第49話 制服デート

HRが終わり、荷物を鞄に放り込む。


「総士。」


声のする方を見ると廊下から史華が小さく手を振っている。


軽く振り返すと教室内から『ちっ!』と舌打ちが聞こえた。

周りを見渡すと射殺さんとしているヤロー共が俺を見ている。


容姿、性格で香澄の方が注目を集めがちだが、史華も学年では有名だ。


にこやかに俺の元に歩いてくる史華を惚けたように見ているヤロー共。

しっかり覚えたからな。


「悪いな史華。下で待ち合わせだったのに。」


「ん?私が早く総士に会いたかっただけだから。そのままこっちに来ちゃった。」


史華は髪の毛を弄りながら小さな声で呟いた。

その恥じらう姿に「ほぉ〜。」と教室内の男女からため息が漏れた。


さっさと連れて行かないとまずいな。


「よし、行くか。」

史華の手を引き足早に教室を出た。


すれ違う人がやたらと振り返る気がする。


赤い顔で恥じらったままの史華だとやっぱり注目集めちゃうか。


「ね、総士。ちょっとストップ。」


不意に史華に手を引っ張られた。


「ん?どうした?」


「どうしたって。手繋いだまま廊下歩いてればみんなに見られちゃうよ。」


あれ?手を繋いでたから?

みんな史華のかわいさに見惚れてたんだろ?


「いやいや。史華がそんなかわいい顔してるからだろ?お前の今の顔は破壊力抜群だぞ?」


「も、もう!またそういうことを!もういいから早く行こう?」

史華は観念したらしく、俺の手を引っ張って行った。


♢♢♢♢♢


「やっぱり吉乃さんってB組の纐纈と付き合ってたんだな。」


さっきから教室内は史華ちゃんの話題で持ちきりだ。


「今までは噂話程度だったのに、これで確定的になったね。」


みやびちゃんも、そうちゃんと史華ちゃんが手を繋いで歩いていたのを見たらしい。


「まあ、こういった話は遅かれ早かれ広まるでしょ。」


B組の纐纈と吉乃さんが付き合ってるらしいって噂がうちのクラスでも広まってたのは知ってる。綾姉の3年にまで広まってるくらいだもんね。


直接、史華ちゃんに確認してた強者もいたくらいだし。


「香澄。」

声がした方を見ると綾姉が手招きしていた。


「どうしたの?」

「うちの愚弟がやらかしたって?」

「史華ちゃんと手を繋いで帰っただけだよ。」

「そう?ならいい。香澄もう帰る?」


綾姉が珍しいことを聞てきた。


「うん、そのつもり。」

「たまには一緒に帰ろか。雅もいいでしょ?」


綾姉はみやびちゃんにも確認をとる。


「ぜひ、ご一緒させていただきます。」

綾姉信者のみやびちゃんはとてもうれしそうだ。


「荷物持ってくるから校門で待ち合わせね。」

綾姉は軽く手を振り教室を出て行った。

ふと周り見てみると、綾姉は注目を集めてたみたいでみんな視線で追っていた。


「綾姉も美人だからなぁ〜。」

つい心の声が漏れてしまった。


「だよね香澄ちゃん!」

みやびちゃんの瞳が輝いている。


荷物をまとめ、校門に向かうと綾姉はすでに待っていた。


「綾姉お待たせ。」

スマホを操作している綾姉に抱きついた。


「ちょっ、ととと。こら香澄!危ないでしょ。もう少しでスマホ落とすところだったじゃない。」

勢いよく抱きついたせいでもう少しでスマホを落としそうになった綾姉に怒られた。

えへへへ〜と愛想笑いをしてると、仕方ないな〜と言わんばかりに頭をガシガシされた。


「綾姉?それおじさんがやるやつだよ?」

「誰がおじさんよ!」


全くもう、と呟きながら綾姉はさっさと歩き出した。


みやびちゃんは後ろでクスクス笑ってる。


みやびちゃんと一緒に綾姉に追いつくと、前を向いたまま私に一言、


「香澄。あんた来週から生徒会役員だから。」


と言ってきた。


みやびちゃんと顔を見合わせ???


「は、はい?」


♢♢♢♢♢


今日は総士の服を買いに行く約束をしていたので駅前まで一緒に歩いてきた。荷物が増える予定なので、総士は電車で通学したらしい。


「ね、総士。古着に抵抗ある?」


「ん〜?物にもよるかな?」


「よくわからない回答ね。」

元々ファッションに興味がないんだから仕方ないか。


「実際、自分の服装にあまり興味ないし。デザインよりもコスパで選んでる。」


「ふふふ、仕方ないか。総士が服を取っ替え引っ替え選んでるのなんて想像できないもん。」

脇目も振らずにサッカー一筋。

今ある服は誰が買ったんだろう。


「ねぇ、総士。今ある服はどうしたの?」


「最近のか?確か試合の帰りにカズマが買うついでに買ったやつじゃないかな?」


じゃあ総士が自分で選んだのかな?

部屋に掛けてあったビッグシルエットパーカーとかシンプルだけど総士に似合うし。


「ねぇ、総士。ちなみにその時、公佳はいた?」

確か葛城君の服は公佳がコーディネートしてるって言ってたよね?

その葛城くんと買いに行ったってことは?


「公佳?いたぞ。飛鳥も。」


「やっぱり。総士の服選んだのは?」


「公佳だな。」


「よね。はぁ〜、なんで教えてくれなかったのかな?私、今日のこと公佳に相談したんだよ?」


一緒に買いに行ったことあるなら教えてくれればいいのに。


「なんで公佳に相談したんだよ?史華にお願いしたんだから史華のイメージで選んでくれよ。」

ムッ!正論返しできた。

でも失敗したくないから誰かの意見参考にしたいじゃない。


「なに剥れてるんだよ?」

指で私の頬を突っついてきた。


「もう!私だって万全を期したいの!せっかく総士が私に任せてくれたんだから。」


ぷいっと総士に背を向け拗ねる。

公佳も公佳で最近やたら私を挑発してくる。

葛城くんとうまくいってないから?


それとも・・・、いまさら総士にって考えてる?


まさか公佳がそんなことするとはおもっ


「きゃっ!」


突然、後ろから首筋にキスされた。

振り返ろうとするとそのまま抱きしめられた。


「また余計なこと考えてるなよ?せっかくのなんだから楽しもうぜ。」


総士はいつものように私の手を握り歩き出した。

うん。ここ総士の隣は私だけの場所だよね。お義母さんにも言われたもん。迷ったら総士を信じなきゃ。


「で史華、どこ行けばいい?」


「・・・こっちだよ。」

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