第50話 怨恨

結局、俺は史華の着せ替え人形となった。


「総士、これ着て。」


「うん。」


「総士、これとこれ組み合わせて。」


「ん。」


「総士、下そのままで上これに着替えて。」


「・・・。」


3店舗、計2時間半を費やしました。


まあ、史華が満足そうな顔をしてるので何も言わないけどね。


「あ、総士ちょっとだけ待って。」


そう言うと史華は貴金属店のショーケースの中をチラッと覗き込んだ。


史華の背後から確認すると、そこには三日月の中に石がはめ込まれたネックレスだった。


「かわいいな。」


「そうだね。」


いかにもあまり興味ありませんよとでも言いたげな態度をとってきた。


「お腹空いちゃった。そろそろご飯にしようよ。」

「うん?買わないのか?」

「うん、見てただけだよ。最近、月のデザインに目がいっちゃうの。」


史華はそう言うとうれしそうに笑った。

俺はショーケースを再確認してから、史華の手を握った。


ちょうど混み合う時間帯だったので、俺達は海鮮丼の列に並んだ。


「結構並んでるな。史華悪い、今のうちにお花積んでくるわ。」

「もう、女の子じゃないんだから。」


史華を残して俺は列を離れた。


程なくして、俺は史華の元に戻ったが列は半分くらいしか進んでなかった。


「遅くなりそうだな。今日は泊まりだな。」

史華の様子を見ると少し顔を強張らせている。


「ふ、ふん。そう毎回毎回おちょくられないもん。」


お!と思い追い討ちをかける。

顔を近づけ耳元で、

「見えないところにキスマーク付けていい?」と囁く。


見る見るうちに史華の顔は真っ赤に染め上がる。


「み、み、見えない場所って、どうやって?ど、どこに付けるつもりなの。」


史華の身体が小刻みに揺れている。


俺は史華の正面から首筋目掛けてキスをする


フリをした。


史華は目を閉じている。


『シャラ』


「えっ?」


「今日のお礼。うん、やっぱり似合うな。」


さっきこっそり買ったネックレスを首からかけた。


「総士、これさっきの。」

史華はネックレスを手に取りまじまじと見ている。


「真ん中の石は選べたんだな。にしておいた。」


三日月の欠けた部分にガーネットが付いたネックレス。


「私の誕生石、知ってくれてたんだね。」

まあ、公佳と一緒だからな。

今日カズマに公佳の誕生日プレゼント買うの付き合わされたし。


「でも私誕生日でもないのに・・・?」

史華が申し訳なさそうに見上げてくる。

さっき今日のお礼って言ったのにな。


「コーディネーターさんの報酬ってことで、現物支給な。」

「もう、総士は私を甘やかし過ぎだと思いますけど。」

「そうか?」

「自覚ないんですかね?」

「全く。」

これくらいだろ?

やっぱり俺の基準はおかしいのか?


「ありがとうね。」

史華がうれしそうにはにかんだ。

この顔が見れるんだから安いもんだろ。


「どういたしまして。」


程なく店内に案内され俺は3食マグロ丼、史華はイクラ丼を堪能し、大型ショッピングモールに移動した。


♢♢♢♢♢


総士が飲み物を買ってくる間、私は席取りを兼ねてテーブルでお留守番。


さっき総士が首に掛けてくれたネックレスを眺める。


幸せ過ぎてにやけちゃう。


総士と付き合い出して2カ月。


不安や心配することも増えたけど、それ以上に幸せが感じられます。


公佳と違い人見知りで積極的に他人としゃべることが苦手だった私に雅が積極的に声をかけてくれ、香澄ちゃんと仲良くなり、総士とも話せるようになりました。


縁って大事ですね。


「おっ、かわいいネックレスしてるね。」


突然、知らない男性に話しかけられた。

声の主を見ると、うちの高校の生徒だったが私の知らない人でした。


「はあ、どうも。」


「同じ高校だね。1年か?俺2年の木下だ。君は?」


どうやら先輩みたいです。

どうしよう?


「史華!」


対応に困っていると総士が戻ってきてくれました。

安心して強張ってた身体から力が抜けました。


「悪いけど俺の連れなんでナンパなら・・・」

総士が私の隣にきて先輩の顔を見た途端、これまでに見たことのないくらい怒りに満ちた表情に変わりました。


「お前、纐纈か?」


「・・・木下。」


総士とその先輩は知り合いらしいが雰囲気からして決して良好な関係ではなさそうです。


「先輩つけろ。相変わらず生意気なやつだな。」


「お前みたいなやつに先輩つける必要ないな。」


いつも温厚な総士からは想像できないくらいの声色。


「木下くん!1人で勝手に行かないでよ!」


うちの学校の生徒のグループが近づいてきて、その内の女の人がナンパ男に詰め寄ってきました。


「冴子さん。」


総士はその女の人も知り合いだったらしく、

「ソウくん?ごめん。ひょっとして迷惑かけたかな?」

と謝られました。


「あれ?吉乃ちゃんじゃん。彼氏とデートですかね?」


よく見るとそのグループには私と同じクラスの白石くんと小鳥さんもいました。


「冴子さん一緒だったんですか。とりあえず目障りなんで連れてってもらえませんか?」


「ああっ?お前だれにもの言ってんだ?彼女の前だからって粋がってんじゃねぞ。」


総士とナンパ男は一触即発。

私は総士の袖を引っ張り落ち着かせました。


「はいはい。こんなとこで喧嘩したら迷惑だからやめてね。彼女さんもごめんね。先にこっちが絡んだんだよね?」


私は頷くのみで肯定しました。


「ソウくんも落ち着こう。とりあえず私達は行くから。」

「え〜!さえ先輩、ちょっと吉乃ちゃんの彼氏とおしゃべりさせてくださいよ〜。なかなかのイケメンくんじゃないですか〜。」


小鳥さんは先輩の言うことを無視して総士の隣の席に座ろうとするが、総士はそんな彼女をひと睨みするとおとなしく離れました。


「じゃあ行こうか。ソウくん、話したいことがあるから今度時間とれない?」


「とれません。」


総士は先輩の申し出に対して目もくれずに拒否しました。


私は袖を掴んでいた手で総士の手を握ると、それに気づき、反対の手で私の頭を撫でてくれました。


「ふ〜ん。いいじゃん。」

小鳥さんが去り際に舌舐めずりをしたように見えました。


そして先輩は


「ソウくん


と帰っていきました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る