第51話 過去から未来へ

あれからどれくらい時間が経っただろう。


史華は俺の肩に頭を預けたまま俯いている。


木下に絡まれ、俺達のやり取りに巻き込んでしまった。


「史華。」


優しく抱きしめると潤んだ瞳で見つめてきた。不謹慎だとは思うんだけど、とても綺麗だ。普段の史華はサイズ的なことも含めてかわいい系だ。しかし、今みたいに弱っている時は儚さが相まってすごく綺麗だ。


「戻ってくるのが遅くなってごめんな。もっと早く戻ってきてればあんなやつに絡まれなかったのに。怖い思いさせちゃったな。」


史華は頭をふるふるして否定した。


「総士は何も悪くないよ。謝らないで。

・・・ねぇ総士。あの人達は誰なの?」


史華に隠し事はしたくないけど、これ以上絡んでこないとも限らない。

・・・けど、隠したことで史華に誤解を与えるのも嫌だしな。


「そうだな。あの女の先輩は冴子さん。姉貴の小学校からの親友だ。サッカー部のマネージャーで俺が入学してからも勧誘された。中学の時もマネージャーやってたから少しの期間俺も一緒にやってた。」


史華は何も言わずにずっと見つめている。


「で、男の方は2年の木下。たぶんあいつもサッカー部だろうな。中学時代は一緒にやってた。」


史華が無言のまま頷いている。


緊張した面持ちなので軽く頭を撫でる。


「俺が途中でサッカー部を辞めたのは知ってるだろ?理由はいろいろあるんだけど、決定的だったのがあいつとのトラブルだ。」


「俺が1年の頃は冴子さんがマネージャーで木下が1つ上にいたけど、なんの問題もなかった。むしろ良好な関係だったと思う。でも2年になってガラッと環境が変わった。」


史華の様子を見るとじっと俺を見つめている。先を促しているかの様に。


「香澄がマネージャーとして入部してきたんだ。マネージャーとしてのあいつの仕事ぶりは誰に対しても献身的だった。あの容姿だから校内でも有名で、そんなやつが自分達に優しくしてくれるもんだから勘違いする奴らが出てきて。その代表的なのがさっきの木下だ。香澄はオンとオフがハッキリとしてるから部内以外では俺にベッタリだった。奴らにとっては面白くないだろ?その矛先は俺に向いたんだ。」


俺が部活を辞め、香澄を遠ざけた結末を知っているからだろう。その先の展開を想像しているかの様に史華の身体は少し震えていた。


「やれパスが悪いとか、やれ守備が悪いとか。まあ、部活でのことならまだ我慢できてたんだ。でも奴らは次第に増長してきて姉貴の誹謗中傷や、俺の部活以外での友人にまで矛先を向け始めた。」


震える史華を抱きしめる腕の力を少し強める。


「最終的に奴らは香澄にストーカー紛いのことをし出した。盗撮、私物の窃盗とかな。

さすがにここまでいくと無視するわけにもいかなくなって、あるときそのことを糾弾した。もちろん奴らは認めず、逆に俺に罪を擦りつけてきた。」


俺の背中にある史華の腕の力が強まる。


「まあ、香澄が信じるわけなかったんだけど、俺のことを気に喰わない連中はそれに便乗したわけだ。さすがに数でこられると俺も劣勢になって部内にも居場所がなくなって部活は辞めた。香澄とも距離を置いたことで奴らの嫉みも和らいだ。」


俺の視線を感じたらしく、史華が顔を上げる。かわいいので、そのままキスした。

珍しく大人しく受け入れてくれた。老若男女が集まるフードコートなのに。

とりあえず説明を続ける。


「ストーカー被害についてはそれまでに証拠の写真を集めていたから、それを持って香澄の両親に相談に行った。なるべくことを大袈裟にしたくなかったから親父さんが対応してくれた。まあ、具体的には奴らの家を一軒一軒回って親と本人に証拠の写真見せてしてもらった。」


「納得?」


史華が目をまん丸にして俺を見てる。


「香澄の親父さんな、SPなんだよ。要人警護のスペシャリスト。素人相手だから簡単だったぞ。それ以降はすっかり香澄から手を引いたからな。」


「納得?」


史華が怪訝な顔をしている。


「納得。まあ、大丈夫だとは思うけど気になることがあれば早めに言ってくれ。何かあってからじゃ遅いからな。」


「うん。」


いつの間にか史華の身体の震えも落ち着いていた。精神的にも落ち着いたんだろう。

俺の腕の中にいた史華が勢いよく離れた。


「史華?」


その態度にちょっと傷ついたが理由はわかっていた。


「そ、総士?さっきキスしたよね?」


「したな。」


「ずっと抱きしめてたよね?」


「抱きしめてたな。」


「ここ、フードコートだよね?」


「人がいっぱいいるな。」


「◎△$♪×¥●&%#?!」


「声になってないな。」


「もう!なんで総士には羞恥心ってものがないの?」


うん、正常運転だな。真っ赤な顔の史華もかわいい。


「せっかく史華といるのに恥ずかしがってるなんてもったい。」


史華が固まった。

身体がワナワナ震えてきた。


「も、もう!私はどうすればいいのよ!」


♢♢♢♢♢


史華ちゃん


香澄ちゃん

話したいことがあるんだけど

明日の朝かお昼に時間ある?


                  香澄

              大丈夫だよ〜

    なんだろ?気になって寝れないから

    朝でもいいかな?



うん

じゃあ朝お願いします

おやすみ

     

                  了解

                おやすみ


「史華ちゃん、何の用事かな?」

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