第34話 夏祭り
「お疲れ様でした。」
バイトが終わり私はコウくんの後についてお店を出ました。
辺りはすっかり暗くなってきているけど暑い。
ひょっとしたら私だけが特別熱を帯びているんじゃないかな?と思うくらい顔が火照っているのがわかる。
そんな私の様子をコウくんは優しく見守ってくれているかのようです。
「家には連絡した?」
「うん。お母さんに連絡したよ。」
「デートしてくるって?」
さっきまでの優しいコウくんではなく、少しいじわるなコウくんの登場です。
「お、お祭り見てくるって。」
「誰と?」
「聞かれてないもん。」
いつもコウくんが送ってくれてるの知ってるんだから勘付いてるよ?
あ、またコウくん笑ってる。
私がこういう話に免疫がないからってすぐにいじわるするんだから。
相手はアナタなんだよ?
コウくんは生粋のたらしだ。
きっと私の気持ちだって気付いてるんでしょ?
ずるいよ、自分だけ余裕で。
そりゃあ、あの香澄ちゃんをいつも相手にしてるわけだから慣れてるでしょうけど、私はアナタの一挙手一投足に一喜一憂してるのに。
「お〜、結構人いるな。とりあえず何か食べようか。小腹空いた。」
正直なところ、胸いっぱいで食べれる気がしないよ。でもコウくんは昼間練習してきてるしね。
「史華、何食べたい?」
「ふ、ふぇ!?ふ、史華って。」
突然名前で呼ばれて思考停止。
「ん?デートだって言っただろ?で、どうする?たこ焼きでもいい?」
「・・・。」
「お〜い、史華?たこ焼きでもいいか?」
あ、史華?私、史華。
デート?え?デートっていう設定?
そう、設定。・・・設定なんだよね。
「うん、コウくん。たこ焼き食べようか。」
「・・・?」
「コウくん?」
ん?コウくんが反応してくれない。
聞こえてるよね?
「ねぇ、コウくん?」
「ん?何?」
コウくんがわざとらしく耳に手を当てている
"聞こえない。"
え?何この反応は?
ま さか?え?まさかだよね?
「史華、デート。」
え〜!まさかの名前呼び請求?
「ねぇ?まさかと思うけど呼び方?」
恐る恐るコウくんに確認すると、爽やかな笑顔が返ってきた。
名前!ソウくん?そうちゃん?総士くん?どれもハードル高いよ?
「ソ、ソウくん?」
「・・・。」
「そうちゃん?」
「ない。」
「はい。」
「総士くん?」
「おしい!」
「・・・総士。」
「もう一回。」
も〜!いじめっ子全開じゃないの!
「もう!総士、たこ焼き食べよう。」
恥ずかしさよりも憎さが勝ちました。
「はいはい。じゃ買いに行こう・・・っと、史華危ない。」
知らない間に自転車がすぐそばを通り抜けようとした時に、総士は私の腰を抱き寄せ、そのまま胸に頭を預けた。
「あぶね〜な。当たってないか?」
総士は両手で軽く私の肩を押し、顔を覗き込んできた。
「だ、大丈夫。・・・じゃない。大丈夫じゃない!だからちょっと待って。このままちょっとだけ待って。」
今の顔を見られるわけにはいかないよ。
私は総士の胸の中に顔を埋めた。
「ちょっとだけ貸して、総士。」
♢♢♢♢♢
緊急だったとは言え、史華を抱きしめてしまった俺はさすがに気まずい雰囲気に動揺していた。
史華も同じらしく、顔は真っ赤のままだ。
焦点も定まってないらしく、あっちをキョロキョロ。こっちをキョロキョロしている。
「あ〜、史華?さっきは咄嗟だったとは言えごめん。一歩間違えればセクハラ案件だな。」
自分で言いながら苦笑い。
「ううん。注意不足だった私が悪いんだよ?総士は悪くないよ。ちょっとびっくりしただけでセクハラだなんて思ってないからね?」
真っ赤な顔で上目遣いで言われるとなんとも言えない。
「やばいな〜。」
「え?何が?」
あ、心の声が漏れてた。
「独り言だよ。」
「うん。」
今日は自分の気持ちを確認したくて史華を誘ったけど、想像以上に落ちてるな。完落ちどころの騒ぎじゃないや。
この子が他の奴と一緒にいるところなんて想像したくもない。
たこ焼きを買い、寺の境内で2人並んで食べた。
熱々だったために、史華がハフハフとしながら食べてる姿が愛おしいかった。
それからはいろいろな露店を見て回った。
食べ物メインだった俺とは違い、史華は小物類に魅入っていた。
「あ。」
史華が一つの露店の前でしゃがみ込んだ。
「どうした?」
史華と同じようにしゃがみ込むと、そこには太陽と月がモチーフのペアのスマホケースがあった。
「へぇ〜、綺麗だな。」
「うん。この太陽は総士のイメージに合うね。」
史華が太陽のスマホケースを俺に見せながら微笑む。
「この月は史華だな。暗い夜空を柔らかく照らしている。」
俺も同じようにスマホケースを史華に見せる。
お互い同じことを考えたみたいだ。
俺は月のスマホケースを、史華が太陽のスマホケースを買ってお互いにプレゼントした。
祭も終盤。そろそろ花火が上がる時間帯になり人集りは更に激しくなってきた。
「史華。」
俺は史華の右手を握り、そのまま側に引き寄せた。史華の顔はまた赤くなっている。
史華の手を引きながら歩いていると、
「あ、吉乃さん?えっと公佳ちゃんの方かな?」
浴衣姿の女性に史華が声を掛けられた。
「吉田さん、久しぶり。史華よ。」
どうやら2人の知り合いらしい。
「あ、ごめんね。すごく優しい笑顔だったから公佳ちゃんかと思った。」
裏を返せば史華は優しい笑顔をしてないことになる。
確かに出会った頃はポーカーフェイスが多かったように思う。
でも最近ではいろいろな表情を俺に見せてくれる。
信頼の証ってことだよな?
「史華、行こうか。」
多少強引だったが手を引き歩き始めた。
「ありがとう。あの子、ちょっと苦手だったの。」
苦笑いで教えてくれた。
河原に着くと同時に色とりどりの花火が打ち上げられはじめた。
「綺麗。」
史華は目を輝かせながら花火を見ている。
俺はと言うと、そんな史華に見惚れていた。
しばらく史華を見ていると、俺の視線に気付いたらしく、史華がこちらを見てきた。
「ん?どうしたの?」
見られていたのが恥ずかしかったのか、史華は訝しげに俺を見てきた。
「ん?史華に見惚れてました。」
「も、もう!またそういう思わせぶりなこと言って!私が勘違いしたらどうするの。」
あらら、史華が俯いてしまった。
「勘違いじゃないよ。」
「え?」
花火の音に邪魔されないように、俺は史華の耳元に顔を寄せて、
「史華、好きだよ。」
勘違いの余地がないように告白をした。
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