第48話 シャイボーイ、シャイガール

「気使わせて悪いなソウ。」


公園のベンチでカズマを待っていると、ペットボトルを買って戻ってきた。


「いや、気にすんなよ。で、何があったんだ?」

男同士のやり取りは実に単純でありがたい。


「単刀直入に言うとだな。公佳が史華を羨ましがってるんだよ。」


ん?どういうことだ?


「わからないか?まあ、俺がヘタレなだけなんだろうけどな。簡単に言うと公佳は外でもイチャつきたいらしいんだよ。ただ、俺としてはやっぱり恥ずかしくてな。"手くらい繋いでよ"って拗ねるんだよ。」


へ〜、これが史華の言ってたなのか?


「なあカズマ。史華に言わせるとその辺の感覚は普通とは違うらしいんだ。別に人前で手を繋ぐのもキスするのも恥ずかしいとは思わないな。そんなこと考えるよりも、赤い顔で恥ずかしがってる史華見れるメリットの方が大きいしな。」


史華のかわいい姿が見れるならなんでもするぞ?

なぜかカズマの視線が痛い。


「俺はお前の普通が怖いわ。ソウがここまで彼女をかわいがるなんて誰も想像してなかったと思うぞ。まあ、史華もあそこまで骨抜きになるのは意外だったけどな。」


「ま、否定はしない。これが俺の本性だったってことだろ?まあ、相手が史華だからってこともあるだろうけどな。で、お前はどうしたいんだ?」


とりあえず俺のことはどうでもいい。

今はカズマがどうするかってことだろう。

公佳は意思表示してるんだから。


「カズマ。お前の気持ちもわからなくはないぞ。公佳を連れてれば他人の視線集めちゃうからな。でもさ、だったら尚更堂々とするべきじゃないか?お前が公佳にとってどんな存在で、どうして一緒にいるのか。」


「どんな存在で、なんで一緒にいるのか・・・ね。」

カズマは難しい顔で考え込んでいる。


「なあ、カズマ。ひょっとして公佳がダブルデートしたがってる理由ってこのことと関係あるか?」

「ああ、公佳としては俺にお前たちの仲睦まじいところを見せて刺激与えたいって思ってるんじゃないか?」


当て馬ってわけか。


「お前次第なんだよな〜。」


カズマは頬をかいて苦笑いだ。


「ま、親友のためだ一肌脱いでやるか。」


♢♢♢♢♢


「なあ史華。」


繋いだ手を離して距離をとってみる。


「あ・・・。」


突然のことに不安げな表情で俺を見上げる史華。


あ、これは俺がもたないや。


史華の腰に手をやり、身体ごと引き寄せる。


今度は驚きと羞恥で真っ赤な顔になってる。


コロコロ表情が変わってかわいい。


赤く染まった頬に軽くキスをするとジト目で抗議してくる。


「総士?」


「くくく。ごめんごめん。コロコロ変わる表情がかわいくてつい。恥ずかしい?」

史華の顔を正面から覗き込む。

側から見ればキスするように見えるかも。


史華も警戒態勢。

これには俺がジト目で抗議。


途端に史華がオロオロしだす。


「そ、総士?あのね、嫌とかじゃないんだよ?でも、見てる人からするとね?やっぱりいいものじゃないじゃない。」

小声で俺の説得を試みている。


「ふ〜ん。」


素っ気なく答えると少し涙目になってきた。

史華の右手を指を絡めながらしっかり握り、肩に史華の頭をくっつける。


「あ〜、ちからいっぱい抱きしめたい気分。」



「えっ?ね、ねぇ総士、さっきからどうしたの?なんな変だよ?」


「ごめんごめん。ちょっと休憩しようか。」

俺の機嫌が悪くないことに安心したような史華がこくんと頷いた。


♢♢♢♢♢


「へぇ〜、で、私が訳もわからず不安がっているのを見て楽しんでたって訳ね。」


「いや、史華それは誤解だぞ。」

すっかりご機嫌ナナメの史華だが、お気に入りの抹茶ラテを渡すと嬉しそうに微笑んだ。


「誤解ですか?総士はよく私の反応見て楽しんでませんかね?」


「まあ、反応見てたってことに関しては否定しないし謝るよ。ごめん。ちょっとカズマと公佳の関係がギクシャクしてるみたいで、解決方法を探してたんだ。」

「なんで私の反応?双子だから?」


まあ、妥当な疑問だよな。


「じゃなくてな。史華、公佳に俺とのこと結構話してるだろ?」


史華の顔色が変わり視線を泳がす。

あれ?形勢逆転?

ジーっと史華を見つめる。

チラチラこちらの様子を伺っているが、観念したように俯いたままこちらを向いた。


「ぅん。公佳がすごく聞いてくるからつい。えっと、ダメだった?」

そんな上目遣いで聞いてくるのは反則だと思うぞ。


「まあ、ダメじゃないけどさ。」

手を伸ばし史華の頭を撫でる。

本当は抱きしめたいくらいだけど、対面に座っているためテーブルが邪魔だ。

一応店内だし。


「でな、俺達が外で手繋いだりこうやって頭撫でたりしてることも話してるんだろ?公佳もそういうことをして欲しいらしいけど、カズマは恥ずかしくて出来ないらしくて。ちょうど俺達の反対みたいな感じだなって。だから史華の反応みたらカズマの気持ちもわかるかなって思ってさ。」


史華の頭を撫でながら理由を説明した。


「あ〜、公佳にすごく羨ましがられるよ。きっかけは、あ、あのキスしてるの見られてからなんだけど、公佳としてはイチャイチャしたいと言うか、自分に真っ直ぐに向き合ってくれてる感じがするんだって。」


頭を撫でてた手を握られテーブルの上に誘われた。


「私だって本当は恥ずかしいんだからね?でも公佳が言う通り、総士は私だけを見てくれてるのがすごくわかるから受け入れたいなって。」

「やっぱりうれしいし。」

繋いだ手の指を絡めながら微笑む史華を見ると、俺もうれしくなる。


「それで相談なんだけどな。公佳からずっとお願いされてるダブルデートを了解しようと思ってるんだけど、史華はどう?もちろんその前に2人っきりでデートな。」


「もう!またそうやって私の反応見て楽しんでるでしょ!公佳達とダブルデートなんて恥ずかしいけど総士がいいなら私もいいよ。でもね。」


少しなにかを言い淀んでいる。


「できればダブルデートの時はお手柔らかにね?」

まあ、やっぱり姉妹でダブルデートって恥ずかしいよな。

わかるよ史華。


「まあ、理解はできる。じゃあそのかわりと言ってはなんだけど、2人っきりの時はいつも以上にするから覚悟しとけよ。」


史華の顔が赤く染まっていく。


「ふぇ?」


「ついでに、お泊まりしような?」


まあ、無理だとは思うけど、


あ、史華が固まった。


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