第27話 夏の日の

「カズマ。」

「なんだ?」


「暑い。」

「わざわざ口に出すな。」


7月中旬。

世間はもうすぐ夏休み。


俺たちはクラブユース選手権の地区大会も終わり、来月の全国大会に向けて調整中。


とは言っても同時に地域リーグ戦も行われてるので疲れは溜まっている。


「リフレッシュしたいな。市民プールでもいいから軽く泳ぎに行かないか?」

まあ、下心あると思われるのも嫌だからカズマと2人でだけど。

「プールか、いいけど市民プールか?味気ね〜よな?」

「別にお前と2人なんだから十分だろ?」

っと露骨に嫌そうな顔するなよ。


「お前と2人で行って楽しいわけないだろ。後でキミにも声かけてみるわ。」


それはそれで恥ずかしいんだけど。

そうなると残りのメンバーは飛鳥か。

まあ、スポーティタイプの胸だし特に意識しなくていい・・・は⁈

なぜか背後から殺気を感じる?

振り向いてみるとカズマと話おわったであろう吉乃と飛鳥がこっちに歩いてきていた。


「ねぇコウくん。今失礼なこと考えてなかった?私達の水着姿には色気がなさそうとか?」

「おい吉乃!言いがかりはやめろ!」

お前はエスパーか?

エスパー吉乃か!


「水着と言えばさあ、小4の時かな?聖川とプール行った時にあいつ背伸びしてビキニ着てきたんだけど、まだ成長前だったからプールに飛び込んだ時に勢いよく上の水着が取れちゃって。その後大騒ぎだったわ。」


いや、懐かしい話だ。


うん?吉乃さん?何かな?


「ねぇコウくん?さっきの流れからの今の話かな?私の胸は小4の頃の香澄ちゃんと変わらないってことかな?」


ニコニコしてる割にはプレッシャーが半端ない。

そんな話してないし。言いがかりも甚だしい。

「待て吉乃。言いがかりはやめてくれ。そんなこと言ってないだろ?」

と少し目線を下げて言ってしまった。


そう、ちょうど吉乃の胸元を見ながら。


「コウくん?セクハラで訴えたら勝てるかしらね?」


なに?そんなにコンプレックスなのか?

それともカズマに何か言われたか?


「ち、ちょっと落ち着けって。ホントに勘弁してくれよ。もうプールは1人でいくから忘れてくれ。」


あまりのプレッシャーに完敗した俺はさっさとロッカーに向かい、練習場を後にした。


それにしても吉乃のやつ、ちょっと拗れすぎじゃないか?


まあいいか。明日のバイト前に軽く泳ぎに行くかな。


♢♢♢♢♢


「え?」


「いや、だからね。冗談でコウくん責めてたら引っ込みつかなくなった挙句、呆れられて帰っちゃった。


「ごめん史華。この後バイトで一緒でしょ?明日練習休みだから直接謝れないし、さっきからメッセージ送ってるんだけど既読つかないから。それとなく謝罪してもらえる?」


公佳がやり過ぎるのも珍しけど、コウくんが怒っているなんて。あ、それとも呆れてる?


「それとなく聞いてはみるけど、あまり期待しないでよ。で、次会ったときはちゃんと謝ってね。」


とりあえずバイトに行く準備を終わらせたいので手短に電話を切った。


♢♢♢♢♢


「お疲れ様です。」


事務所の扉を開けて中に入るとコウくんが机に突っ伏して寝ている。


さっきまで暑い中練習してたから疲れたんだろうなぁ。

私は着替えを持ってパーテーションで仕切られた女性用の簡易更衣室で手早く着替えて、寝ているコウくんの隣に腰掛けた。


「コウくん?」


話しかけてみたけれど反応がない。

そばにスマホが置いてあるからアラームかけてるのかな?

まだ時間あるし起こすのは申し訳ない。

しばらくコウくんの寝顔を見ていると可愛らしくなってつい笑ってしまった。

「ふふっ。」

しかも、気付いた時には頭を撫でていた。

『あ、コウくんの髪の毛サラサラだ。』

練習上がりにシャワーを浴びたのだろうけど、すごく触り心地がいい。

ふいに事務所にいることを思い出し、撫でるのをやめようとしたら、ガシっと手を掴まれた。


「ひゃっ!」


ビックリして手を引っ込めようとしたら、何気にコウくんと目が合った。


「あ、ぁの、おはよう。」

少し、いえかなり狼狽えてしまった。

公佳とは違った意味でやってしまった。


「あ、吉乃さんか、おはよう。ん?ああごめん。なんで手握ってるんだ?とりあえずごめん。なんか寝ぼけてたみたいだわ。」

コウくんは欠伸をしながら手を離してくれた。


「う、うん。気にしてないよ。気にして・・・ないからね。うん。」

私がいたずらしてたのが原因なのに逆に謝らせちゃった。でもホントのこと言うのも恥ずかしいよ。


「吉乃さん、大丈夫?顔真っ赤だよ。そんなに外暑かった?」

都合よくコウくんは勘違いしてくれている。とりあえず便乗しておこう。


「うん。歩いてきたしね。も、もう夏だもんね。」

「だよな〜。熱中症気をつけてね。ちょっと待ってな。」

そう言うとコウくんは冷蔵庫からスポーツドリンクを取ってきてくれた。

「飲んでいいよ。」

「え?ありがとう。」

少々後ろめたいものを感じながらもコクンと一口飲んだ。


「そういえばさっきさ、カズマをプールに誘ったんだけど、カズマが吉乃にも声かけたらしいんだ。まあ、それはいいんだけどその後からめっちゃ機嫌悪くて困ったよ。おれ知らなうちに地雷踏んでたかな?」

コウくんが頬をかきながら話してくれた。


さっきのこともあり気がひける。

「うん、公佳から謝って置いてって連絡きてたよ。冗談半分だったのに引っ込みつかなくなったって。嫌な思いさせちゃってごめんね。」

「ああ、そう言うことだったのか。別に嫌な思いはしてないからいい。けどカズマとも約束できなくてうやむやになっちゃったな。まあ、軽く泳ぐだけだから当初の予定通り1人で行くか。」

最後の方は独り言のように呟いていたのでよく聞こえなかった。


「よし!そろそろ時間だし行こうか?」

コウくんに促されて、私達はお店へ降りて行った。


階段の途中、前を歩く背中を見つめながら、

『私で良ければ付き合うよ?』

と、コウくんに聞こえないくらいの声で呟いた。

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