第28話 プールデート

「そうちゃん、おはよう。朝でも暑くなってきたね。」

いつものように早朝ランニングに向かうそうちゃんを襲撃する。

今私は学校がなくてもそうちゃんに会えるという喜びに浸っております。


「おう。せっかくの休みなんだからゆっくり寝とけよ。」

「寝てたらそうちゃんに会う機会減るじゃん!私の幸せ奪わないで!」

この人はなんて罪作りなんだろうと、私は真剣に思うわけですよ。


「やっすい幸せだな。」

そうちゃんはおかしそうに笑ってる。

やだっ!ちょっとその笑顔ずるいよ?

撮影するからスマホスマホ・・・、置いてきてるよ。走るのに邪魔だもん。私もそうちゃんみたいに腕に巻きつけるの買おうかな?


「ん、行けるか?」

そうちゃんに見惚れてるとふいに声をかけられた。

「あ、うん。大丈夫だよ。」

危ない危ない。見惚れてるのばれるところだったよ。


そうちゃんと走るのもだいぶ慣れてきたとは言っても、この暑さはなかなか慣れない。

「そういえば聖川。俺明日からしばらくいないから。」

折り返しの海沿いで休憩していると、そうちゃんから話しかけてくれた。

「そうなの?」

「明日から大会だから泊まり込みだ。」

最近ではたまにサッカーの話もしてくれるようになってきた。昔に戻ったみたいでなんだか無性にうれしい。


「あ、お前今日空いてるか?」

「へっ?今日?予定?私の?ち、ちょっ、じゃない!大丈夫!空いてる!空いてる!何かあっても開けるから!」

お誘い!そうちゃんからお誘い!

私は今、夢の中にいるの?

頬をギュッとつねってみる。


「いふぁい!」

夢じゃない!痛いよ!


「お前、何やってるの?大丈夫か?カズマとプール行こうと思ってたんだけど、カズマが吉乃に声掛けたら変な方向に話が逸れた挙句うやむやになったんだけど、どうしても今日行っておきたくてさ。市民プールだけど久しぶりに一緒に行くか?」


プール!そうちゃんとデート!

あ⁈どうしよう、水着がないよ。


なんてならないように毎年そうちゃんのために水着用意してあるもん!やっと役に立つよ!


「行くよ!市民プール上等だよ?何時に行く?お弁当作ろうか?」


「夕方からバイトだから10時くらいからでいいか?弁当はどっちでもいいぞ。いきなりで材料と時間あるか?」

ふふふ。甘い!甘いよそうちゃん?

いつ何があっても対応できるようにしてあるんだよ。突然のデートでも対応可能だよ?


「大丈夫!任せて。じゃあ10時に私が迎えに行くね。」

「おう。あ、なるべく控え目な水着にしてくれよ。お前はただでさえ人目引くんだから。特にビキニには気を付けろよ。」

そうちゃんが下卑た笑いをしてくる。


「もう!その記憶消して!今はそんなことならないし!後でそうちゃんの視線釘付けにしてみせるからね!」


♢♢♢♢♢


「お〜、似合ってるなその。」

白地に黄色ベースの花柄ビキニで腰には緑のパレオが巻かれている。


「かわいい上にそんな水着着てたらナンパの餌食だな。あまり俺から離れるなよ。清香。」

うん。妹の清香のことなんだよ。

かわいいでしょ?自慢の妹だもん。

知ってるよ?私より胸あるもん。

ビキニなくなったりしないよ。


「うん、お兄ちゃん。お姉ちゃんは大丈夫だから私をちゃんと見ててね。」

上目遣いでそうちゃんを見る。

あざといよ清香。

ずるいよ清香。


なんで清香がいるって?

それはね?


『お姉ちゃん何作ってるの?』

『ん?うふふ。これからそうちゃんとプールデートだからお弁当作ってるの。』

『ふ〜ん。じゃあ私も準備してくるね。』

『は〜い。』

パタパタ。

・・・

・・・

『え?ち、ちょっと清香?なんの準備してるの?』


『水着に決まってるじゃん。今までお姉ちゃんのせいで私まで構ってもらえなかったんだから私も行くに決まってるでしょ!』


「こんなはずじゃなかったのに。こんなはずじゃなかったのに。そうちゃんとのデートだったのに。」

パシッ。

「ひゃい。」

みやびちゃん、得意のチョップ?

周りを見渡すがみやびちゃんはいない。

変わりに上半身裸のそうちゃんが立っている。

「大きな声でなに叫んでるんだよ。かわいい妹が一緒でいいじゃないか。」

そうちゃんの浮気者〜。

私の喜びをかえ


「まあ、お前もやっぱりかわいいな。でも流石に黒のビキニは目立つんじゃないか?肌が白い分余計に目立つだろ。お前ら2人で視線集め過ぎ。お前もあまり離れるなよ。」

やばい!やばい!やばい!

今日のそうちゃん優し過ぎだよ!

どうしよう?離れるなって。

言質とったからね?

よ〜し!えいっ!

私は思い切ってそうちゃんの左手を握ってそのまま腕に抱きついた。

むにゅ。うん、胸が当たってるのはサ、サービスだからね?


「お、おい。、くっつけとは言ってないだろ?」

そうちゃんが困ったように言ってくるがとりあえず無視。

ん?お前たち?


顔上げそうちゃんの体越しに反対側をみると、清香がそうちゃんの右腕に抱きついてる。

しかも!しかもだよ?手は恋人つなぎしてる⁈

「き、清香?流石に中学生には早いよ!」

私は姉として毅然とした態度で注意した。もちろん、そうちゃんの腕は離さない!


「お姉ちゃんは遅れてるんだよ?今時のJCはこれくらい朝飯前。お兄ちゃんが望めば、さ、最後までできるもん!」

な、な、な。

「なにを言ってるの?清香にはまだ早いの!しかもその役割は私の仕事よ?」


ゴン!ゴン!


「ひゃっい。」「きゃっ。」


頭に激痛が走る。


「この変態姉妹め。」


あ、そうちゃん。


♢♢♢♢♢


「ったく、お前らは。恥じらいって言葉知らないのか?」

そうちゃんが呆れ顔で見てくる。


ただいま市民プールに併設されている公園にブルーシートを敷きお弁当の準備中。


「お兄ちゃん、さっきはお姉ちゃんに邪魔されたけど私は本気だからね。いつでもお兄ちゃんの想いを受け止めるからね。」

かわいい妹はそうちゃんの右腕に抱き付き、上目遣いで訴えている。


「こらっ、清香も手伝いなさい。全く、誰に似たのかしらねぇ。」

「お前だろ。この反面教師め!」

うっ!心当たりがあるだけに反論できない。


「ま、まあ気を取り直してお弁当食べよう?そうちゃんのために頑張ったんだよ?」

そう!やっと日頃の成果を発揮する日がきたんだから。

「じゃ、じゃあ、そうちゃん何から食べる?」

そうちゃんの返事を待ちながらお弁当を見渡していると、

「はい、お兄ちゃん。あ〜ん。」

清香が私自慢の卵焼きを箸でパッと掴んでそうちゃんの口に運んでいる。

「あ〜!清香抜け駆け!」

「早い者勝ちだも〜ん。」

清香はふんっとそっぽ向いた。


が作ってくれたんだろ?それには変わりないんだから焦らなくてもいいだろ?」

そうちゃんも諦めモードでされるがまま。

大人しく口を開けて卵焼きをパクリ。


「ん!うまい。さすが俺の好み押さえてるな。絶妙な甘さだ。しかも固まるちょい手前で半熟感も残ってる。95点だな。」

やっぱりおかしいよそうちゃん!

これ全部夢じゃないよね?

「むむむ。毎日晩御飯作ってるだけのことはあるね。じゃあ、お兄ちゃん。次はポテサラを。」

ふん。甘いよ清香。

この隙に私はおにぎりに海苔を巻きそうちゃんに手渡す。

「はい、そうちゃん。中身は梅干しだよ?夏バテしないようにしてね。」

明日から大会だって言ってたし、健康面もサポートしてあげたいな。


「サンキュー。やっぱりおにぎりはシンプルなのがいいよな。」

そうちゃん、昔から変わってないね。


「も〜!お姉ちゃんばっかりずるい!お兄ちゃん、今度は私がお弁当作るからね。」

「わかったわかった。清香の弁当も楽しみにしてるから。」

これって、また私達と出かける約束だよね?

そうちゃん言質取ったからね。


「そうちゃん、また一緒にお出掛けしようね?」

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