第35話 太陽と月

「史華、好きだよ。」


花火の音が聞こえないくらい、総士の声ははっきりと聞こえた。

私は総士を見つめた。


「本当に?私?公佳じゃないよ?」

「当たり前だろ?史華を吉乃と照らし合わせたことなんてないぞ。いつも優しく笑ってくれて、俺の背中を押してくれた史華が好きなんだよ。」

珍しく総士も顔が赤い。


花火はまだ上がっている。


私は総士の首に腕を回し、耳元に口を近づけた。


「私も総士が好き。総士じゃないとだめなの。私を総士の彼女にしてくれる?」

側から見ると大胆な格好をしているね。

総士は両手で私の腰から抱き寄せ、


「もちろん。史華がいいんだ。」


私達はお互い照れながらも抱き合いながら見つめてた。


ふと総士の顔が近づいてきて、唇が触れ合いそうになったので、


「ちょっ、さすがに待って。人がいっぱいいるから。恥ずかしいよ。」

総士の口を両手で防いだ。


「すでに手遅れだけどな。」

総士が苦笑いしながら周りを見渡した。


周りはカップル率が高いが、それでも私達が注目を浴びている。

私は一旦、総士から離れてから改めて左手を握り、肩に頭を預けた。


私の心の中の幸福感に、僅かな罪悪感が生まれてきた。


「香澄ちゃん。」


「ん?気になるか?」


だって、香澄ちゃんは友達だもん。

「うん。どうやって話そう?」

たぶん罵倒されたり無視されたりはないと思う。私は香澄のことも好き。

できれば友達のままでいたい。

でも香澄ちゃんは・・・。

雅もわからない。


「史華。心配するな。俺が話すよ。」

総士は安心させるように私の頭を撫でた。


「ううん。私からちゃんと話したい。雅にも。」

大丈夫。きっと大丈夫。


♢♢♢♢♢


今更のことなんだけど私達、連絡先を交換していませんでした。


「今までは公佳経由だったもんね。ホットダイヤルの開通です。」


2人でスマホをフルフルした。

お互いのスマホにはさっきプレゼントし合った太陽と月のスマホケースが取り付けてある。


「なんとなく連絡とれてたからな。これで授業中でも連絡できるな。」

「一応、校内でのスマホは使用禁止だから気をつけてね。あと、授業はちゃんと受けようね。」

どこまで本気で言ってるのかわからないけど、付き合ってから成績が落ちたとか言われたくないからね。

特にサッカー。

健康面とか精神面で手助けできることがないか公佳に相談してみよう。


「なんか難しいこと考えてるな?史華、一つ一つ約束な?お互いのことを支えたいのは俺も同じ。だからこそ無理をしない。相談をする。嘘をつかない。優しい嘘なんていらないからな。厳しい現実突きつけてくれ。」


「お互いにね。」

結局、総士は私に甘い気がするんだよね。

優し過ぎるんだよ、みんなにもね。


いつもと同じバイトの帰り道。

いつもと違うのは総士との距離と感じる温もり。


♢♢♢♢♢


「ただいま。」

玄関を開けるとそこにはアイスを咥えた公佳がいた。


「お帰り、お祭りデートだったの?」

ちょっと茶化し気味の妹はノースリーブに短パンというリラックスモード。


「うん。場所も時間もバイト帰りにちょうどいいからってが誘ってくれたの。」


「へ〜、デートを否定しないんだ。うんうん。成長したねぇ〜。」

今更そんなことで突っ込まないよ。

それよりも突っ込みポイントがあったのにね。

私は靴を揃え、とりあえず自室に行こうと階段を昇りはじめると、


「え?うん?ちょっと待って史華。今、なんて言った?」

あ、やっと気づいた?

「バイト帰りにちょうどいいからって?」

これじゃないよね?


「違う!その後!誰とデートだったの?」

公佳がものすごい勢いで詰め寄ってきた。

さすがサッカーやってるだけのことはあるね。


「今更だね?そうだね。とりあえずお風呂入ってからゆっくり話したいな。」


♢♢♢♢♢


「と、いうことでね。総士と付き合うことになったの。」

「史華⁈」

え、っと史華がお風呂から上がるのを史華の部屋で待っていた。


                キミカ

    史華と付き合うことになったって?


コウくん

おう、さっき告白した。


      そうなるといいなって思ってた

          けど予想より早いよ?


予想すんなよ。

てか賭けてね〜だろうな?


         え?いやだなコウくん。

           ちょっとだけだよ?


主犯は誰だ?    

            主犯ってやだなぁ

お前だろ?

             コウくんからに

               賭けました


なんて妹だよ

             あ、史華がきた

            コウくんまたね♡



♢♢♢♢♢


「良かったね。やっぱりコウくんから?」


「う〜ん。確かにそうなんだけど、この前の打ち上げの時にちょっと告白まがいのこと言っちゃったんだよね。だから私の気持ち自体はすでにバレてたよ。」

一生の不覚ね。


「で、その見たことないスマホケースはプレゼント?」

公佳は目を輝かせながら覗き込んできた。


「どうせ隠してもすぐにバレちゃうから言うけどね。お祭りの露店で見つけたの。私が太陽のスマホケースを買って総士にプレゼントしたの。で、私はこれをプレゼントしてもらったの。」

ごめん公佳。そのニコニコの顔、ちょっとうざいよ?


「うんうん。そうかそうか。さっそくラブラブなわけね?お姉さんもうれしいよ。」

「私がお姉さんだけど?」


♢♢♢♢♢


史華ちゃん


香澄ちゃん

明日時間ある?

                  香澄

         明日?午前中ならいいよ


じゃあ少しお茶しない?

9時半に駅前でどうかな?

         

                  了解

          おめかししていくね♡


楽しみにしてるね

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