第22話 LIKE or LOVE?

学校が休みの祝祭日。

私は基本的に朝一からバイトをしている。


「おはようございます。」


「おはよ〜。」

オーナーがいつものようにカウンターで煙草をふかしながら新聞を読んでいる。


私は事務所で制服に着替えてキッチンへ。


「おはようございます。」


「史華ちゃん、おはよう。」

大学生の星野さんが今日は朝から一緒のシフトだ。

星野さんは土日一緒になることが多いのですっかり打ち解けている。


仕込みの準備を手伝おうと食器類を準備しているとある違和感に襲われた。


「星野さん、食器の場所何気に変わってませんか?いままで背伸びしてたのに取りやすい場所に変わってますよ。」


バイトの中では私が一番ちびっこだ。

だからみんなは不便に感じなかったかもしれない。


「ん?気づいた?昨日閉店後に野郎どもと移動したんだよ。」

「へ〜。野郎どもも優しいとこありますね。って、まさか史華ちゃんへの点数稼ぎ?」

いい話だったのに星野さんが変な方へ持って行ってしまった。


「まあ、ここだけの話しにしといてよ。総士が言い出したんだ。だからそう言った下心はないと思うよ。・・・たぶんね。」

そう言ってオーナーはおかしそうに笑い出しました。


「総士くんってどの子だろ?私まだ全員と会ったことないかも。」

星野さんは名前だけではわからないみたい。


「背の高い高校生です。纐纈総士くん、たぶん夕方からしか入ってないですね。」

やっぱり星野さんにはピンとこないみたい。


「まあ、見た目に特徴あるやつじゃないしね。普通だよ普通。」

オーナーはコウくんに対して評価が低いんじゃないかな?と思ってしまった。


「でも、すごく優しいんですよ。ちゃんと他人のこともよく見てくれてるし。さりげないんですけど嫌味がないし。ちゃんといいところは褒めてくれるし、だめなところは注意してくれるし。しかも、ちゃんとフォローしてくれるんです。普通じゃできないと思います。」


2人が私をじっと見ています。


「え?どうしましたか?」


「いや、普通ってのは見た目のことね。しかもいい意味で。例えば髪染めてるとか、刺青彫ってあるとかね。」

あれ?私やっちゃったのかな?

自分の言動を思い返して少し恥ずかしくなってしまった。


「あ、私ゴミ出してきますね。」

ゴミ袋がまだキッチンに放置してあったのでそれを持とうとしたら、右手を星野さんに掴まれた。


「まあまあ史華ちゃん。まだ時間に余裕があるから。ねえ、オーナー?」

星野さんはオーナーに同意を求めると、


「あまりいじめるなよ?史華がビクビクしてるじゃないか。」

星野さんに呆れ顔を向けながら準備に取り掛かった。


「ほら。星野さんも一生懸命働きましょう。」

一瞬の隙を突いて裏口から外に出た。


ゴミ袋を収集ボックスに入れ、ふ〜っと一息つく。

なんで熱心に説明してたんだろ?

間違ったことは言ってないつもりだけどなぁ。


♢♢♢♢♢


「お疲れ様でした。」


バイトが終わり裏口からお店をでた。


まだ14時を過ぎたばかりなので周りも明るい。


『コウくんに謝りたい』


私は昨日の晩から考えていた。


今日は練習後からのシフトになってるはずだから入りは18時から。


このままお店で待っているには長い時間だ。


いっそのこと練習場まで行こうかな?

公佳の応援で1、2回は行ったことがあるので場所はわかっている。


問題はそこから。

どうやってコウくんに声かけるか。

今日も自転車だろうから練習場出た後に捕まえるのも無理そうだし。

みんなといるところを呼び出すのは恥ずかしいし。

コウくんの連絡先知らないし。


結論が出ないまま悩んでいたら練習場に着いてしまった。


「あ、着いちゃった。」


芝生の鮮やかな色が太陽で照らされて眩しいくらい。


2面あるグラウンドで今は男女のチームが1面づつ使用している。


とりあえずコウくんがいるのを確認しようと男子の練習を見に行くと、そこには私が見たことないコウくんがいた。


いつもバイト中に見てるような柔らかい表情ではなく、鬼気迫るような厳しい表情をしていた。


紅白戦でもしてるのかな?

コウくんは後ろに下がって周りにパスを出すの繰り返しをしていた。時折、ドリブルで前に行こうとするがなかなか上手くいかないようだ。


そのまましばらくコウくんを目で追っていると、私を見る視線に気付いた。

フェンス越しだけど、すぐ目の前で公佳と飛鳥が私を見てた。


「熱心に見てるねフミ。やっと気付いてくれた?もう30分くらい前からいるよ。」

飛鳥が呆れ顔で話しかけてきた。


「ふふふ。実際は5分くらいね。バイト終わったんだ。コウくんの応援?」

公佳はニコニコしてる。


「そんなにボーっとしてたかな?応援じゃなくてね。昨日のこと謝っておきたくて。知らなかったとは言え無神経だったかなって思って。」


「そっか、たぶんコウくんは気にしてないと思うよ。もうすぐ終わるから待ってて。コウくんにも史華がいるって伝えておくからね。」


♢♢♢♢♢


「フミ〜、お待たせ。」

不意に抱きつかれた。


「ち、ちょっと飛鳥!恥ずかしいからやめてよ。」

周りにが人がいっぱいいるのに。

飛鳥は相変わらずマイペースだな。


「ごめん史華。コウくん居残り練習してるみたいで声掛けられなかった。」

公佳ぐ申し訳なさそうに両手を合わせた。


「あ、そうなんだ。ひょっとしてバイトの時間ギリギリまでやってくつもりかな?」


「たぶんな。」

公佳への問いかけに答えてくれたのは葛城くんだった。


「今日はソウの特訓みたいな感じでアイツだけ控え組で主力組の相手させられたからな。みんなアイツの癖みたいなのはわかってるから思ったようなプレーができなくてフラストレーション溜まってるんだろ。フリーキックの練習してたわ。」

だから厳しそうな表情だったのね。 


「じゃあ、また明日にするよ。史華はデート?それなら飛鳥、たまにはお茶でもしない?」

とりあえず今日は諦めようと予定を変更しようとしたら、


「なんで?中入ればいいじゃん。公佳連れて行ってやれよ。関係者と一緒なら何も言われないぞ。」

葛城くんが会いに行けと提案してきた。


「え?それこそ迷惑だよ。邪魔しちゃ悪いし今日は帰るよ。」

私が狼狽えてワタワタしてると、公佳と飛鳥に手を引っ張られた。


「大丈夫。コウくんはそんなことで怒らないよ。」

「そうそう。史華が応援に来たって聞けば喜んでくれるから。」



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