第21話 かわいいor綺麗

「ソウ!」


後ろのカズマから指示が飛ぶ。


相手のコースを限定し、カズマにボールを獲らせる。カズマはもう一枚のボランチの遠藤にボールを預ける。遠藤はすかさず逆サイドにボールを展開。


右サイドからのアーリークロスを頭で合わせて得点。


今日の練習試合は俺たち新加入組をどれだけ既存組に組み込めるかのテストだったらしい。


「おつかれ。」


「お疲れ様でした。」


ロッカールームで着替えてると、ふと遠藤が俺の隣に座った。


「なあ、纐纈。」

こいつは中学の部活から、ユースチームに加入してきた。


「どうした?」

なにやら話があるらしいがなかなか切り出せないらしい。


「あのな。浮気はだめだと思うんだ。」

うん?浮気?まあそうだろうな。


「なんだ、お前浮気してるのか?相談乗ってくれってことか?」

「いやいや。俺の話じゃないし。そもそも彼女なんていね〜よ。」

そんな遠い目するなよ。


「じゃあ何だよ。早く本題に入れよ。」

訳がわからないので少しイライラしてしまった。


「おう。じゃあ言うぞ。お前日曜に吉乃さんとデートしてただろ?」

うん?デート?


「は?なんで俺が吉乃とデートするんだよ。みんなで出かけることはあっても2人なんてないぞ。」

「まあ、確かにお前が吉乃さんに振られたのはここでは有名な話らしいからな。」

傷口に塩を塗るのはやめてくれ。

そんなに有名なのかよ。

まあ、それはいいとして日曜?

ああ、そう言うことか。


「遠藤。それって21時くらいか?」

「確かそれくらいだったな。」

はいはい。納得納得。


「確かにバイト帰りに送ったぞ。吉乃を。」

「お前、吉乃さんと同じバイトだったのか?じゃあデートって訳じゃなかったんだな?」


遠藤はやっと納得したような表情をした。


「吉乃は吉乃でも一緒にバイトしてるのは双子の姉の方だけどな。」

遠藤がおもしろい顔になっている。


「俺も吉乃が双子って最近知ったんだけどな。姉の方は俺と高校が一緒でたまたま同じバイトになったんだ。で、帰り暗い夜道は危ないからとオーナー命令で毎回送ってるって訳だ。」


「双子?そうか!じゃあうちの吉乃さんじゃなかったんだな。そうかそうか。いや、お前がどれだけ鬼畜でもさすがに親友の彼女に手は出さないだろうと思ってたところだ。うん。納得納得。」

まて遠藤!誰が鬼畜だ!

とりあえず一言言ってやろうと思っていたら背後から、


「ソウ。浮気は感心せんな〜。」

「ソノさん?都合のいいところだけ聞いてるのやめてもらえます?」

うちのエースで飛び級でU-23にも選出された園田勇次さん。

うちはこの人がいるおかげでトップ下を置いている。

オールドの10番タイプではないが9.5タイプで球出しからフィニッシュまで多岐にわたり活躍している。

俺はこの人のおかげで大したプレッシャーもなく伸び伸びプレーさせてもらっている。


「都合のいいところって失礼な。ソウが吉乃さんに振られた話題とかか?」

嬉しそうにニコニコしているが俺は知っている。


「それは有名かも知れませんが、ソノさん吉乃に振られた話は有名ですよ?」

そう。この人は俺が告白する前に吉乃に振られている。

まあ、噂によると吉乃に振られたのは二桁を越えてるとか越えてないとか。


「ん、ま、まあそれもそこそこ知られた話だな。で、ソウ。吉乃さんが双子でお前が毎晩送り狼なってるって話だけど。」

「ソノさん、脚色し過ぎて嘘バレバレなんで逆にいいっすけどね。」

軽くあしらわせていただきました。


「おい!かわいい後輩だな。で、かわいいの?」

「一卵性ですから姿形はまあ似てますよ。違いは吉乃はかわいい寄り、吉乃さんは綺麗寄りってとこですね。」

うん。俺の例えは完璧だと思う。


「そうか!で、どっちが付けなんだ?」

あ、そこっすか?


♢♢♢♢♢


「お疲れ様でした〜。」


「お疲れ様。吉乃さん、今日はいつもより早上がりなんだね。」


夕方から入るといつもならラストまでやっていく吉乃さんが珍しく早上がりだ。


「今日はお父さんの誕生日で公佳とご馳走作る予定になってるの。」

こんなかわいい娘2人に手料理で祝ってもらえる父親が世の中にどれだけいるだろうか。


「まだ明るいとはいえ、帰り道気をつけてね。」

「大丈夫だよコウくん。公佳はしっかりしてるんだから。コウくんもたまにはお父さん孝行してあげてね。」

お父さん孝行ね。

どうやってすればいいんだろうね?


そんなことを考えてるとオーナーに肩を叩かれた。

振り返ると頬に指が刺さった。


「ええ〜っと、じゃあオーナーお先に失礼します。」

吉乃さんは苦笑いを浮かべながら出て行った。


「・・・いい年してなにしてるんすか。」

「ま、働きたまえ若者。」

オーナーは優しく微笑みかけてくれた。


「まあ、お金稼がないといけませんからね。

それよりオーナー。食器類のレイアウトいじってもいいですか?」

前々からお願いしたかったことを口にした。


「具体的には?」


「大幅な変更はしないです。できれば上下の移動くらい。」

オーナーはこれだけ言ってわかってくれた。


「優しいね〜。いいよ。閉店後にやろうか。」


♢♢♢♢♢


バイトを始めてから一人で帰るのは初めてかも。

いつも暗くなってから帰宅するからコウくんが一緒に帰ってくれる。

手間だからいいよ。と断ってるんだけど、


『通り道だから。』といつも一緒に帰っている。香澄ちゃんに悪いな。


今日は1人なので少し寂しい。

コウくんはいつもとりとめない話題で和やかな雰囲気を作ってくれる。


私だって女だから少しは下心とか警戒してなかったわけじゃないけど、コウくんは寄り道もせずに家に送ってくれる。


公佳が迷ったってのわかるな〜。


駅前のスーパーまで行くと公佳が先に来ていた。

葛城くんと一緒に。


「お待たせ。」


「私達もさっき着いたとこだよ。バイト早上がりして大丈夫だった?」

ご馳走を作ろうって話は公佳が言い出したことだったから気にしてるんだろう。


「大丈夫だよ。コウくんもいるし。お父さんのお祝いって言ったらオーナーも納得してくれたし。」


「え?まさかコウくんの前で言ってないよね?」

公佳がなにかを気にしてるかのように聞いてきた。


「え?何か不味かった?ちゃんとコウくんもお父さん孝行してあげてねって言ってきたよ。」

葛城くんも少し表情が暗い気がする。


「ごめん。史華に話しておくべきだったね。コウくんのお父さんね、去年事故で亡くなったの。当時はすごく落ち込んでたけど、最近は明るくなってきてたから失念してたよ。」

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