第53話 たこパ

「2人とも晩ご飯食べてってよ。たこパでもしない?」

香澄ちゃんは最近タコ焼きにハマっている。この前の夏祭りは1人で3皿食べてたもん。


「うれしいんだけど突然だし迷惑にならない?」

甘いね史華。香澄ちゃんに抜かりがあるわけないじゃない。


「大丈夫。学校帰りに食材買ってきたし、みんなで食べた方が楽しいよ。」

香澄ちゃんが一旦決めたら覆らない。


「それにしても香澄ちゃん、どれだけハマってるの?事あるごとにたこ焼きだよね?お祭りに行ってもたこ焼き、フードコート行ってもたこ焼き。」


「い、いいでしょたこ焼き。美味しいんだから。みんなで食べるならロシアンもできるし。たこ以外にもいろいろ用意したから楽しみにしててよ。」


戦慄が走る。香澄ちゃんの笑顔が怖い。

以前、みんなでたこパした時たしか胃薬入れたのって・・・、まあ楽しければいいのかな?


「ただいま〜。」


玄関から元気な声が聞こえる。

軽快な足音が響いたあとに『ガチャ』っと扉が開いた。


「あ〜、みやびちゃんと史華さんだ。こんにちは。」

いつ見ても清香ちゃんは元気でかわいい。

綺麗系の香澄ちゃんと違ってかわいい系の清香ちゃんはまさに妹キャラって感じ。


「清香ちゃん、お邪魔してます。」


「あれ?史華。清香ちゃんを知ってるの?」

香澄ちゃん家に来たの初めてだって言ってたのに。


「この前、お兄ちゃんの家で会ったんだよ。私のライバルがこんなにかわいい人だったのには驚きましたよ。」

聖川姉妹は纐纈くん大好きだからな〜。


「じゃあ清香ちゃんは史華ベッタリのの姿見たんだ。」


「えっ?ベッタリ?いやいや、お兄ちゃんだよ?そんなベタベタするわけないじゃない。黙って俺の後に着いてこい的な。」


「史華。清香ちゃんはこう言ってるけど?」


史華は清香ちゃんから視線を外して、苦笑い。纐纈くんって清香ちゃんも相当甘やかしてるはずだけど、自分では気づいてないのかな?それとも足りないって思ってる?


「清いお付き合いさせていただいてますよ?」

嘘くさい笑顔でニッコリ。

すでに公認のバカップルなのに平然と嘘をつく。


「ほら、みやびちゃん。私の史華ライバルさんはまだまだウブなんですよ。私が高校生になるまでお兄ちゃんに彼女役を繋いでくれてるんだから。」


この子はやっぱり香澄ちゃんの妹だ。

ポジティブと言うか身の程知らずと言うか。

史華もニコニコを崩さない。

悟りを開いたかの様だ。


「香澄ちゃん、そろそろ準備しない?遅くなっちゃうよ。」

呆気に取られていた香澄ちゃんがハッとした表情を見せた。


「たこパしないと!その為にきてもらったんだから!」

違うよね香澄ちゃん?

もっと深刻な話だったよね?


「じゃあ始めようか。」

香澄ちゃんが手際よく生地を流し込んでいく。

並べられた具材をちらり。

たこ焼きなのにタコがない。

代りにあるのはサイコロステーキ、イカ、イクラ、ポテチ、チョコレート、グミ、チーズ。

若干怪しげな具材が混ざっている。


「待っててね〜、ころころじゅうじゅう♫」


「雅、香澄ちゃんえらく機嫌いいね。なんか複雑な気分なんだけど?」


史華の気持ちもわからなくはない。

深刻な事態になるかもしれないって言うのに香澄ちゃんからは危機感らしきものがない。

木下先輩が絡んでいる以上、香澄ちゃんも無関係で済むとは思えないけど・・・。


「変な人たちのせいで私達が嫌な気分になるのもおかしくない?今、ここには私達だけなんだから楽しいことしようよ。じゃないと気が滅入っちゃうよ。」

たこ焼きをころころしながら香澄ちゃんは笑顔を崩さない。

なるほどね。香澄ちゃんらしいね。

史華と顔を見合わせて笑う。

清香ちゃんは我慢できなくなってきたみたいだ。


「お姉ちゃん、まだ?そろそろよくない?」


「そうだね。よし、じゃあ食べようか。」


香澄ちゃんは焼きあがったたこ焼きを一つのお皿にまとめて乗せて、お皿をグルグル回す。」


「じゃあとりあえずみんなで一つずつ食べてみようか。せ〜の。」

ロシアンだから一口で食べれるサイズで作られたたこ焼きだが、出来立てなので一口では食べられない。

ふ〜ふ〜っと口に入れる前にしっかりと熱を冷ましてからパクリ。


「うんうん、イカだ。普通でごめん。美味しいよ。」

芸人だとすると残念なやつだね。

私的にはラッキーだけどね。


「うわっ!なにこれ?すごく苦い。」

清香ちゃんは芸人枠に滑り込んだらしい。

香澄ちゃんがお腹を抱えて笑い出した。


「ふふふふ。おめでとう清香。身体にうれしい胃薬だよ。さあ、これでお腹壊しても大丈夫だからいっぱい食べてね。」


「ちゃんと食べ物いれてよ!」


「なによ。胃薬なんて漢方みたいな物でしょ?じゃあ食べ物でいいじゃない。」

よくわからない香澄ワールド。


こうやって賑やかにたこ焼きを食べているところで、香澄ちゃんのお母さんが帰宅した。


「ただいま〜。いい匂いね。何食べてるの?」

おばさんは確か45才だと思ったんだけど、見た目は30台前半と言ったところだ。

テレビに出れば『美魔女』とでも言われるだろう。

綺麗とかかわいいよりも妖艶という言葉が似合う。


「お母さん、お帰り。みやびちゃんと史華ちゃんが遊びに来てくれてるよ。」


「お久しぶりです。お邪魔してます。」

私は口に入っていたたこ焼きを急いで流し込み挨拶した。熱さで食道が痛い。


「はじめまして、吉乃史華です。よろしくお願いします。」

少し緊張の面持ちの史華はおばさんの姿に圧倒されてるみたいだ。


「史華ちゃんね、はじめまして。ひょっとしてだけど総ちゃんの彼女さんかな?」


「あ、はい。総士さんとお付き合いさせていただいています。」


「ん〜!やっぱり。総くん見る目あるわ〜。かわいい上に芯がスッと通ってる。大人になったらいい女になるわよ。」


愛娘の思い人の彼女の史華に対するおばさんの評価は高かった。


「お母さん、娘達より好評価だね。まあ、理解できるけどね。そうよ、史華ちゃんは私にとっても自慢の友達ライバルなんだから。」


「あらあら。少しは吹っ切れた?それはそうともう遅いわよ。車出してあげるから帰り支度しなさい。史華ちゃんには聞きたいこといっぱいあるから香澄はお留守番ね。」


「え〜。」と不満気な香澄ちゃんと不安そうな史華。


「みやびちゃんも乗ってく?」

「歩いた方が早いですよね?」

我が家はこのマンションの真ん前。

敷地を出れば2分で着く。


「じゃあ史華ちゃん行こうか。」


♢♢♢♢♢


香澄ちゃんのお母さんのナビシートに乗り、私は道案内&おしゃべり相手の役割をする。


「総くんも隅におけないわね〜、こんなかわいい子を捕まえて。そりゃ香澄じゃ相手にならないわ。」

「いえ、とんでもないです。自分を卑下するわけじゃありませんけど、私が香澄ちゃんに勝てることを見つけるのは難しいですよ?」


褒めてもらえるのは素直にうれしいが分不相応です。

「ふふ。どうかしらね。今じゃ総くんもいい男になってきたけど、小さい頃は泣いてばかりだったのよ。『また香澄ちゃんに負けた〜』ってね。昔から何をやらせても香澄の方が上手にできてね。


「小さい頃は女の子の方が成長早いですからね。悔し泣きしている小さな総士さんを慰めてあげたい。」


「香澄は小さい頃から隆司くん大好きで、あ、隆司くんってのは総くんのお父さんね。

実は香澄の初恋の相手は隆司くんでね、総くんと香澄はいろんなことを教えてもらってたんだけどね。香澄は隆司くんに褒められたいから頑張るでしょ?総くんは香澄に見直して欲しいから頑張る。大体香澄が勝つからそのうち総くんもやる気なくしちゃったみたいでね。それと同時に香澄への思いもなくなっちゃったみたい。」


あれ?それって総士の初恋の相手は香澄ちゃんってこと?


「ひょっとして香澄ちゃんがフラれたのは総士さんの小さい頃のトラウマみたいなものが原因ですか?


「かもね。香澄が総くんを好きになった時、総くんはタイプじゃないとか言って断ったみたいだけど、本当は憎んでいたのかもね。可愛さ余って憎さ百倍ってとこ。」


総士と香澄ちゃんはお互い好きになるタイミングが合わなかったんだね。

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