ないでしょ。実際に練習試合のスケジュールはかなり先まで埋まってるはず。うちにメリットのないチームと無理やりやる必要ないかと。」


「わかってる。ソウくんとこみたいな強豪がうちみたいな弱小とやるメリットがないことは。でもうちにとってはメリットしかないの。ソウくん、お願い。同じ学校のよしみで協力して!お礼は何でもするから!少しならエッチなことも大丈夫だから!」


場が凍りついた。

大衆の面前でなにを叫んでるのか。

ほら、史華が疑いの眼差しで見てくるし。


「いや、ないっす。どうしてもっていうなら頑張ってうちのマネージャー口説いてください。28才独身男性です。」


「28才か・・・。」

冴子さん、何考えてるんだろ?

まさか!本当に色仕掛けするんじゃないだろうな?


そんなことを考えてたら史華に袖を引っ張られた。


「総士。あの先輩大丈夫?」

同じことを考えてたらしい。


「さすがに大丈夫だと思うけどな。」

「やるかもよ?」

いつ間にか隣に来ていた平川が呟く。

いやいや、さすがにないだろう。

たぶんな。


♢♢♢♢♢


「ソウくん。スケジュール見た?珍しく平日に練習試合が組まれてるよ。」


休憩中、公佳がカズマと一緒にやってきた。

平日?珍しいじゃなくて初めてじゃないか?


「しかも相手はうちのサッカー部らしいぞ。何でまたって感じだよな。」

カズマが顎に手をやり考えている。


うちのサッカー部?

まさか!冴子さんヤったのか!

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