第44話 聖川家のリーサルウェポン
「お邪魔します。」
「史華ちゃん、いらっしゃい。」
香澄ちゃんが笑顔で迎えてくれた。
「今日の香澄ちゃん、かっこいい。」
料理をしていたからかな?いつもは下ろしている髪型はポニーテールにし、白地のTシャツにデニムのショートパンツというシンプルなコーディネート。
スタイルのいい香澄ちゃんにはなんでも似合うとは思ってたけど、こう言ったシンプルなファッションをしていると香澄ちゃんの綺麗さがいっそう引き立てられている。
「かっこいい?そうかな〜?」
香澄ちゃんはお姉さんに目配せ。
『そう?』とでも聞いてるみたいだ。
「史華ちゃんはやっぱりかわいいね〜。総士が見たら襲われちゃうね〜。」
お姉さんは私をまじまじと見ながら呟いています。
「むむ!たしかにかわいい。」
香澄ちゃん。そんなに頬を膨らませないで。
「史華ちゃん、香澄はほっといてこっちにおいで。」
お姉さんが奥の部屋に案内してくれようとしましたが、私は1番にしたいことがあります。
「お姉さん、最初にお義父さんにご挨拶させてもらえませんか?」
『チンチーン』
お義父さんの遺影を見ると、総士よりもお姉さんの方が似てる気がする。
「お姉さんはお父さん似なんですね。」
遺影とお姉さんを見比べる。
でも笑い方は総士が引き継いだのかな?
「お母さんよりはお父さん似って言われるかな?」
お姉さんは懐かしむように遺影を眺めている。
「隆司おじちゃんはね。私の初恋の人なんだ。」
後ろに座っている香澄が遺影を撫でながら教えてくれた。
ちょっとびっくり。
「総士じゃないんだ。意外。」
「小さい頃はね"おじちゃんのお嫁さんになる"ってよく言ってたのよ。」
お義母さんが笑顔で私の隣に腰を下ろした。
「隆司さん、総士の彼女が来てくれたよ。かわいい子でしょ?総士もやるわね〜。」
「隆司おじちゃん、ここにもかわいい子がいるよ〜。」
お義母さんと香澄ちゃんが私を挟んでお義父さんに話しかけている。
「ほらほら。さっさと支度終わらせちゃおうよ。ここからは史華ちゃんにも手伝ってもらうからね。」
お姉さんがみんなをリビングへと促していきます。
その時、私の目の前には代表のユニフォームを着ている試合中の総士の姿が写し出された。
リビングの壁紙に大きく引き伸ばされパネルになっている総士の写真と背番号21、KOKETSUのネームの入った代表のユニフォームが額装され飾られている。
つい立ち止まり見惚れてしまっていると、
「総士は嫌がったんだけどね。初めての代表だったし、私にとっては記念にしたいから無理やり飾ったんだよ。でも、いいと思わない?」
お義母さんの問いかけに私は、
「はい。すごいです。」
いつも私のそばにいる総士とは違う戦う姿。
「遠い人みたいに感じちゃうよね。」
私の気持ちを代弁してくれた香澄ちゃん。
「香澄ちゃんも?」
少し寂しげな表情で頷いた。
「私もさっき初めて見たときに思っちゃった。私の知らないそうちゃんだって。」
うん。そうだね。
「こらっ!なに言ってるの?その総士も、いつもの総士も同じ総士だからね。見た目で判断しちゃだめだよ。中身は一緒、あなた達が惚れた総士だよ。」
私と香澄ちゃんの肩を抱きながらお姉さんが諭してくれました。
「そうよ〜。史華ちゃん、さっき言ったばかりだよ。ちゃんと総士を信じてなさいよ。」
はい。もちろんです。
♢♢♢♢♢
時刻は16時。
晩御飯にはまだ早いと言うことでティータイムにしようとお義母さんから提案があった。
私はお店から持ってきた焼き菓子を出し、香澄ちゃんが紅茶を5人分用意してくれた。
「5人分?」
総士が帰ってくるのはまだまだ先。
テーブルに座ると来客を告げるチャイムが鳴った。
「帰ってきたみたい。」
お義母さんが玄関の扉を開けると、
「翔子ママ〜!」
ママ?泣き声かと聞き間違う程切なくお義母さんを呼ぶ声に、私は身を乗り出して覗いた。
「あらあら。外では何回も会ってたでしょ?もう中学生なのに相変わらず甘えん坊さんね。」
中学生?不思議に思いお姉さんと香澄ちゃんを交互に見る。
「うちの末娘よ。」
お姉さんが教えてくれたけど、総士に妹はいないはず。
怪訝に思い思案顔になってたんだと思う。
「聖川清香、中学2年生。私の妹だよ。」
なるほど。香澄ちゃんに妹がいるって話は聞いたことがある。
香澄ちゃんは綺麗系だけど妹さんはかわいい系だって。
「ただいま〜。」
清香ちゃんが元気にリビングにやってきた。
「お帰り清香。」
「綾ちゃん!」
清香ちゃんがお姉さんに抱きついた。
お姉さんは少し驚いたみたいだけど、優しく清香ちゃんを抱きしめた。
「清香、お姉ちゃんには?」
香澄ちゃんが覗き込むと、
「新鮮味がないからいい。」
バッサリと切り捨てた。
香澄ちゃん、ちょっと涙目だよ?
しばらくお姉さんに甘えてた清香ちゃんが私に気付いてキョトンとした顔をしてる。
本当にかわいい子
「はじめまして清香ちゃん。香澄ちゃんの友達の吉乃史華です。よろしくね。」
清香ちゃん中2だって聞いたけど、私とあまり身長が変わらない。
「あ。」
清香ちゃんはお姉さんから離れて苦笑い。
「恥ずかしいところお見せしました。聖川清香です。姉がいつもご迷惑をお掛けしています。」
「清香⁈」
深々と頭を下げる清香ちゃんと、納得のいかない香澄ちゃん。
「何?違うって言い切れるの?お姉ちゃんが周りに迷惑かけてるのはいつものことじゃない?」
「清香ちゃん、辛辣だね。大丈夫だよ、香澄ちゃんからはいつも笑いを提供してもらってるからね。」
私も清香ちゃんに乗っかってみる。
「ですよね〜。本人に自覚がないのがタチ悪いですよね。」
清香ちゃんと笑い合う。
「もう!史華ちゃんには迷惑かけないようにしてるもん。そんなことしたらそうちゃんに怒られちゃうし。」
香澄ちゃんは寂しそうに呟く。
それを聞いた清香ちゃんは思案顔。
「なんでお兄ちゃんに叱られるの?んんん?
史華さん。私ほどではないですけど、とってもかわいいですね。お姉ちゃんとは違うタイプ・・・。」
なぜか清香ちゃんの表情が強張ってきた。
「史華さん、一つ質問なんですがお姉ちゃんの友達がなぜここにいるんですか?」
あれ?さっきまで笑顔だったのに?
「私が招待したのよ。総士の彼女と話がしたいってね。」
お義母さんの話を聞いた清香ちゃんが俯き、身体を震わせている。
「き、清香ちゃん?」
様子がおかしい清香ちゃんに声をかけるが反応がない。
お義母さんとお姉さんは苦笑い。
香澄ちゃんは知らんぷりをしている。
「お兄ちゃんの彼女?史華さんが?お兄ちゃんに彼女ができたなんて聞いてないんだけど?お姉ちゃん?どういうこと?なんで私のお兄ちゃんに悪い虫がついてるのよ〜!」
え〜!悪い虫って・・・。
「清香ちゃん?自分がなんて言ったかわかってるよね?今の言葉、言っていい言葉かな?」
肩で息をしている清香ちゃんにお義母さんが鋭い声で問いただした。
「だって、お兄ちゃんは清香のお兄ちゃんだもん。お姉ちゃんの彼氏にもならなかったもん。私のお兄ちゃんを盗るなんて許せな 痛っ!」
「総士は清香ちゃんのものじゃないでしょ?今のは清香ちゃんが一方的に悪い。史華ちゃんに謝りなさい。」
さっきまでの優しいお義母さんではなく、間違いを犯した子供を叱るお母さんの顔になっている。
「でも。」
清香ちゃんは俯いて泣いている。
「清香。お姉ちゃんもフラれちゃった。姉妹仲良くフラれたね。大丈夫。まだまだ勝負はこれからだよ。」
香澄ちゃんは私に目配せしてから清香ちゃんを励ました。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんに彼女ができたのに諦めてないの?」
清香ちゃんは俯いたままだ。
「うん。だって私達まだ高校生だもん。」
それを聞いたお姉さんが私を見てきたので、私は苦笑い。
お姉さんは肩を竦めてる。
「うわっ!お姉ちゃんめんどくさ!」
え?
清香ちゃんは突然顔を上げて香澄ちゃんから距離をとる。
「なによそれ〜。」
香澄ちゃんは不満顔。
「まあ、お姉ちゃんはどうでもいいよ。史華さん。さっきは言い過ぎました、ごめんなさい。」
清香ちゃんは私に向いて頭を下げてきた。
「あ、ううん。気にしてないよ。」
「そうですか?じゃあ私も遠慮なくお兄ちゃんを籠絡しにかかりますね。」
清香ちゃんは私に宣言すると一転、
「翔子ママ、お腹空いた。そろそろ食べようよ〜。」とお義母さんにご飯を催促した。
「史華ちゃん、ごめんね。私でも清香には勝てないの。」
香澄ちゃんが涙目で私に教えてくれました。
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