第17話 翔栄高校サッカー部

毎年1回戦負け。


公式戦2年間未勝利。


進学校とは言えここまで勝てないとは思ってなかった。

私が入学してからは練習試合で1勝しただけだ。

今年で最後。

どんなに弱くてもこのチームには愛着がある。

即戦力の新入生をどれだけ獲得できるかが非常に重要だ。


♢♢♢♢♢


「これはすごいな。」


私は監督にこの前隠し撮りした1年のサッカーの試合を見せた。


「でしょ?ソウくん中心に撮影するつもりだったんだけど、センターバックの子もすごくって思わず撮影に熱がこもったよ。」

自宅のリビングにあるテレビにビデオを繋ぎ監督と2人で試合に魅入っている。


「ってか、玉乃と藤田だっけ?こいつらもいつもと全然違うな。うまく使。素人も混じってるから単純な戦力分析はできないけど、ゲームコントロールが秀逸だな。冴の中学時代の後輩だっけ?」


翔栄高校サッカー部監督の城山晴人。

母校のOBであり私の実の兄でもある。


「ボランチの子はね。纐纈総士くん。綾音の弟だよ。中学1年の時からトレセンには選ばれてたよ。一応勧誘はしてるけどクラブチームに入ってるからって断られた。」


「じゃあもうだめじゃん。どうみても引き抜いていいレベルじゃないぞ。それとも何か秘策でもあるか?」

兄さんの意見はもっともだ。

でもうちが勝てる可能性を一気に引き上げてくれる存在には間違いない。


「い、一応私には興味持ってくれてる。どこまで本気かわからないけどデートならいつでも受けてくれるって。」

実の兄に話すのは恥ずかしい。

しかもデートするから入部してくれってのは割に合わない。

付き合うなら?それともその先?

いろいろ想像していたら、


「おまえ、何想像してるんだよ。顔真っ赤だぞ。教師として不純異性交友は推奨できないぞ。」

「な、何馬鹿なこと言ってるのよ!そんなこと考えてないよ!」

図星を突かれた私は思わず上ずった声を出してしまった。


「とりあえず明日にでも綾音に相談してみるよ。」


♢♢♢♢♢


「無理。」


翌日、ソウくんのことを綾音に相談すると即答で答えが返ってきた。


「そんなアッサリと否定しないでよ。」

私は藁にもすがる思いで相談してるのに。


「はあ〜、まず1つ目。総士は他のチームに所属している。その2、総士にサッカー部に入るメリットがない。デメリットしかないよ。その3、サッカー部には木下がいる。中学時代、総士がサッカー部辞める原因作ったやつがね。」

いつもにも増して綾音は真剣な表情だ。


「木下くんに関しては私がフォローする。絶対にソウくんに被害を与えない。メリットがあるかどうかはソウくんにしかわからないんじゃないかな?」

私だって引けない。綾音が協力してくれるなら成功率は飛躍的に上がる。

親友としても協力して欲しい。


「さえ。できもしないこと言わないで。中学時代、総士に何かしてくれた?引退してるからって傍観してるだけだったよね?」

グウの音も出ない。

私は男子が怖くて何もできなかった。

でも今はあの時とは違う。

そう反論しようとすると、綾音はスマホを操作して私に画面を見せてきた。


「うちのサッカー部で総士を成長させてくれるの?」


私は高校サッカーかJリーグくらいしか知らない。この年代のクラブチームや代表なんて縁がないからだ。


"纐纈総士"


メンバー表はおろか、大会ベスト11にまで選出されていた。


「こ、これって同姓同名じゃ・・・。」

よく見ると写真も載っている。

間違いない、ソウくんだ。


「あの子はね。人一倍努力してきたんだよ。

いろんな苦労を重ねて今の総士があるの。だから余計なことに神経使って欲しくないの。この話はここまでね。もし、この先さえが総士に何かしたら親友と言えど容赦しないよ。」


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