第29話 主役不在

公佳のサッカーの大会が終わり、今日は家族を交えた打ち上げが行われるということで、私はお母さんと会場のホテルに来ている。


「ホテルで打ち上げなんて豪勢だね。」

周りを見渡しながらお母さんに話しかける。他の父兄も集まってきているので、すでに50人程会場入りしている。


その中で、私が見知った人を発見した。

うちの高校の生徒会副会長、纐纈綾音先輩。

言わずと知れたコウくんのお姉さん。

学校でも何度か見かけたことはあるけれど、直接話したことはない。

凛とした表情に目を奪われる。


私が先輩に目を奪われてると、ふと視線が重なった。

先輩は真っ直ぐ私を見つめながらこちらに歩み寄ってきた。


「こんにちは。」

その暖かい笑顔はコウくんを連想させるものがある。


「こんにちは。1-Aの吉乃史華です。妹がこのクラブに所属していて、先輩の弟さんとはバイト仲間です。」

「話をするのは初めてだよね?雅から総士がかわいい子とバイトしてるって聞いてたけど史華ちゃんのことだね。」

先輩の笑顔には男女問わず惹きつけられる威力があるみたい。


「コウくんにはいつも助けてもらってます。オーナーもすごく信頼してますよ。」

「まだまだガキよ。でも、まあ史華ちゃんからも信頼を得てるってことかな?」

信頼?もちろんしてる。コウくんの言葉を疑うことはない。

「はい。まだ付き合いは短いですけど信用できる人だって思ってます。同級生の私から見るとコウくんは大人びてみえますけど、先輩からみるとまだまだなんですね。」

きっとオーナー達からみてもそうなんだろうなって思うと自然と笑ってしまった。


「ふふ。総士なんてまだまだだよ〜。たぶん帰ってくるとわかるよ。だから、史華ちゃん。総士が帰ってきたら励ましてあげてね。あの子、かなり落ち込んでるみたい。」

先輩はお母さんらしき人に呼ばれて行ってしまった。


落ち込んでる?


大会中何かあったのかな?


私はスマホで大会の結果を検索してみた。

女子チームが初の3位になったのは公佳から聞いていたけど、男子はっと、あった。


準優勝!


すごい!全国で2位ってすごいよ。

メンバー表を見ても全試合でコウくんが出場して・・・気づいた。

決勝戦。

後半25分で退

たぶんこれのことだ。

試合はその後に失点して負けている。

コウくんは責任感が強いから負けたのは自分のせいだって思って落ち込んでるんだね。


入り口付近が騒がしくなってきた。

ジャージ姿の人達が入ってくる。

どうやら選手が到着したらしく拍手で迎えられている。


その中に公佳と飛鳥を見つけた。

2人もこっちに気づき手を振って近づいてきた。


「ただいま〜。」


いつの間にかお母さんも私の側にきていた。


「お帰り公佳。3位おめでとう!しかも3位決定戦出れたなんて良かったね。」

お母さんに労をねぎらわれて公佳も相好を崩している。


「ホント、ちっちゃいのにね。」

私もちょっと茶化し気味に、でも愛情を込めて労をねぎらった。


「あははは。ちっちゃいのはお互い様。私達はねベスト8の目標クリアできたから良かったんだけど、優勝目指してた男子はちょっと落ち込んでるかな?」

会場内には男子も入ってきているが、はしゃいだ様子もなく静かに集まってるって印象。

コウくんを探してみるけど姿は見当たらない。


「公佳、コウくんは?」

公佳なら何か知っているだろうと視線を向けた。


「ねぇ、お母さんの存在覚えてる?私も仲間に入れなさいよ。で、さっきから名前出てるコウくんって誰?」

お母さんが私達にジト目を向けてくる。


「コウくんは中学からのチームメイトで、いま史華の同級生でバイト仲間かな?今のところ。」

ね〜って公佳が私に同意を求めてくる。

何よ"今のところ"って。


「ふ〜ん。今のところね。確か公佳の彼氏は和真くんだもんね。」

ほら。公佳が意味ありげに言うもんだからお母さんも勘違いしてるし。


「そのうち公佳が葛城くんと別れてコウくんて付き合うかもね。」

公佳はコウくんの理解者だもん。

あり得なくはないよ?


「ちょっと史華。縁起でもないこと言わないでくれる?大丈夫よ。カズくんとはラブラブですから。」

お母さんもいるのに、公佳は顔を赤くしながらもアピールしてきた。


「はいはい、ごちそうさま。で、そのコウくんはいないとして和真くんもいないの?」

お母さんは周りをキョロキョロ。あまり気にしていなかったけど、葛城くんもいないみたい。お母さん、葛城くんに会うのも楽しみにしてたもんね。


「カズくんとコウくんは取材があったから別行動。他にも数人いないよ。」

取材!?びっくりした。代表に選ばれるほどの選手だっていう認識はあったけど取材とか聞くと、なんか遠い存在に思えてきちゃう。


そんなこと考えてたら背後から肩を叩かれた。

「史華ちゃん、総士が見つからないんだけど知らないかな?」

纐纈先輩もコウくんが見つからなくて探していたみたい。

「私も今、妹に聞いたばかりなんですけど、取材で別行動してるみたいですよ。」


先輩も公佳の存在に気付いたらしく、


「はじめまして、纐纈の姉です。えっと妹さん?うちの弟どんな様子だった?」

やっぱり先輩もコウくんを気にしてるみたいです。


「コウくんのお姉さん?はじめまして、吉乃公佳です。コウくんの様子ですか?そうですね・・・。」


公佳は少し考え込んでから、


「悔しがっていますけど、強がって表に出さないようにポーカーフェイス気取ってます。普段通りに見せようと頑張ってますけど、バレバレです。」


私の知る限り、香澄ちゃんよりも公佳の方がコウくんを理解しているような気がする。

妹はよく他人を観ている。

もちろん、私のこともね。

だから公佳に隠し事をするのは難しい。

葛城くんも苦労してるかもね。


「お集まりの皆様、そろそろ定刻となりましたのではじめさせていただきたいと思います。」

時計を見ると予定時間の17:00になっていた。




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