第33話 急接近

「コウくん、お疲れ様。」

全体練習終了から30分後、コウくんが荷物を持って出てきた。


「吉乃さん。今日は暑かっただろ?ちゃんと水分補給した?」

疲れてるのはコウくんのはずなのに見ていただけの私を気遣ってくれる。


"嬉しいな。"


「コウくんの方が疲れてるでしょ?はい、変わりばえしない差し入れで申し訳ないけど、いつもの。食べて。」

私はレモンの蜂蜜漬けが入ったタッパーを手渡す。

コウくんはそれを受け取り私の隣に腰を下ろす。


「申し訳ないのはこっちなんだけど。いつも差し入れありがとな。って、また飛鳥か。食べ過ぎだろ?」

コウくんはフタを開けて苦笑している。


「ちょっと?なんでピンポイントで私な訳?公佳かもしれないじゃん!」

飛鳥が私の後ろからコウくんに抗議している。これも最近では定番のやり取り。


「お前しかいないだろ?」

「うっ。」


飛鳥はフランクな性格だから誰とでも仲良くおしゃべりできるけど、コウくんとは仲睦まじい感じがする。あれ?私嫉妬してる訳じゃないよ?


「ほらほら。2人が仲睦まじい話してるから史華がヤキモチ焼いてるよ?」

公佳?双子だからってテレパシーはやめて?


「にゃ、にゃにを言ってるの。」

盛大に噛んだ!動揺してないようにしたのに。公佳のバカ!


「やだフミ。私はフミのことが好きよ。」

飛鳥、ありがとう。だからって抱きつかないでね。

「ん?ねえ飛鳥。また大きくなったんじゃない?」

抱きついてきた飛鳥から今までにないを感じ、その場所を見る。

「女の敵だね公佳。」

「同意するよ史華。」


私と公佳は飛鳥の成長著しい胸を見つめる。


「ちょっと!やめてよ変態姉妹!確かにワンサイズ上がったけど、コウもいるんだから自重しようよ。」

飛鳥は顔を赤くしながらも私達に抗議してきた。


「あ、コウくん。失礼しました。」

恨めしさから完全に失念していました。

飛鳥じゃないけど私も恥ずかしくなってきた。変な奴だって思われちゃったかな〜。


「へぇ〜。吉乃さんでもそう言う話しするんだ。なんか親近感湧くな〜。」

「コウくんもエッチだもんね。」

え?そうなの?

でもコウくんってどういうことよ。


私は公佳にジト目で無言の抗議をした。


「エッチって、それくらいは健全な男子高校生なら普通だろ?しかも、飛鳥くらい可愛ければ注目されてるし。実はすでに男子の間で噂になってたりするし。」

「え?なんでそんなことで噂話してるのよ!う〜!変態どもめ!全く!」

飛鳥は湯気が出てきそうなほど真っ赤になっている。 

でも私は別のことが気になってしまった。

コウくんが飛鳥をかわいいって。

やっぱりコウくんはたらしだね。


練習場をあとにして、私達はバイトに向かっている。

学校がないときはコウくんも徒歩で来ている。自惚れかもしれないけど私に合わせてくれてるのかな?

コウくんの顔を見ながらそんなことを考えていたら、突然目が合った。


「ふぇ?」

びっくりして間抜けな声を出してしまった。


「なにそのかわいい声。」

コウくんがクスクス笑っている。


「もう!どうせちびっこですよ。」

たまに小さいことをネタにしてくるので私も頬を膨らませて顔を背ける。


「まあまあ。」

言ってるそばからこの人は!

もう、頭を撫で撫でしてもう!


「で、吉乃さん、なんでそんなに顔赤いの?日焼けしちゃった?」

「えっ?あ、赤いかな?うん、今日暑かったから日焼けしちゃったかもね。」

そんなことを言われると恥ずかしくて顔見れないよ?

最近のコウくん、少し意地悪だと思います!


「なあ、吉乃さん。今日バイト終わってから少し時間取れる。」

さっきまでとは違い緊張を孕んだ表情。

私は訳がわからないので恐る恐るコウくんを見上げる。


「ぷっ。ごめん。別に取って食おうってわけじゃないから緊張しないで。今晩祭があるらしいから一緒に行かない?」

お祭り?そう言えばポスターが貼ってあったね。


「うん。行く。」

うれしい。デートじゃないけど一緒にどこか行くなんて初めてだね。


「あ、これ一応デートだからね。」


また私の顔は真っ赤になってることでしょう。

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