第43話 ようこそ纐纈家へ

史華


バイト終わったよ

いまから向かいます

                  香澄

               お疲れ様♡

         駅に着いたら連絡してね


「急がなくちゃ。」


今日は総士のお宅にお呼ばれしています。

場所がわからないため、最寄りの駅まで香澄ちゃんが迎えにきてくれることになってます。


電車に乗り込み、ガラスに写る自分の姿を確認する。

総士のお母さんに初めてご挨拶するのに変な格好で行くわけには行かない。


「髪型は大丈夫。」

前髪をパパッと手で微調整。


今日はブラウンを基調としたシアーのフレアブラウスにリボンのついたキャメルのキュロットスカート。


香澄ちゃんみたいにスタイルが良ければいろんなファッションにも挑戦できるをだけどね。


駅前のロータリー待ち合わせだけど、バスでくるのかな?

周りをキョロキョロ見渡すけど、まだ来てないみたい。


『ププッ』


クラクションの音がしたのでチラッと見てみる。サングラスを掛けた女性が私を見ている。


「史華ちゃんよね?」


突然呼びかけられた。


えっ?ひょっとして。


「はい、そうです。」


車に駆け寄る。

サングラスを外した女性は微笑みながら、


「良かった。この前少し見ただけだったから不安だったけど合ってて良かったわ。初めまして。総士の母です。よろしくね。」


「初めまして、吉乃史華です。本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。」


総士はお母さん似なんだ。

つい、まじまじと見てしまい、


「そんなに見つめられると恥ずかしいよ。暑いでしょ?早く乗って。」


「あ、はい。失礼します。」

ついつい苦笑いをしてしまった。


「綾音が強引に誘ったんですって?急にごめんなさいね。ほら、打ち上げの時に史華ちゃんが総士を励ましてくれたって聞いててね。

しかもいまはお付き合いしてるって綾音が教えてくれたから、どうしてもお話ししてみたくてね。」


「ありがとうございます。私もお母さんにお会いできて嬉しいです。」


あれ?私変なこと言っちゃったかな?


お母さんが思案顔をしている。


「お義母さん。」


「え?」


「お義母さん。」


「お母さん?」


「違うわね史華ちゃん。いまの言い方は総士のお母さんって言い方してるでしょ。だめよ。お義母さんって呼んで。文字にすると分かりやすいわ。義の文字を入れるよ。じゃあ、はい!」


なんなの?纐纈家の恒例なの?


「お、お義母さん。」

ニュアンスの違いがよくわからないです。


「うん、及第点ね。こんなかわいい子にお義母さんって呼んでもらえるとうれしいわね。本当は香澄ちゃんが迎えに行くって言ってたんだけど、史華ちゃんと2人っきりで話したいこともあったしね。」


そう言うとお義母さんはウィンクしてきました。


「はい。お話しできる範囲のことでしたら。私もいろいろお聞きしたいことがあります。」

お義母さんが何かを考えてるみたい。

横顔を眺める。

やっぱり総士はお義母さん似。


「史華ちゃん。」

「ひゃい?」

不意に話しかけられたので、思わず変な声で答えてしまった。


「ふふふ。本当にかわいい子ね。とりあえずね、あまりかしこまらないでね。まだ会ったばかりだから仕方ないけど、徐々に打ち解けて欲しいな。」

総士そっくりの顔で言われてしまうと照れてしまいます。


「は、はい。善処し・・・がんばりますね。」


私もお義母さんと仲良くなりたい。それは紛れもない事実。

すでに娘同然の香澄ちゃんにはまだ敵わないけど、少しづつ私を知ってもらえばいい。


「うん。ね、史華ちゃん。香澄ちゃんの存在って気になると思うんだけどね?一つだけ覚えておいて。どれだけ香澄ちゃんが総士のことや私達のことを知っていたとしても、あなたは総士が選んだ人よ。そして、香澄ちゃんは選ばれなかったの。香澄ちゃんは私の娘同然なのは事実よ。でもね?1番大事なのはあなたと総士の気持ちだからね。不安な気持ちになったら正直に総士にぶつけなさい。あの子はしっかりと受け止めてくれるわ。私に話してくれてもいいからね?後で連絡先交換しようね。」


お義母さん、ありがとうございます。


「ありがとうございます。正直言って、私は自分に自信がありません。総士さんにしろ、香澄ちゃんにしろ、私の周りにはすごい努力して結果出してる人がいるのに、私には何もない。総士さんはとても優しいからつい甘えてしまいますけど、私は隣で一緒に歩いていたいんです。」


総士にも公佳にも言ったことがない心の葛藤。

総士は代表に選出されるくらいの選手。

それに比べて私には何があるの?

私は総士の隣にいていいの?


「史華ちゃん。今言った通りよ。迷ったら総士を信じなさい。総士は

に隣にいて欲しいのよ。あなたを支えにしてるの。あなたに笑っていて欲しいのよ。あなたがいるから頑張れるの。価値のない人間なんていないんだよ?史華ちゃんの1番身近な人を信じなさい。信じることがあなたの自信になるはずよ。」


「はい。」


お義母さんは私の頭を優しく撫でてくれました。

総士がいつもしてくれるように。


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