第46話 デジャヴ

「お邪魔しました。また来ます。」


お義父さんに挨拶をしてから玄関に向かった。


「お義母さん、お姉さん。今日はありがとうございました。ご飯も美味しかったです。今度は私も一緒に作らせて下さいね。」

やっぱりちょっと悔しかった。

香澄ちゃんはお手伝いしてたのに私は蚊帳の外。

もっとお義母さんともお姉さんとも仲良くなりたいな。


「今日はありがとうね。史華ちゃん、またいつでも遊びに来てね。もっと史華ちゃんのこと教えてね。」

お義母さんの笑顔が優しくて、私の心の中のもやもやを少し晴らしてくれました。


「はい。私にもお義母さんのこと、もっと教えて下さい。」


「あと、よければ総士さんの好きな料理を一緒に作りたいです。」


一瞬驚いた顔をしたお義母さんだったけど、

「うん。今度、纐纈家の味を伝授しちゃうから楽しみにしててね。」

と得意げな顔で言ってくれました。


「史華、行くぞ。」


総士に急かされてしまったので、


「あ、うん。じゃあお義母さん、お姉さんおやすみなさい。」

「史華ちゃんも気をつけてね。狼さんにね。」


それまでおとなしかったお姉さんが最後に茶化してきました。


「男は狼だろ?何の問題もないじゃんか。」

総士はため息混じりでお姉さんに言ってますけど、武士は食わねど高楊枝って言事もあるからね?


「じゃあ、史華ちゃん。今度は家にも遊びに来てね。」

香澄ちゃんが隣家の扉を開けて手を振ってくれました。


「香澄、今日は手伝いありがとな。おやすみ。」

「そうちゃん。武士は食わねど高楊枝って言事もあるからね?」

同じこと考えてたね。


エレベーターに乗ると総士がいつものように右手を握ってくれた。

「総士。私、お義父さんとお義母さんに会えて良かったよ。今度は総士も一緒にお話ししようね。」

総士の肩に頭を預けると右手で撫でてくれました。


「姉貴が茶化してくるのはウザいけどな。」

お互い顔を見合わせると笑みがこぼれる。


「史華。」

「うん?」


「そう言えばまだデートらしいデートできてないよな。この前の祭りくらいだろ?たまに土曜試合で日曜休みになる時があるんだ。それに合わせてどこか行かないか?」


「行きたい。デートしたいな。いつくらいになりそう?」


基本的に総士は平日2日と土日は練習。

練習のない日はバイトを入れてるので、遊び暇はなかなかない。


「たぶん、月末には行けると思う。でも一つ問題があってな。」


「うん?」


総士は私を指差しながら、


「こんなかわいい史華とデートしに行けるような服がないんだ。なんで練習なしの平日のバイト前に買い物付き合ってくれ。ファッションなんてものに興味がないもんだからよくわからん。」


総士は頭を掻きながら照れ笑いを浮かべてる。

総士はバイトに毎日のように入ってるから収入は高校生にしてはいいほうだと思う。

でも、全く無駄遣いをしない。


バイト代は生活費、クラブの活動費、スパイクをはじめ練習に必要な物を買うのに充てているみたい。


部屋にあまり物がないのもその性格の現れでしょうね。


「私好みに仕立てちゃうからね?拒否権はないよ?」

総士の腕に抱きつきながら顔を見上げる。


「どんな格好させる気だよ。まあ、仰せのままにってやつだな。」


不意に総士にキスされた。


「・・・ねぇ?前から思ってるんだけどさぁ。総士ってキス魔だよね?」

そう、総士は所構わずキスしてくる。

そのせいでこの前は公佳に見られちゃったし。


「ん?そうなのか?誰かと付き合うなんて初めてだからよくわからんな。嫌か?」


ちょっと不貞腐れちゃったかな?


「嫌じゃなくてね。恥ずかしいの。この前も公佳に見られた時なんて心臓バクバクだったもん。は外でそんなにしないと思うんだけどね?」


「そうか。」


あれ?やっぱり不貞腐れてる?ちょっと機嫌損ねちゃったかな?


いつもなら総士と一緒にいて、会話がなくても気にならないんだけど、今は総士の態度が気になる。

腕を抱きしめる力を少し強めて総士の顔を見上げるけど、視線が合わさらない。


いつもなら必ず視線が合うのに。


ん〜?やっぱり機嫌悪いのかな?

何か気に触るようなことしたのかな?

キス魔?確かに言われてうれしい表現じゃないけど、総士がそんなことで怒るとは思えないし・・・。


そんなことを考えていたら家に着いてしまった。


「あ、あれ?」

戸惑う私を総士は不思議そうに見ている。


「じゃあな史華。おやすみ。」


「えっ?」

いつもなら少し話してからキスしてバイバイなのに・・・。


踵を返して帰ろうとする総士の腕を掴み、


「待って!」


私は気が動転し涙を流してしまった。


「お願いだから待って。」

総士はなんとかとどまってくれた。


「どうした?」

泣き出してしまった私の顔を覗き込み、頬を優しく撫でてくれた。


「ごめんね総士。なんで怒らせちゃったかわからないの。でも私が言ったことが総士を怒らせちゃった。今の総士はいつもの総士じゃないもん。」


「いや、別に怒ってないけどな。ただそんなに外でキスしないって言われてし過ぎだったのかな?って反省はした。俺は史華みたいにがまだわからないからな。」


あ、そうか。私が何気なく使った言葉で総士に誤解を与えちゃったんだね。


「あのね総士。私だって男の子をこんなに好きになったのは初めてだし、お付き合いするのも初めてだよ?確かにちょっと誤解しちゃう言い方だったかもしれないけど私が経験した普通じゃないからね。だって私が経験したは総士の普通と一緒だもん。」


不貞腐れた総士に少しムッとしてきた私は詰め寄るように説明した。

そのせいで総士の顔は目の前にある。


総士はふっと笑みをこぼし、私を捕まえるとそのままキスをしてくれた。


「じゃあ、これが史華の普通でいいか?」

「・・・普通だけど、本当は恥ずかしいからお手柔らかにしてね?」

わざと不貞腐れ気味に総士に答え、今度は私からキスをした。


「ガラっ。」


窓を開ける音の方に私達は目を向ける。

キスをしたままで。


「あら。史華?お帰りなさい。」


お、お母さん⁈





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