第30話 心の中の告白

料理が会場に運び込まれ打ち上げが始まった頃にコウくんは会場に姿を現した。


公佳はポーカーフェイスだと言ってたけど、いつもより表情が固い。

纐纈先輩とお母さんらしき女性が近づいていき言葉を交わしている。

しばらく話してたみたいだけど、コウくんは一旦会場を出て行った。


少し、ううん、少しじゃないね。

コウくんのことが気になってしまい食事を摂る気になれない。

10分くらいするとコウくんが会場に戻ってきた。


「コウくん!」


私は入り口付近で佇んでいたコウくんに声をかけた。


「よう。来てたんだな。」

コウくんは作り笑顔で私に話しかけてくれた。


「おかえりなさい。準優勝おめでとう。」

「おう、ありがとうな。」


どう見ても覇気がない。

言葉の端々からため息が聞こえてきそうだ。


「全試合出場だったんだって?1年生なのにすごいね。」

「カズマもだよ。特別俺がすごい訳じゃないよ。」


違う


「でも3点も獲ったんでしょ?攻撃の選手じゃないのに。」

「フリーキック蹴らせてもらってるからな。反則もらったやつのおかげだな。」


違う


「大会ベスト11にも選ばれたんでしょ?」

「優勝できなきゃ意味ない。」


違う!


「コウくん?」

バシッ!


「いって!」


私はコウくんの背中を思いっきり叩いた。

それは会場中に響き渡るくらい激しい音で。


「コウくん?優勝できなかったのは自分のせいだって思ってる?」

私はコウくんに聞こえる程度の声で話しかけた。

「・・・。」


「コウくん?決勝戦で負けて、誰かコウくんを責めた?」

「・・・いや。」


「コウくん?決勝戦までの試合で何点獲った?」

「・・・3点。」


「コウくん?試合中に全くミスしない人いた?」

「いないな。それはチャレンジしてない証拠だ。」


「コウくんの悔しさ、私には理解できないよ?でもね、コウくんが自虐的になる必要なんてないんだよ?」

私はコウくんの正面から真っ直ぐに目を見る。


「もし、誰かがコウくんを責めたら私が守ってあげる。」

「もし、誰かがコウくんを認めなくても私が認めてあげる。」

「もし、誰かがコウくんを傷付けたら私が癒してあげる。」


「コウくんは戦犯じゃないんだよ?コウくんはヒーローなんだよ?だから下なんか向かないで?そんなの私が憧れるコウくんじゃないよ?コウくんは前だけ真っ直ぐ見てて?私はね?そんなコウくんのことがす・・・。」


・・・え⁈

思わず私は周りを見渡す。

みんな固唾を飲んで状況を見守ってる。

顔に熱が帯びてくるのがわかる。


間違いなく『やっちゃった!』って状況。

とりあえず、落ち着かなきゃ。

下手に逃げない方がいいよね?


「吉乃さん、ありがとうな。」

コウくんは私にお礼を言いながら私の頭に手をポンと置いた。


「吉乃さんの言うとおりだな。俺のせいで負けたなんて自惚れ過ぎだな。」

そう言うといつもの優しい笑顔を私に向けてくれた。


『お帰り。私の大好きなコウくん。』


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