第24話 桜川中学校ミニ同窓会

「ねぇ?ホントに行くの?」

私はなぜか飛鳥と手を繋いで歩いている。


「行くよ?私あそこのカルボナーラ好きだし。」


私達はいま"La Vecchia Signora"というお店に向かっています。


私が昼過ぎまでいたお店です。


「ねぇ、飛鳥。私達で話するなら違うお店にしない?私知ってる人ばかりだから話しにくいと思うんだけど。」

飛鳥が何を話したいのかよくわからない……こともなく、薄々コウくん絡みなんじゃないかとは思ってるんだけど、それなら尚更別のお店にして欲しい。だって今から行くと確実にコウくんがいる時間だし。


「え?あ、私は気にしないから大丈夫だよ。公佳も葛城くんも問題ないよね?」

飛鳥はとぼけながら公佳と葛城くんに確認する。


「私達も何も問題ないよ。と、いうよりもLa Vecchia Signoraがいいって感じだよね?」

公佳までうれしそうに言ってくる始末。

葛城くんもニコニコしてるだけ。

ホント、どんな悪巧みしてることやら。


♢♢♢♢♢


「いらっしゃ……い、ませ?」

あ、おかしくなった。

ちょっと目の前の光景に動揺しちまった。


気を取り直して、


「お客様、4名様ですか?」

とっておきの営業スマイルで応対する。


「そうです。禁煙席でお願いします。」

目の前のポニーテールのJKが言ってきたので、

「当店、全席禁煙席となっております。あちらの空いてるテーブル席でお願いします。」

ニコニコ顔の3人に困り顔の1人のグループが来店。

まあ、さっきまで別の場所で見た顔だな。


「あれ?吉乃さんじゃない?」

他のバイトも吉乃さんに気付く。

まあ、いろんな時間帯でシフト組んでるみたいだから大体顔見知りになってそうだな。


「ですね。大方、本人は嫌がったけど無理矢理連れてこられたってとこですね。可哀想に。」

吉乃さん、必要以上にキョロキョロして。

怪しいったらありゃしない。

はぁ、フォローしに行くか。


「ご注文はお決まりですか?」

一応ポーカーフェイスは得意のはずだ。

が、ここまで知り合いにニタニタされると不気味でしょうがない。


「俺はチーズインハンバーグセットの会計ソウくん持ちで。」

「チーズインハンバーグセット自腹ですね。」


「私はカルボナーラ大盛りで。」

「2倍の特盛りもできますが?大盛りは1.5倍になります。」

「いえ、私少食なんで大盛りでお願いします。」

少食で大盛りっておかしいだろう。


「店員さん。オススメはありますか?」

お!今の上目遣いな聞き方あざとい感じだな吉乃。

「そうですね。どれもオススメですが強いて言えばナポリタンになります。」

って、よく考えたらお前初めての来店じゃないじゃん!

「ふふ。じゃあ店員さんのオススメで。」

「あ、はい。」


最後は吉乃さん。

「どうしよう?せっかくだからまだ食べたことないのにしてみようかな?コウくん、明太オムライスお願いします。」

「はい。まだ食べたことなかったんだ。吉乃さん賄いでも意外なもの攻めてくからな。」

オーソドックスなとこは制覇してるのかと思ってた。

「昔からナポリタンばっかりだったから。」

少し恥ずかしそうに答えてくれた。


♢♢♢♢♢


「ご注文確認させていただきます。チーズインハンバーグセットお一つ、カルボナーラ大盛りをお一つ、ナポリタンをお一つ、明太オムライスをお一つ、以上でお間違いありませんか?」

「はい、大丈夫です。」

「しばらくお待ち下さい。」


コウくんは注文を伝えにキッチンへ向かって行った。


「お〜、さすがに慣れてるなぁ。」

「ちゃんとボケ返してきてたしね。」


葛城くんと飛鳥が感心しながら様子を伺っている。

自分が働いているときだと周りを見る余裕がまだ今の私にはない。

さっきからホール全体を見渡しているけど、コウくんの動き出しが他の人に比べるとワンテンポ早い。

じっと観察していると秘密がわかった。

コウくんは常に客席全体を見渡している。

そして状況を把握しているみたい。

1番テーブルのお客さんはお冷が残り少ない、3番テーブルのお客さんはもうすぐデザートが必要そう。

5番テーブルのお客さんは食事が残り少ないところでメニューを見ているから追加が入りそうとか。


サッカーの経験からきてるのかな?


動きにも無駄が少ない。

同じ方向の用事は極力一度で済ましている。


今まで気付けなかったことが、ここに座ってるといくつも見つけられる。


「おや?可愛らしいお客様ですねぇ。」

ふいに頭に手を乗せられた。

振り向いてみるとオーナーが和かに笑っていた。


「オーナー、忙しい時間帯にすみません。」


私が居心地悪そうに謝罪すると、


「何言ってるの?お客様連れてきてくれてありがと。そちらが妹さんだね?いつも助けてもらってます。」

オーナーが公佳に会釈した。


「妹の公佳です。姉がいつもお世話になってます。私もここのナポリタンのファンなんです。」

「ありがとう。あのナポリタンは私が考案したんだよ。意外と若い子にも好評で嬉しいよ。」


ナポリタンはどの年齢層にもご好評いただいてる。私もよく注文を受けている。


「で、話したいことって何?」

なんとなく趣旨はわかっているけど一応飛鳥に確認してみる。


飛鳥は一瞬『?』という表情を見せた。


「ちょっと、飛鳥が言い出したんだからね。何か話題あるんじゃないの?」


私もわざとらしく文句を言っておく。


「まあいいじゃない。久しぶりの同窓会よ。

名目はね?本題はディナーでもいただきながらにしましょう。」

意味ありげにニタニタしてきて。


「食事中のおしゃべりは推奨しませんが?」

私も意地悪く返しておきます。


そうこうしているうちに料理が運ばれてきた。


「で、飛鳥。好きなやつくらいできたか?」

「⁈ふ、げ、ゲホゲホ。葛城くん?なんで私の話なのよ!空気読めないわけ?」

葛城くんが飛鳥に切り込んでいった。


「え?しっかり流れ読んだスルーパスだろ?で、どうなんだよ?お前の色恋沙汰って噂すら聞かないから男子チームで噂になってるぞ。実は百合なんじゃないかってな。」


公佳も噂を知ってるみたいでおかしそうに笑ってる。

「ちょっと!そこしっかり否定しといてよ!私は百合じゃないって!」

冗談半分なんだからそんなに必死にならなくてもいいのに。飛鳥も自分の恋バナは苦手だもんね。


「わかった。飛鳥は男好きだって訂正しといてやるからな。」

葛城くん楽しそうだな。


「ちょっと!言葉間違えてるから!公佳、ちゃんと教育しなさい!」

「うんうん。カズくん、飛鳥からかうとお店に迷惑だからその辺にしておいてね。」

周りを見渡すと注目を集めていた。

あ、しまった。

よく見るとホールスタッフが声かけをして気を散らしてくれている。


後でちゃんと謝らなきゃ。

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