第42話 ただいま

「史華ちゃん。」


昼休み、纐纈せん・・・お姉さんに呼ばれました。


「お、お姉さん、どうしたんですか?」


学校では有名人なのでにわかに教室内に緊張が走る。


「総士から聞いてくれた?」

総士から?お姉さんな関する話しって何かあったけ?


「総士からですか?特に聞かされてないです。」

考えてみたけれど、やはり思い当たることがない。

そこに運がいいのか悪いのか総士が通りかかった。


「あ、総士!」

お姉さんが呼び止めました。


「なんだ、いたのか・・・史華。」

総士はお姉さんをスルーして私のところにやってきました。まあ、やるんじゃないかとは思ってましたけどね。


「総士?私を無視するなんてあんた偉くなったじゃない。」

「姉貴?悪い、小さくて見えなかったわ。」

お願いだからここで揉めないでよ。


そして、私の方が小さいからね?


「まあ、ここであんたを糾弾して注目を浴びるのは不本意だからまたの機会にするわ。」


お姉さんの登場ですでに注目を浴びています。

香澄ちゃんの注目のされ方とはまた違った類のもの。


みんな何かが起こるんじゃないかという期待を孕んだ目で見ている。


、総士に話したんだけどね。」


今朝でしたか。それなら聞いてなくても仕方ないです。きっとバイトの帰り道にでも話そうと思ってたんだと思いますよ?


「史華ちゃん、土日時間取れる?」


「土日ですか?今週は14時までバイトなのでそれ以降の時間なら大丈夫です。」


「そう?じゃあ家で晩御飯食べていかない?お母さんが史華ちゃんに会いたがってるんだよね。」


えっ?総士のお母さんが私に?

突然のことに驚き、総士を見る。

総士も私の視線に気づき肩を竦めて苦笑いしている。


「おい姉貴。今週末なんて聞いてないぞ。しかも俺はその時間バイトだし。せめて他の日にしてくれ。予めシフト調整するから。」


総士のお宅にお邪魔するのは緊張するけど嫌ではない。もちろんお母さんとも仲良くなりたい。でもさすがに総士がいない時って言うのは気が引ける。


「別にあんたなんかいなくてもいいでしょ。お母さんも私も史華ちゃんと話がしたいんだもの。」


「いや、それは史華がかわいそうだろ。猛獣の中に子犬が放り込まれたらどうなるんだよ。」

にわかに緊張する。総士のお母さんってどんな人なの?


「あ〜!綾姉がいる。そうちゃんまで!?」

その時、職員室に呼び出されていた香澄ちゃんが戻ってきた。


「あ、香澄。あんた土日暇でしょ?史華ちゃん招待したから晩御飯うちで一緒に食べなさい。」


「えっ?ちょっと綾姉。話が見えないんだけど?そしてなんで暇確定なの?これでも多忙を極めるJKだよ?」

香澄ちゃんはお姉さんの無茶振りに抗議している。


「たまには遊びにきなさい。お母さんも気にしてるから。」

一転、お姉さんが香澄ちゃんを見る眼差しはとても優しいものだった。


「・・・うん。でもね綾音姉。」


「でもじゃない!あんたいつから私に逆らえるほど偉くなったの?返事は"はい"だけ!」


暴君としか言いようがないですよ。


香澄ちゃんは頬を膨らませて抗議しているが、その顔がかわいい。


「・・・わかった。お手伝いするから連絡してね。」

逆らうことを諦めた香澄ちゃんはお姉さんに微笑んでいた。


「よし、じゃあ史華ちゃんも大丈夫よね?」


「あ、はい。私もお手伝いしますから早めにお伺いします。」

香澄ちゃんがお手伝いするのに私がしないわけにはいかない。


「史華ちゃん?気を使わなくてもいいよ。史華ちゃんは主賓。香澄はおまけ。」

そうは言っても私が総士の彼女なのに・・・?


俯いてしまった私の頭を総士がそっと撫でてくれた。


「・・・総士。」


は言い出したら聞かないからな。あれで姉貴は史華のこと気に入ってるから、今回は言うこと聞いてやってくれ。なるべく早く帰るから送ってくな。」


私が落ち込んでいるのを察してくれた総士に感謝だね。

そう思っていると、耳元に顔を寄せて


「それとも俺と一緒に寝てくか?」


それって!いや!いやいやいや!

それは、違うまだじゃなくてお母さんもお姉さんもいるのに!


恥ずかしくて顔が熱くなってきた。


「はははは。それはな。」


だ、だから〜!


♢♢♢♢♢


「こんにちは〜。」


お昼過ぎ、綾姉から連絡がきたのでお隣さんにやってきました。


「香澄ちゃん!!」


勢いよく開いた扉を間一髪躱すと、翔子さんがものすごい勢いで抱きついてきた。


「えっ?翔子さん?どうしたの?」


あまりのことに困惑気味の私に翔子さんは、


「香澄ちゃん、今までごめんね。あなたには何の罪もないのに。全然呼んであげられなくって。」

翔子さんは泣いていた。


そうちゃんと疎遠になってからはそうちゃんの家にくることはなかった。

それまではそうちゃんがいなくても翔子さんや綾姉に会いに来ていた。


「総士に会わせられないから。」


そう言われて私はここにくることがなくなった。


「翔子さん。私またこれて嬉しいよ。前よりもお料理できるようになったけど、前みたいに教えてね。」


そうちゃんの好きなご飯を作れるようになりたくて、よく教えてもらってたな。

あの頃は隆司おじちゃんもいて。


「ね、翔子さん。まずは隆司おじちゃんに挨拶してくるね。」


「わかった。お帰り香澄ちゃん。」

翔子さんがニッコリ。


「ただいま翔子さん。」

私もニッコリ。


♢♢♢♢♢


『チンチーン』


目を開き隆司おじちゃんの遺影を見つめる。

私の記憶のまま、優しい笑顔で私を見つめてくれる。


ウチの両親は仕事が忙しく、私と清香はよくここで預けられた。


綾姉とそうちゃんと4人でいつも遊んでいた。


隆司おじちゃんは私と清香も一緒に遊びに行ってくれた。


そうちゃん達がバイトしている


La Vecchia Signoraもよく連れて行ってくれた。


小さい頃、ナポリタンがお気に入りだった私はいつも口の周りを汚して隆司おじちゃんに笑いながら拭いて貰っていた。


「隆司おじちゃん。今まで会いにこなくてごめんね。」

背後からそっと抱きしめられる。


「香澄ちゃんは悪くないよって。隆司さんも会いにきてくれて嬉しいって言ってくれてるよ。」

翔子さんが潤んだ瞳で微笑んでくれた。


「感情に浸るのはその辺にして、買い物行こうよ。史華ちゃんが来ちゃうよ。」


綾姉が私達を覗き込みながら促してきた。


「よし!行こうか娘達!」


翔子さんが元気に立ち上がった。

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