第38話 香澄の受難

今日から新学期が始まり、休みボケ全開の私としては早く帰りたいわけなんですが、親友が恒例の告白タイムのために教室で待て状態です。


「史華、今日もバイト?」


隣の席に座り史華もお付き合いしてくれています。

「うん。今日は16時からね。」


元々綺麗な子だけど、休み中に磨きがかかったようで今日は一段と輝いて見える。

「あ〜、やっぱり恋する少女は美しいのね。」

思わず呟いた。


「え?ごめん。何て言った?」

スマホを見ながらニコニコの史華には私の存在が消えていたみたい。


「なんでも。独り言だよ。」


若干の嫉みを含みながら史華に微笑む。


「あ〜、そうか。これから香澄詣での数が増えるね。今でも毎日複数なのにこれからはリベンジ組も参加してくるのね。」


そう考えると香澄に同情する。

モテ過ぎるってのも考えものだね。


「香澄詣でって、でも上限はあるんだからそのうち減るんじゃない?」

史華の言いたいこともわかりけどね。


「香澄ちゃんのファンとしてはチャンスな訳じゃない?あれだけ騒いでた纐纈くんに彼女ができたんだから。そうすると香澄ちゃんも断る言い訳に困るでしょ?だから何回でも告白しにくると思うんだよね。」


まあ、当の香澄ちゃんは諦めない宣言してるけど、そこまで説明するのもね。

史華も関わってきちゃうから騒ぎが大きくなっちゃう。


「でも香澄ちゃん、そんなに態度変えないんじゃないかな?諦めないって言ってるんだもん。」

「いや、さすがに多少の遠慮はすると思うよ。史華がいるんだもん。」


逆に纐纈くんが史華とイチャイチャするようだと燃えるかな?

でも纐纈くんはそういうタイプじゃなさそうだしね。


ん?


「よう。」

「噂をすればなんとやらだね。」


纐纈くんが廊下から史華に頭ポンをしている。


「総士?時間大丈夫なの?」

あらま、すでに名前呼びになってるの?

しかも何よ、そのとろけそうな史華の顔!

幸せ全開じゃないの!


「まあ、史華の顔見てから行こうかなって思ってさ。香澄はいつものか?」

あ〜、認識不足だったわ。

纐纈くんかなりのたらしだったのね。

これ他の男子が見たら史華の人気急上昇だよ。

せっかくだから『パシャ』。

うん、かわいい顔してる。


「ちょっと雅?なんで写真撮ったの?」

真っ赤な顔して史華が抗議してくる。

纐纈くん、そろそろ手離さない?

周り見ようよ。

教室を見渡してみると何人かがこちらを凝視している。

げっ!運が悪いことに白石くんが残ってる。

後で厄介なことにならなければいいけどな〜。


「史華?」


「何よ?」


史華が上目遣いで睨んでくる。

真っ赤な顔のままで。


「か・わ・い・い・ね♡」


「◎△$♪×¥●&%#?!」


史華。声になってないよ。

そんな史華を纐纈くんが覗き込む。


「そうだな。照れてる史華もかわいいな。」

いや纐纈くんよ。今度は私も声にならないわ。

何よこのイケメンキャラ。

彼女に対してはこんなに可愛がるのね。

あ、違うか。

元々素で女の子にかわいいって言える人だったか。


「史華。苦労しそうね。」

幸せそうな顔をした史華を見る。

史華は苦笑いを浮かべてる。

"理解してる"ってね。


「お待たせ〜、やっと解放されたよ。」

香澄ちゃんがぐったりした顔で戻ってきた。


「忙しそうだな。」

史華の頭を撫でながら纐纈くんが香澄ちゃんを労う。


「そうちゃん?」

教室に戻ってきたときは気づいてなかったのか、香澄ちゃんが纐纈くんを凝視する。

そして、右手をじっと見つめる。


「そうちゃん。私は今とっても精気が削られています。早急に補給する必要があるのです。

だからとして、史華ちゃんと同じ扱いを要求します!」


うん?ここで纐纈くんに頭ポンをやれと?

みんなのいる教室で?

史華のいる前で?

いやいや、さすがの纐纈くんでも・・・

あ、やるのね。


「これでいいか?」

纐纈くんは左手を香澄ちゃんの頭の上にポンと置いた。


「えへへへぇ〜。うん。そうちゃんエキスを注入してね。」

史華同様、とろけそうな笑顔。

周りの男子が見惚れてるよ?


でも纐纈くん、史華がいるのによくやるね。


あ、さっきまで史華の頭の上にあった右手で頭を撫で回したり、頬に触れたり史華を堪能し出したね。

史華も引き続きとろけそうな笑顔だね。

それにしても纐纈くん。

美少女2人を撫でるだけでこんな顔にするなんて。


「むっ。そうちゃん、私と史華ちゃんの扱いが違う。幼馴染はなんだよ?」


香澄ちゃんは史華との扱いの違いに気付いたらしく、纐纈くんに抗議している。


「はあ?そりゃ違うに決まってるだろ?文句があるみたいだから終了〜。そろそろ時間だから行くわ。」


纐纈くんは香澄ちゃんの頭から手を下ろし、史華の頭を愛おしそうに撫でてから帰ろうとした。


「も〜!そうちゃんのイヂワル!」

文句を言いながらもうれしそうだね香澄ちゃん。


「総士。」

史華が纐纈くんを呼び止めて、声を出さずに

『が・ん・ば・っ・て・ね。』と口パクした。


「おう。」

纐纈くんはニッコリと笑いながら階段を降りて行った。


「あ〜あ、行っちゃった。」

香澄ちゃんが呟きながら机に突っ伏した。


「なに甘えてるのよ。」

さっきまで纐纈くんが立っていたところに、綾音さんがいた。


「綾姉、そうちゃんエキス注入してもらってたの。」

香澄ちゃんは気怠そうに綾音さんに答えた。


「ふ〜ん。香澄のくせに生意気な態度だね。」

綾音さんは香澄ちゃんの両頬をつねった。


「ひ〜ん。あやねぇ、いひゃいいひゃい。わはしがわりゅかったからはにゃして。」

美少女台無しだね。


「わかればいいのよ。ところで史華ちゃん。

香澄とは違って総士とただならぬ雰囲気を感じたんだけど何かあった?」


「むっ!」

香澄ちゃんが頬を膨らませながら綾音さんを睨んでいる。


「香澄?」

「は、はい。ごめんなさい。」

香澄ちゃんもには勝てないみたいだね。


「で、史華ちゃん?どうなの?」

「あ、はい。実は弟さんとお付き合いさせていただいてます。」

史華は緊張気味に綾音さんに答えた。


「お姉ちゃん。」

「えっ?」

綾音さん?


「お姉ちゃん。」

言われてる史華は困り顔。


香澄ちゃんが史華に耳打ちをしている。

「お姉ちゃんって呼べってことだよ。」

「えっ?さ、さすがにそれは無理!」


「史華ちゃん?なんで無理なの?じゃあとりあえず練習してみよう。いい?私の目を見ながら言うんだよ?はい"お姉ちゃん"」


「うっ、あ、綾音さん。」

綾音さんは不満顔。


「お姉ちゃん。」

「む、無理ですよ〜。」

無言で史華を見つめる綾音さん。


「お姉ちゃん。」

「お、お姉さん。」


「ん〜、それだとよそよそしいんだよね。まあ、でもしょうがないか。これからはお姉ちゃんって呼んでね♡じゃあ私もそろそろ行くね。」

嵐は去ったかと思ったら、


「香澄。これから今までより大変になると思うから困る前に連絡しなさいよ。総士も必ず助けてくれるから遠慮しちゃだめだからね。」


綾音さんは去り際に香澄ちゃんにウィンクをして行った。


「綾姉、ありがとうね。」

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